んなわけねぇだろうがぁぁぁ!!

  アイリス団長に連れられてやってきたのは、大聖堂の一室だ。この部屋は運良く壊れなかったようで、綺麗な白い壁などがそのままになっている。


  それでも、地震の影響か少しヒビが入っているところも見られるが、塗り直せば問題ない程度ではある。


 「紅茶はお好きかな?」

 「えぇ」

 「それは良かった。一昨日入ったばかりの紅茶があるんだ。昨日は魔王対策の為に忙しくて飲めなかったが、客に出すという言い訳が有れば私も飲める」


  そう言いながら、アイリス団長は手際よく紅茶を入れていく。


  何度か紅茶を飲んでいるところを見たことはあるが、こんなに手際よく紅茶を入れていたんだな。そして、それをご馳走されるとは二年前なら思いもしなかった。


 「副団長。その菓子を適当に分けてくれ」

 「はい」


  師匠は頷くと、クッキーのような菓子を均等に分ける。イスがちょっと食べたそうにしているが、場を弁えてしっかり我慢している。


  偉いぞイス。ちゃんと我慢出来る子に育っててお父さん嬉しいよ。


  今この部屋にいるのは、アイリス団長と師匠、そして俺達の5人のみだ。


  龍二達はまだ悪魔達や魔王が復活しないかを警戒している為、この部屋にはいない。


  本当は龍二もこの部屋にいるはずだったのだが、光司達が仕事に戻るのに自分だけここに居るのは不自然だと思ったようで、光司達について行った。


  アイリス団長は、俺と龍二がとても仲のいい友人だと言うことを知っている。二年ぶりとなる友人同士の再会をさせてやろうと気を使ってくれたようだが、龍二は俺達の無事が知れればそれでいいと言った感じであり、イスのことは気になりつつも計画の事を考えて我慢してくれた。


  やはり、できる友人である。


  ニーナ姉は、馬鹿だから俺達の気配に気づいていないし、どこかでボロが出る可能性が高いのでこの席にはいない。


  ニーナ姉には申し訳ないが、これに関しては正しい判断だと思う。だって馬鹿だし。絶対にどこかでボロをだす。もしくは、ボロを出さないように頑張った事で、違和感が生まれてバレる。


