久しぶりの再会
全身黒づくめの空き巣犯を捕え損ねた俺は、子供達に指示を出していた。
もちろん、跡を追わせる為だ。
転移にしろ
「ごめんなさいなの」
「いや、謝る必要は無いよイス。相手が一枚上手だっただけで、イスは悪くない」
そう言って俺は頭を撫でてやる。
そして、相手がただの空き巣犯では無いと分かった時には遅すぎた。それだけの話だ。
「まぁ、あの空き巣犯のことに関しては、後でも調べられる。今は、この場をどうするかだな」
「逃げる時の煙幕が凄い音だったもんね。間違いなく人が来るよ。ってか来てるよ」
あの空き巣犯め、面倒事を残していきやがって。
だが、コレはいい機会かもしれない。出るタイミングを完全に失っていたからな。
来るまではまだ少し時間がある。俺達は早く来ないかなと、のんびり待つのだった。
「そこのフードを被った3人組!!ここら辺で大きな音がしたが、何かあったのか?!」
ようやく現れた気配は、俺達がよく知る者達ばかりだ。
光司や黒百合さん。龍二にアイリス団長、師匠にニーナ姉、そしてさっき会ったばかりのジークフリードまでいる。
俺は仮面に備わった機能の一つであるボイスチェンジャーを使って、その質問に答えた。
「えぇ。人の居ない時を狙った悪質な空き巣が居ましてね。捕らえようとしたのですが、逃げられてしまいました」
話しかけられた俺達はゆっくりと振り返り、久しぶり、実に二年と半年ぶりに顔を合わせる友人達を見た。
龍二は身長がさらに高くなり、イケメン度が更に増した。なぜ神は、コイツばかり優遇するのだろうかその足を切り取って俺にくれ。少しは身長の足しになるだろうから。
光司は特に変わったところはない。彼の場合は、3年前から見た目のピークを維持し続けているのだろう。少しは老いてもええんやで?
黒百合さんは相変わらず美人だが、何となく花音と同じ匂いを感じる。そう言えば報告書で、周りはパートナーができているのに、自分には誰一人としていない事を気にしているってあったな。そのせいで少し性格が変わっているとも。
アイリス団長はいつも通りである。二年経とうがその若々しさは保たれており、寧ろ龍二という男がいる為か若返っている気もする。この人確か今は23歳とかだったかな?パッと見は18歳だ。
そして師匠ことシンナス副団長。この人も特に変わりはない。相変わらず美人でありながらカッコイイと言う、両取りをしている。この人は多分老いてもこんな感じなんだろうな。
そして最後にニーナ姉。姉弟子である彼女は大きく変わっており、身長がかなり伸びて俺と同じぐらいになっている。しかもモフモフ度がさらに増している為、花音が喜びそうだ。見た目もだいぶ大人っぽくなっており、相変わらず色気とかは無いがカッコ良さは増しただろう。このメンツの中では一番成長が見られる。
え?ジークフリード?この人はさっき会ったしいいでしょ。何も変わって無いし。
「.......随分と変わった見た目だね。仮面は取って貰えないのかい?」
「無理です」
「理由は?」
「言えません」
さて、こうして感動の再会を果たした訳だが、俺達の正体に気づいているのは四人だけ。
龍二は俺達の正体に気づいているものの、イスのことが気になっており1人でブツブツと何かを呟いている。
アイリス団長と師匠は気配で俺達だと分かると、誰からにも見えないようにサムズアップしてくる。辞めて、角度によってはほかの人にも見えるから。
そしてジークフリードは、その様子を見て楽しそうにニコニコとしていた。
ちなみに、ニーナ姉は俺達の正体を分かっていない。この人は馬鹿だからしょうが無い。
誰も助け舟を出そうとしねぇ。特にジークフリード。お前は俺達が何をやってたのか知ってるだろうが。
そんな事を思いながらも、光司の尋問は続く。
「もしかして、あの爆発音もあなた方が起こしたのでは?」
「それはいささか早計過ぎますね。だったら我々はここにはいませんよ」
「..........」
光司の尋問を適当にいなしているのだが、黒百合さんがずっと無言でこちらをみてくるのが正直に言う怖い。
もしかしてバレた?俺達だと分かってしまったのか?
そうやって内心焦り始めたその時、ようやくジークフリードが助け舟を出してくれた。
「コウジさん。この方々ですよ。僕が言っていた
「え?そうなんですか?」
「見た目こそ怪しいですが、助けられた人々から話を聞けば分かります。仮面を被って黒いコートに身を包んだ三人組が助けてくれたってね」
「なるほど......コレは失礼しました」
光司はそう言って頭を下げる。勇者として祭り上げられても、根底の部分は礼儀正しい正義感にあふれた良い奴は変わっていないな。
だからこそ、俺は少しこいつの事が苦手なのだが。
「いえいえ。この状況では私達が疑われるのも当然です。それにこの格好ですからね。紛らわしくて申し訳ない」
「いえいえ。早とちりした僕が悪いんです。えーと
なんかこのままだと、日本人特有の“いえいえ合戦”が始まりそうだな。お互いに不毛な会話をし続けるとになってしまいそうだ。
なんなんだろうね。あのいえいえ合戦。お互いがお互いを不快にさせないようにする為に気を使うとあぁなるのだろうか。
とりあえず俺は話題を変えることにした。
「ところで、街の復興は何時から始まるのですかね?我々もできる限り手伝おうと思うのですが......」
「それについては私から言わせてもらおう」
「これはこれは、聖堂異能遊撃団団長アイリス・リゼ・クローシルさんではありませんか。初めまして」
光司と変わって出てきたのはアイリス団長だ。その顔はどこか懐かしむ様な表情をしていた。三年前の事を思い出しているのだろう。
「復興は明日から直ぐに始まる。我々が想定していた被害よりも大分抑えられている上に、亡くなった人も少ない。聞いた話だと、魔王との戦闘の中瓦礫に埋まった人を助け出してくれたそうだな」
「えぇ。まぁ。やれる事がそのぐらいでしたので」
正確には、魔王君が弱すぎて出るタイミングを失ったから市民相手の点数稼ぎしかする事が無かった訳だが。
そんな事は言わなければ分からない。ここはもう“君達が魔王を倒すのは分かりきってきた”と言う態度でいた方がいい。
「神聖皇国の代表として感謝する。えーと」
あ、そう言えば名乗ってないわ。久々にみんなの顔を見れた事に感動してて、普通に忘れていた。
アイリス団長なら俺の本名を言ってもいいが、計画を進めている現段階で俺が生きている事を悟られるのは少々不都合が生じてしまう。
俺は慌てて自己紹介をした。
「失礼。名乗るのが遅れましたね。私は傭兵団
「そうか、感謝する。ウイルド殿。ところで、この後予定などはあるのか?」
「いえ、特には」
「それは良かった。ウイルド殿が良ければ礼を兼ねてお茶でもどうかな?ついでにあなた方を見込んでお願いしたいこともある」
「えぇ。喜んで」
こうして久しぶりの再会を果たした俺達は、アイリス団長に連れられて壊れた大聖堂に向かうのだった。
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