何してた?

  師匠がイスの可愛さにやられた後、師匠は自分の前に置かれていたお菓子をイスにあげた。


  それにつられてアイリス団長もイスにお菓子をあげて、花音の上に座るイスの目の前にはお菓子がいっぱいである。


 「パパ!!全部食べていい?」

 「んー夕飯ちゃんと食べれるか?」

 「食べれるの!!」

 「ならいいぞ。ちゃんとお菓子をくれたお姉さん達にお礼を言ってな」

 「分かってるの!!ありがとうなの!!」


  元気よくお礼を言うイスに和みながら、ついでとばかりに俺の前にあったお菓子もイスの前に置いておく。


  俺は、クッキー系のお菓子があまり好きでは無いのだ。食べれない訳では無いが、美味しそうにお菓子を頬張るイスにあげた方がいい。


 「いいの?」

 「いいぞ。俺達は話があるから花音と仲良くお菓子と紅茶を堪能するといい」

 「うん!!」


  アイリス団長達と話すのは基本的に俺だ。花音は偶に話には参加するだろうが、基本的には黙っているだろう。


  イスに至っては話す事が無いだろうからな。精々甘やかすぐらいだ。


  そんな俺たちの様子を見ていたアイリス団長が、口を開く。


 「お前達の子供のことも色々と聞きたいが......先ずはこの二年と半年近くは何をやっていたんだ?」

 「1年と半年近くは修行をずっとしてて、残りは仲間集めをしていたな」

 「傭兵団揺レ動ク者グングニルだったか?ギルドを通して名乗っているのか?」


  アイリス団長の質問に答えるように、俺はギルドカードをマジックポーチから取り出す。街にはいる時以外にほとんど使ったことがないギルドカードは、未だに新品のように光り輝いていた。


  出してもすぐに仕舞うからな。身分証を確認する時にしか使われないし、そのチェックも一瞬だ。それに何度も同じ街に出入りしていると、段々と門番が俺の顔を覚えて顔パスのようになっていく。


  俺たちの場合は顔に蛇のタトゥーが入っており、全身黒づくめで背中に逆ケルト十字のマークがついている。更にいつも3人組であり、イスは髪の色が特徴的だ。


  自分で言うのもなんだが、こんな変人集団はそうそういない。


  ちなみに、いつも護衛代わりに頬っぺにいてくれる刺青黒蛇タトゥースネーク君は少し移動してもらって胸あたりに居てもらっている。


  流石に、アイリス団長達に昔使った“村の風習”言い訳は使えないからな。


 「ほう。ちゃんと傭兵ギルドから発行されたギルドカードじゃないか。どこの街で作った?」

 「其れは秘密だ。居場所がバレる」

 「バレると不味いのか?」

 「不味いな。主に団員が問題児ばかりだ。下手をすれば俺達が魔王として討伐されかねない」


  話の通じるアイリス団長や師匠なら言っても大丈夫だとは思うが、話が通じない者も多くいる。


  いづれバレる事なのでアイリス団長達には言うが、それを広めるかどうかは彼女達に任せよう。


  俺の言葉を聞いた、アイリス団長と師匠は首を傾げる。


 「どういう事だ?何か言えないような者達を雇っているのか?」

 「おい馬鹿弟子。勿体ぶらずにさっさと言え。ここでは何を言っても見逃してやる。悪魔でも雇ったのか?」


  流石に悪魔は雇ってねぇよ。いや、場合によっては悪魔よりもヤベー奴らばかりだけど。


 「悪魔はちょっと......魔王の眷属だぞ?どんな理由があろうと信用できない。ウチの団員は俺達を入れて全部で31名。魔物が19体にダークエルフが3人、白色の獣人が5人と俺と花音、それと特殊な奴が二体だ」


  特殊な奴は、イスの異能である死と霧の世界ヘルヘイムにいるモーズグズとガルムの事だ。魔物では無いが、だからといって何か種族に分けれるものでもない。


  イスの異能の中でしか活動できないやつだが、俺は仲間だと思っている。イスのこと第一とは言え、普通に良い奴らだしな。


 「.......は?お前の傭兵団は人間よりも魔物の方が多いのか?」

 「おいおい馬鹿弟子。遂に気でも狂ったか?マトモなのが白色の獣人だけじゃないか」


  流石に予想外だったのか、2人とも目を丸くしている。その魔物が厄災級魔物と知ったら、その顔はどうな風になるのだろうか。


  それと、暗にイスは人間じゃないと言ってみたが、2人とも反応が無い。まぁ、人化する魔物はドッペルゲンガーの様な魔物でないとなる事は出来ない。まず、魔物が人間になるという思考がないんだろうな。


