黒づくめの空き巣犯
ジークフリードとの再会を終えた俺達は、暇つぶしにぶらぶらと街の中を歩いていた。
子供たちの報告によると、龍二達は瓦礫に埋もれた人々の救出に動き出したようだが、もう遅い。
俺達が好感度稼ぎの為に全て助け出したからな。子供達のように気配を断てるような人が入れば別だが、そんな気配を完璧に消せるような人は間違いなく身体強化が使えるので自力で脱出できるだろう。
という訳で、特にやることも無くなった俺達は、お茶好きのオジサンがこんな中店をやっていたように、魔王が復活したのにも関わらず店を開く変わり者が居ないか探していた。
「やっぱり、店が無傷でも人が居ないな。どこもかしこも無人だ」
「あそこの店がおかしいだけで、コレが普通だからね?仁は、自分の家に爆弾が落ちてくるって知ってて逃げないの?」
「逃げるわ。光の速さで逃げるわ」
そう考えると、やはりあのドワーフのおっさんは頭のネジが何本か外れている。
あの店の店主がいかにぶっ飛んでいるかを考えながら歩いていると、人の気配が近くにある事に気づいた。
「んーこれは.......」
「多分黒だねぇ。浅はかだし、考えが足りてない」
「悪いヤツなの」
その気配は、かなり周囲を警戒しており、それでいてなるべく気配を消している。
コレだけならまだ魔王に怯える人と言えたかもしれないが、そこに悪意の気配があるのは頂けない。
まず間違いなく空き巣だろう。
魔王が討伐されたのを見て、人が居ない今がチャンスだと思ったのか?
この世界では科学技術が発展していないため、こういう空き巣を特定するのは難しいとされている。
狙われた店や家の人は、泣き寝入りするしか無いのだ。
「仕方ない。一手行動が遅れている聖堂騎士達はアテにならないから、俺達で捕らえておくか」
「ぐるぐる巻きにでもして吊るしておく?」
「いいんじゃないか?ついでに首から“僕は空き巣をしようとした悪い子です”って看板をぶら下げておけば完璧だ」
「何それ可愛い」
可愛いのか。相変わらず花音の感性は分からんなぁ。花音からすれば、蜘蛛や蛇を可愛いって言ってる俺の感性が分からんか。
そんなくだらない事を考えながら、俺達は空き巣をしようとする輩を目指して駆けていく。
「あれか。服装からして怪しさ満点だな」
「仁がそれ言う?今の私達の方がよっぽど怪しい格好しているよ」
「確かに」
全身黒づくめで顔の半分を隠した空き巣犯は、もう既に家を漁り終えたようでその場を立ち去ろうとする。
凄い早業だな。この場所に来るまでに1分しかかかってないのだが、その間に侵入して必要なものを全て漁ったのか。
明らかに手馴れている。コレが初めての空き巣では無いのだろうな。
俺は、そそくさと逃げ出そうとする空き巣犯に声をかける。こちらは気配を最大限まで消しているので、向こうは気づいていない。
「おい。そこで止まって両手を挙げて膝をつけ」
「同業者、という訳では無いですねぇ」
「聞こえなかったか?無駄口を叩く前に素直に俺の言葉に従え。それとも、腕と足をへし折られたいか?」
「ひっひっひっ。それは勘弁願いたい。商売道具なので......ねっ!!」
男はそう言うと、三本のナイフを投擲してくる。
凄いな。全く予備動作がなかった。
普通、ナイフを投げる時は構えて振りかぶって投擲の三手順を踏むのだが、彼は最初2つの動作を最小限で済ませている。
そのせいで、全く腕は動いていないのにナイフが飛んでくるという意味不明な事態になっている。
それでいて、かなり速度が出ている。俺たちから見れば欠伸が出るほど遅いが、ごく最小限の動きだけでこれほどの速度を投げれるこの男は何者なのだろうか。
投げられた三本のナイフは、的確に俺達の眉間を貫こうと迫ってくる。
「避けるまでもない」
「んなっ........」
こういうのは、なるべく余裕を持って対応した方がいい。俺達は、その投げられたナイフを仮面で受け止めた。
元々、厄災級魔物達と戦っても壊れないようにと設計された仮面だ。この程度では傷1つつかない。
まぁ、流石に厄災級魔物相手だと、顔面にマトモに攻撃食らったら粉々に仮面は砕け散るが。
「.....随分と頑丈な仮面ですね」
「そりゃどうも。この仮面を作った奴も喜ぶだろうよ」
「.......見逃して頂けませんかねぇ。私としてはあなた方とやり合いたくないのですが」
「こんなチンケなナイフとは言え、俺たちに攻撃してきてその言い様は無いんじゃないか?その提案は攻撃する前にするべきだったな。ところで、足元、大丈夫?」
「?!」
男が足元を確認すると、その足の半分が凍りついている。
気づかなかっただろ?イスの凍らせる異能は魔力の反応が薄いからな。しっかりとアンテナを張っていないと中々気づけない。
この男は、ナイフを投げた瞬間に警戒が緩んだ。それだけ自信があったということだろうが、もう2.3手は常に用意しておくべきだ。
「足が、動かない」
「よくやったぞイス」
「あの程度なら楽勝だよ。普通に弱い」
いや、身体の使い方や予備動作の無いナイフ投げ。魔物を相手にする冒険者基準で考えてはいけないかもしれないが、恐らく
内包している魔力があまり多くないので、奇襲メインの
それでも、周りが化け物揃いだったイスからすれば“普通に弱い”のだろう。俺からすれば、そのナイフを投げる技術は評価できる。
頑張って氷を破壊しようと、男はナイフを突き立てるがイスの作った理を逸脱した氷だ。その程度では砕けない。
「無駄だ。足が凍った事に気づけないお前では砕けない」
「ひっひっひっ。回収は無理でしたか。まぁいいでしょう。コレはついで。メインは既に終わってますしね」
男はそう言うと、何か玉を取り出して地面に思いっきり叩きつける。
ドン!!
と爆発音が響き渡り、白い煙が巻き上がる。
「イス!!逃がすなよ!!気になることを言ってた!!」
「分かってるの!!」
イスの魔力が高まり、氷を創り出すが気配がまるで感じない。
コレは恐らく逃げられたな?
煙が晴れると案の定、そこには男の姿は無く、代わりに一枚の紙が置かれていた。
『またどこかで会いましょう』
舐めやがって。次、見つけたら確実に捕らえ吐かせてやる。一体何を回収しようとしたのか、ほんの一瞬だけ垣間見えた本当の気配はなんなのか。
「ごめんさない。逃がしたの」
「気にするな。相手も馬鹿じゃなかった。それだけの話だ。ところで、どうやって氷から脱出したのか分かるか?」
「消えたの。突然、氷から感触がしなくなったの」
転移系の異能か?もしくは最初から
どちらにしろ、俺たちの知らない何かが動いている可能性がある。もっとしっかりと調べないとな。
俺は落ち込むイスの頭を撫でながら、既に消えて残った氷の残骸を見るのだった。
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「助かりましたよ。流石に逃げれなかったので」
男はそう言うと、自分を助け出した相手に礼を言う。
礼を言われたその者は、つまらなさそうに鼻を鳴らした。
「ふん。誰が好き好んでお前を助け出すものか。ところで、回収はできたのか?」
「無理でした。流石は禁忌。守りが硬い」
「まぁ、ついでに程度だったからな。失敗したならそれはそれでしょうがないか」
「ひっひっひっ。そう言っていただけると助かりますね」
そう笑うと、男達は闇へと消えていった。
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