初めまして
街はまだお祝いムードであり、誰一人として瓦礫に埋まっている人々を助けようとはしない。
気持ちは分からなくもないが、人を守るのが仕事である騎士団達は何をやっているのやら。
俺は魔王を討伐して担ぎあげられている勇者達を見ながら、再び探知を使って埋もれている人を捜索する。
「さっきのエルフの人、なんか凄く上品な感じだったねー」
「そういえばそうだな。随分と礼儀正しかったし、身につけてた服も大分高級品って感じだった。もしかしたら、ちょっとしたお金持ちのお嬢さまだったかもな」
「エルフのカナンちゃんか。今度調べさせてみる?すっごいお金持ちだったら、助けたお礼にお金たんまりかもよ?」
「別に金には困ってないだろ?最近は使っているのに何故か増えてんだから」
「やってる事は泥棒だけどねー」
人聞きの悪い。国に反旗を翻そうとしているような奴らの金庫から、ちょこっとお金を持ち出しているだけだ。
腐りきった正教会国はまだしも、神聖皇国にすらそういう組織があるのは驚きだった。
個人的には正教会国の上層部はあの世に行って欲しい上に、反旗を翻す理由がまともなので手は出していない。そりゃ家族を殺された復讐とかなら、納得できる理由だ。
神聖皇国の方の反乱分子はもはやギャグとしか言いようがない連中が多く、“神は俺達だ!!”と言って反乱を起こそうとしているやつもいれば、“魔王様こそ至高の存在!!”と言ってるやべーやつもいる。
その頭の悪さはある意味尊敬できるな。
そうなことを考えながら、次々と瓦礫に埋もれた人々を助け出していく。中には生きてはいるものの、治療を受けないと死ぬような人もおり、教会に行くまでに死にそうな人には簡易的な治療を施したりしていた。
俺達は治療関係の異能では無いので、魔術に頼らざるをえない。こんなところでも、ロムスから教わった事が役に立つのか。
教会まで運んでいくと、その仮面から怪しまれたりするものの怪我人を見て直ぐに対応してくれる。やはり、神聖皇国には優秀な人材が多いな。
こうして、30分ほどで殆どの人々を救出し終えた俺達は、のんびりととある店でお茶をしていた。
「まさか、こんな時にすら店を開くところがあるとは思わなかったな。根性座ってるとかそんな次元じゃないぞ」
「商売魂が逞しすぎるね。まぁ、こんな時に来るような客は私たちしかいないようだけど」
店内を見渡せば、そこは誰もいない空席ばかり。魔王が復活したって言うのに、呑気にお茶を飲みに来る奴なんているわけが無い。
お陰で、カウンター席を俺達で伸び伸びと使える。
「ははは。私のモットーは年中無休ですからね。ドワーフの身体は頑丈で風邪を引かないし、趣味がお茶を入れる事なので、ずっと店を開けているのですよ」
ケラケラと笑いながら、店主であるドワーフは紅茶とクッキーのようなお菓子を出してくれる。
いやだとしても、避難ぐらいはしようよ。今回の魔王復活は運良くここにまで戦闘の余波が飛んでくることは無かったけど、もし何かあったらどうするのやら。
「この店を開いてから長いのか?」
「えぇ。かれこれ15年はここで皆さんにお茶を出しているんですよ。雨の日も風の日も嵐の日も。たとえお客さんが来ないだろうなと思っていても、この店は開けているのです。流石に、誰も来ないと暇ですけどね」
「そして、魔王が復活しようが店を開く。一種の狂気だな」
「あっはっはっはっは!!常連にはよく言われますよ!!“お前の茶に対する熱意は本物だが、少々気が狂ってる”ってね!!」
ずんぐりむっくりとした体型で胸を張りながら、その長い髭をさすって笑う店主。
子供達の情報にこの店はなかった。いや、情報は上がっていても精査の時点で弾かれたんだろうな。だって魔王とは関係ないし。
俺は国の事情は知ることが出来たかもしれないが、こんなに面白い人を見逃していたのか。
今度、暇が出来たらこういう情報も漁ってみるとしよう。もしかしたら、思わぬ発見があるかもしれない。
「ウイルド」
「あぁ、分かってる」
俺は残りのお茶とお菓子を手早く食べ終えると、お代を払って店主にお礼を言っておく。
「こんな仮面を被った怪しいヤツを店に上げてくれて感謝する。またくるよ」
「えぇ。私が死なない限り、何時でもこの店の扉は貴方達を待ってますよ」
何そのセリフカッコイイ。やっぱりこういうナチュラルに頭のネジが外れている人は、人を引きつける何かがあるのだろうか。
あ、いや、ナチュラルに頭のネジが外れてても、普通にキチガイとしか思えないやつももちろんいるのだが。
俺はこっそりカウンターに金貨1枚を置いた後、店を出て誰もいない裏路地へと入っていく。
人目のあるところでの会話はなるべくしたくない。ボロが出ても困るからな。
しばらく歩くと、俺達は立ち止まり後をつけてきた不審者に声をかける。
「いやぁ。こんなにも同じ道を通るのは偶然ですかねぇ?聖堂騎士団第一団長ジークフリードさん?」
「いやはや。流石にバレてましたか。まぁ、バレるように後を付けたのですがね」
後ろを振り向けば、そこには爽やかイケメンが。
店でゆっくりしている時からずっとこちらを監視していたようで、気配も隠す気なし。暗に“君達と話したい”と言っているようなものだった。
俺としてはガン無視決め込んだら楽しそうだなーと思ったのだが、花音が視線を感じてると落ち着かないと言うので仕方がなく店を出ていくはめに。
「それで?
「..........そうだね。瓦礫に埋もれた人々を助け出していた三人組の仮面は君たちかい?」
「えぇまぁ。一応これでも傭兵団なのでね」
「傭兵団.....確か
「これはこれは。神聖皇国を代表する騎士団の方に名前を覚えていただけるとは幸いです」
よしよし、少しづつだが俺達の傭兵団の名前が広がっていっているな。今まで、この傭兵団の名前を知っているのバルサル出て受付をやっていたおばちゃんぐらいだったが、ようやく認知され始めた。
まぁ、今までが名前を広げる気がなかったんだけどさ。
「.......君達にその気が無いのなら、これは野暮になるかもしれないが。1つだけ言わせてくれないか?」
「どうぞ。ここら辺に聞き耳を立てるネズミはいないので」
蜘蛛はいるけどね。魔王を討伐し終えたと同時に、子供達は再度この街に潜伏させている。これからも頑張って情報を抜き取ってくれ。
「
「......」
「おっと、前置きが長かったね。
「その
その言葉を聞いたジークフリードは、満足気に頷いた後懐から袋を取り出してこちらへ投げてきた。
反射的に受け取ると、そこには金貨が詰まっていた。
「それは僕なりのお礼さ。今度は
そう言ってジークフリードは去っていった。
「バレてたね」
「相手は神聖皇国内最強の騎士だ。はなから騙せるとは思ってないよ。一応俺達のやりたい事も知っていたようだし、今後は話も合わせてくれるだろ」
俺は金貨の入った袋を仕舞うと、いつかまた手合わせ願おうと心に決めるのだった。
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