 「いや、副団長。我が国では白色の獣人は普通扱いだが、獣王国では災いの子として迫害されていたはずだ。見方によっては全員魔物扱いだぞ」

 「そうなんですか?私はあまり他の国に興味がないので、知りませんでした」

 「ダークエルフは魔物だ。奴らは2500年前の戦争で魔王側についていたからな。おいジン。大丈夫なのか?お前の傭兵団の話を聞く限り問題しかない気がするんだが......」


  だから言ってるじゃん。問題児ばかりだって。


  なんならダークエルフの三姉妹が一番マトモだよ。話しやすいし、突拍子もないことをしたりもしない。獣人達もマトモっちゃマトモなのだが、全員キャラが濃いんだよな。


  若干ヤンデレ気味のモフモフちゃんに、女の子にしか見えない男の娘。戦闘のときになると性格が変わる夫にナチュラルサイコパスな妻。頭はいいし、仕事もできるが気になっている人と話すと緊張しまくって会話にならない初心うぶなエリート。


  あれ?何処がマトモなんだ?こうして改めてみると、問題しかない。もしかして、それ以上に問題児ばかりを相手にしていたからマトモに思えただけか?


  それでもキチンと言うことは聞くので、ほかの問題児に比べれば断然マシである。


 「問題は......ゼロとまでは言えないが、ほとんど無いな。ダークエルフだって代替わりしているんだぜ?それなのに先祖の過ちの責任を負い取らされて、本人たちは怒ってたな」

 「人間にか?」

 「まさか。自分達の先祖様にだよ。“面倒事だけを残しておっ死にやがって、冥府へ行ったら地獄の業火の中に放り込んでやる”って意気込んでたぐらいだ」

 「あははははは!!そいつは面白いな!!私も死んだ気に食わないやつの魂は地獄の業火で焼くとしよう!!」

 「辞めてくださいよ団長。そんな事をしたらかなりの数が業火に焼かれますよ?」

 「そうか?精々釜が一杯になる程度だろ?」


  どんだけ焼くつもりなんだよ。その釜の大きさにもよるだろうが、アイリス団長の思い描く釜なのだ。間違いなく大きい。


  その語も色々な話をした。傭兵団の事や俺が居ない間にあった出来事。


  大抵は子供達から盗み出した情報で知っていたが、それでも本人の口から聞くのではまた違った新鮮さがあった。


 「まぁ、どんな形であれ、お前達が元気でよかった。ずっと連絡が来なくて心配そうにしていた龍二にも、後で会ってこい」

 「分かってるよ。アイリス団長の愛しき恋人にあってくるさ」

 「んな?!どこでそれを?!」

 「アイリス団長はお忘れですかねぇ?俺達は、女神の神託よりも早く魔王の居場所を見つけた情報網を持っているんだぜ?その程度知っているに決まっているじゃないか」


  アイリス団長が龍二と付き合っていることを頑なに言わなかったので、最後の最後にちゃんと言っておく。この情報網(蜘蛛)に関しては、俺達の切り札とも言える存在なので、どんなにしつこく聞かれても一切答えなかった。


  人だと思っている時点で見つけることは出来ないので、適当にはぐらかせばそれでよし。やはり、言葉を理解して高度なやり取りができる魔物は貴重だな。


  サラッと龍二との関係を言われたアイリス団長は、顔を真っ赤にしてあたふたとする。


 「いや、その私とリュウジは別にそんなアレな事にはなってないぞ。ただちょっとアレでアレなだけで」

 「団長。何を言っているのか分かりません」

 「アイリスちゃん可愛い」

 「アイリス団長もこんな風になるんだな」

 「お顔真っ赤なの」

 「うぅ.........」


  最終的に顔を真っ赤にして黙りこくったアイリス団長を見て、龍二はいい人を手に入れたんだなと思うのだった。

 

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