  器用な人では無いのだ。


  人数分の紅茶と菓子を並べ終わったアイリス団長が席について、ニヤリと笑うといつも通りの口調で話しかけてきた。


 「久しぶりだな。我が教え子達。随分と大きくなったじゃないか」


  俺と花音は仮面を外し、フードを取る。二年ぶりに俺たちの顔を見たアイリス団長と師匠は嬉しそうに、俺たちの顔を見ていた。


 「そんなにじっと顔を見るなよ。龍二が嫉妬するぞ?」

 「いやいや。どこで何をやっていたのかは知らないが、随分と良い面構えになっているじゃないか......ところで仮面を外さないこの小さな方は誰だい?」

 「ん?あぁ、うちの子だ」

 「お前の団員なのは分かる。この方とはどのような関係だと聞いているんだ」

 「いやだから、うちの子なんだって。言い方を変えれば俺と花音の子供」

 「あー孤児なのか?」

 「いや?生まれた瞬間から俺達が育ててるぞ?」


  正確には、青竜ブルードラゴンと俺と花音の子供だが。未だになぜ俺達に卵を託したのか分からない。でも、この子に出会わせてくれた事には感謝しかない。


  あの世に行った時に、この子の土産話を沢山持っていくと言うのは俺の人生の目標の1つだ。


  さて、俺と花音の子供と聞いたアイリス団長達はイスをじっと見てうんうんと頷く。


 「おーそうかそうか。確かに二年も時があれば子供ぐらい作ったりするか。なぁ副団長?」

 「そうですね。ジンもカノンも子供では無いですし、子供の1人や2人ぐらい作りますよね........って」


  ここで一息置いたアイリス団長と師匠は、全く同じタイミングで叫んだ。


 「「んなわけねぇだろうがァァァァァァ!!」」


  おぉー凄い。これがノリツッコミってやつですか。2人ともちょっとキャラが崩壊しているが、今のはいいノリツッコミだったと思うぞ。


  アイリス団長はバン!!と机を叩くと、イスを指して叫ぶ。


 「子どもが二年でこんなに大きくなるわけねぇだろ!!身長的にどうみたって10歳ぐらいはあるだろうが!!」


  生後二年のれっきとした赤ちゃんですね。ドラゴンだけど。


 「そうだぞ馬鹿弟子!!孤児なんだろ?それとも奴隷か?別に孤児を攫おうが奴隷であろうが、ここでは見逃してやるから大人しく言え!!」


  いや師匠?それはそれでどうなんですか?仮にもこの神聖皇国の手本となる人がそんな発言するのはアウトでしょうに。


 「いやだから、本当に生まれたその時から育ててるんだって。ちょっと色々と事情はあるけども。イス。仮面とフード取っていいから挨拶しなさい」

 「はいなの」


  イスは仮面とフードを取ると、自己紹介をする。


 「イスなの。の子供なの。よろしく」


  何が原因かは知らないが、ちょっとイスはイラついているらしい。


  俺達の子供だという事を否定したからか?イスの沸点も偶に分からない時があるからなぁ.......そこは花音に似たかもしれん。似て欲しくはなかったけど。


  イスの顔を見たアイリス団長と師匠は、その可愛さに少し和みつつもしっかりと挨拶を返す。


 「アイリスだ。君のお父さんとお母さんの.......先生?をやってた。よろしくねイスちゃん」

 「シンナスだ。君のお父さんの師匠でもある。カノンは.......教え子かな。ともかく、よろしくね」


  流石にこの2人も子供の前では優しい口調になっており、イスを見る目は完全に近所の子供を見守るおば......お姉さんそのものだ。


  後、イスが不機嫌なのを感じ取っているのだろう。なるべく怒らせないように気を使っているのか見て取れた。


 「あーうん。まぁ、どちらにしろお前達の子供には変わりないからいいか。随分とお前たちには勿体ない可愛さがある子だな」


  アイリス団長はようやくここでイスに失礼な事を言っていることに気付いたようで、強引に話題を変えようとする。


  本人の目の前で言うような事では無かったな。そのせいでイスが不機嫌だよコノヤロー。


 「そうだな。俺達には勿体ないぐらい可愛くていい子だよ」

 「イスーこっちにおいでー」


  若干不機嫌なイスを花音は膝の上に乗せて頭を撫でてやる。イスは結構単純な子なので、直ぐに不機嫌さは無くなり花音の撫でる手を堪能し始めた。


  以前にも考えた事があるが、イスにも反抗期とか来るのだろうか。エルフの国での一件で、イスに嫌われた時のダメージが俺を殺しうる事が分かっている。


  出来れば反抗期など無く、すくすくと成長して欲しいものだ。


 「ほらイス。お菓子食べる?」

 「うん!!」


  かのんは自分のところにあったお菓子をイスにあげると、イスは嬉しそうにお菓子を食べ始める。


  俺はイスの席にあったお菓子と紅茶をイスの前に移動させた後、アイリス団長達との話に戻った。


 「なんて顔してんだ2人とも」

 「いや、龍二が見たらなんて言うのかと思ってな」

 「思っていた以上にイスちゃんが可愛くてな」


  アイリス団長はともかく、師匠はイスの可愛さにやられてしまったようだ。


  ニーナ姉は聞き分けがない上に、面倒事しか引き起こさない。可愛いかと言われれば、首を傾げざるをえないからな。


  イスは聞き分けがいいし、基本的にはいい子だ。子供らしさがありながら、しっかりとしている。


  うん、あの問題児であるニーナ姉と比べれば確かにうちの子の方が100倍は可愛い。師匠が我が子の可愛さにやられてしまうのは無理もないな。

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