親友

  二年半ぶりの親友との再会。俺が死んだことにする計画が始まってから、随分と龍二には迷惑をかけたものだ。


  馬鹿五人から上手く主導権を握り、俺を殺した瞬間をカメラに収め、それを編集した後は計画を唯一知っている異世界人として色々と動いていたのを知っている。


  俺と花音は仮面を外すと、龍二はその顔を懐かしむように眺めていた。


 「随分と大人っぽくなったな」

 「お?それは身長が殆ど伸びていない俺への嫌味か?その足切り落として5頭身ぐらいにしてやってもいいんだぞ?」

 「あはははは!!そういう所は相変わらずだな。花音も相変わらずのようだし」


  そう言って龍二は笑った後、俺の後ろに立っているイスを指さした。


 「んで?この子は誰?」

 「ウチの子」

 「は?お前と花音の子供ってことか?」

 「一応そうだな」

 「拾ってきたのか?」


  託されましたね。しかも相手は青竜ブルードラゴンって言う最上級魔物。


  今でも思う。なぜあの竜は俺達にこの卵を託して来たのだろうかと。


 「いや?生後二年の子供だよ」

 「子供っていうか、赤ん坊じゃねぇかそれ」


  龍二はそうツッコミながら、首を捻る。どうやらイスの正体が何かを考えているようだ。


  そして10秒後1つの結論に辿り着く。


 「あー分かったぞ。人化した魔物か?それなら可能性はあるな」

 「おー凄いな。ドンピシャだ。イス挨拶しなさい」


  イスは仮面を外して丁寧に挨拶をする。


 「イスなの。蒼黒氷竜ヘルの子供なの」

 「えーと蒼黒氷竜ってのはなんだ?」

 「厄災級魔物の一体だそうだぞ」

 「なるほど。だから強者の気配があるのか。俺よりも強そうだな」


  実際、イスの方が強いだろう。冷気を完全にシャットアウトできるような手段を持っていれば別かもしれないが、先程の魔王と戦っていたのを見ていた限りでは、そういうのはなかった。


  龍二はウンウンと頷きながら、イスの目線に合わせてしゃがみ手を差し出す。


 「俺は赤阪龍二。そこにいる.......君のパパとママのお友達だ。よろしくな」

 「よろしくなの。リュウジさん」


  がっしりと手を握り会う二人を見ながら、俺は花音に話しかける。


 「龍二のやつ大分変わったな。前よりも笑顔が綺麗になってやがる」

 「多分アイリスちゃんのお陰じゃない?ほら、恋人ができると人が変わるとか言うじゃん」

 「聞いた事ねぇよそんなの」


  結婚すると人が変わるとは聞いた事があるけどな。


  どうやらイスは龍二が気に入ったようで、少し雰囲気が柔らかい。流石は龍二。子供の機嫌の取り方もわかっている。


 「それで、全く連絡を寄越しもせずに何してたんだ?」

 「それを話す前に、1つ確認だ」


  俺は某刃に出てくる顔に刺青の入った鬼の真似をしながら、龍二にこう言った。


 「お前も揺レ動ク者グングニルにならないか?」

 「ならない」

 「...........」

 「...........」


  ........やっべ。こっからのセリフとか一切考えてないんだけど。どうしよう。ノリと勢いだけで始めたけど、終着点が見えないぞ。


  永遠に続くとも思えたその静寂は、それを見兼ねた花音が壊してくれた。


 「んーアイリスちゃんと一緒でも?」


  それを聞いた龍二は“やっぱ、知ってたか”と呟いたあと話し始める。


 「アイリスの一緒ならいいかもしれないが、それは無理だ。アイリスの立場がそれを許さない。それに、アイリスはこの国が好きなようだしな」

 「そっか。それは残念だね」


  やはり約束は破られた。まぁ、これでアイリス団長を捨ててまで俺達との約束を果たそうとするなら、手加減一切無しで殴ってた。


 龍二はちゃんと正しい選択をしたようで一安心だ。親友の綺麗な顔を無理やり整形する羽目にならなくてよかった。


 「そういやぁ、揺レ動ク者グングニルの面子はどうなっているんだ?昔は25人だっただろ?」

 「今は31人だな。正確には魔物が19体ダークエルフが3人、白色の獣人が5人、特殊が2体と俺の花音で31だ」


  子供たちを合わせたらもっと沢山になるが、それをすると万を軽く超える。


  ただ、それをやるとアンスールやメデューサの眷属も数に入ってしまうので、省いている。


  正確な数も分からないしね。


 「随分と大所帯だな。半分以上が魔物ってのもお前らしい」

 「いや、これに関しては完全に事故だ。本当は魔物じゃなくて、獣人やエルフとかも入った多種族傭兵団を作るつもりだったんだ。それが、色々あってな。結果魔物だらけの人外集団の出来上がりだ」

 「なんかお前が魔王として討伐されそうだもんな。その魔物達は強いのか?」

 「めっちゃ強い。一体を除いて全員厄災級魔物だし、その一体も最上級魔物。しかも、下手な厄災級魔物よりも強いぞ」

 「何その地獄。俺、厄災級魔物に会ったこそすらないのに」


  一応暴食の魔王ベルゼブブ君は厄災級魔物だぞ。弱かったけど。


 「ちょっと特殊な島に流れ着いてな。そこで仲間になったんだよ」

 「いや、そもそもどうやってその島に流れ着いたんだよ。聞いた事ないぞ?厄災級魔物が集まる島なんて」

 「いやぁ、それがさ」


  俺は頭をポリポリと掻いて、ちょっと恥ずかしそうに話す。


  事実、恥ずかしい。“俺の計画は完璧だぜ!!”みたいな雰囲気を出して出ていったから尚更。


 「それがさ?」

 「水って勢いよく叩きつけると一瞬固くなるじゃん」

 「あーコンクリートよりも硬くなるってやつ?......お前まさか」


  察しがいいな。流石は親友。


 「“水だし大丈夫っしょ、落ちる時リアリティ出すために頭から落ちよ”って思って落ちたら気絶した」

 「で、その島に流れ着いたと?」


  コクリと頷く。今思い出してもアホである。昔から調子に乗って怪我をするのは何度もあった。なぜ学ばないのか。


  花音は“そんなお茶目な仁は可愛い”とか言っているが、お茶目でもなんでもなくてただのバカだからね?


 「ぷ......プアッハハハハハ!!相変わらずアホだなお前は!!少し考えれば水がコンクリート並に硬くなることぐらい分かるだろうに!!どうせ自分の身体強化を過信したんだろ?お前の身体が鋼鉄ロボットアイアンマンだとしても、内蔵や脳みそはそのまんまなんだ。衝撃で身体が痛むことぐらい分かるだろうに!!」


  全くもってその通りである。過信して内部へのダメージを一切考えてなった。


  今思い出しても、どうやったらその思考になるのか聞きたいぐらいである。


  なぜあの時は、完璧な作戦だと思ったんですかねぇ......


 「まぁ、どんな事があれども、お前達が元気そうでよかったよ」

 「そうだな。何度か死にかけたけどこうして元気に話せてるんだ。終わりよければすべてよしってな」

 「まだ何も始まってないけどね」

 「「確かに」」


  薄暗く雲が覆う空の下で、俺達はその後もこの2年間に何があったのかを話し合うのだった。






報告:今日の22時に新作を上げる予定です。良かったら読んでください!!

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