魔王君さぁ.........
空気を、大地を揺らすほどの大歓声が響く中、俺達は塵となって消えていく魔王に対して悪態を着く。
せっかく俺が考えた登場シーンが台無しだ。犠牲が無いことは喜ばしいことではあるが、苦戦らしき苦戦が無く殺られるのは聞いてないぞ。
「マジでおっ死にやがった。仮にも魔王だろ?もっと頑張れよ.......」
「仁、終わった事を言っても無駄だよ。厄災級よりも強いと噂されていた魔王様は、勇者とその仲間達に苦戦されることなく死んだんだから」
「いやでも、あんなにカッコよく登場しておいて、特に活躍とかせずに死ぬのはないわ。こういうのは、魔王に苦戦しながら倒すから盛り上がるのであって、リンチにされたらただの狩りだろ」
「どこ視点の何を話しているんですかねぇ.......」
ほんと、魔王君さぁ........君、魔王って自覚ある?魔王なんだよ?世界の敵なんだよ?そんな君がフルボッコのリンチにとかダメでしょうに。
悪役に傲慢さは必要だが、それで自分の首をしてめいたら世話がない。暴食の魔王ベルゼブブは、勇者たちの力量を見誤ったと同時に、油断しすぎだ。
まさか、ほかの魔王達もこんなに傲慢で弱い訳じゃないよな?次にどこのどんな魔王が復活するのか知らないが、この暴食の魔王よりマシなことを祈ろう。
「それで、どうするの?私達の正体を知っているのはロムスさんだけだし、このまま闇に消える事もできるよ?」
魔王を討伐して、ゆっくりと空から降りてくる龍二達を見ながら俺は考える。
このまま消えても龍二は何も言わないだろう。俺達が生きていることを確認できているのだから、特に心配もせずに魔王討伐の喜びを分かち合いながら笑うはずだ。
アイリス団長や師匠に関しては、次会った時が怖いぐらいで別に今、会わなくても問題は無い。間違いなく龍二が、今日俺達が来ているって言ってそうだから、顔を出さないと怒られそう。
だが、この街の惨状を見るとそうも言っていられない。街の至る所が崩れており、閉じ込められた人などはある程度助け出したものの、まだ魔王と戦闘していた近くの建物辺りに取り残された人達は助けを待っている。
それに、復興には人手はいくつあっても足りないだろう。
俺達の最終目標を考えると、今は1秒でも早く復興に取り掛かってもらいたい。
一応人助けしてましたって言う言い訳は用意してあるので、ここは残ることにしよう。
「いや、俺達の目的は魔王討伐が終わったその先だ。今は復興に手を貸すべきだし、他の魔王復活には至る所に目を放っている。連絡手段もあるから直ぐに動ける」
「となると、今やることは戦闘区域の瓦礫に埋まっている人命救助って訳だね?」
「そうなるな。人助けしていれば、嫌でも顔は合わせるだろうし、
「大丈夫。みんな仁より龍二を見てたから」
「それはそれで悲しいんだが」
サラッと毒を吐く花音と、静かに俺たちの会話を聞く空気の読めるイスを連れて戦闘区域の瓦礫に埋もれた人達を助けに向かう。
俺達がやるべき事は、魔王を倒した勇者たちに賞賛を送るのではなく、暗闇で怯える力無き人々を救う事。
なんてカッコイイことを言ってみるが、本音は魔王討伐による
探知を全力で使いながら、戦闘区域を走り抜けて瓦礫に埋まっている人を見つけ出す。
「じ......じゃなくてウイルド。異能は使うの?」
「使わない。魔王とドンパチやってた時は人目がなかったし、助け出した人達は恐怖で周りが見えてなかったから俺の異能を見てはいない。なるべく自分達の力は隠しておいた方がいい。今はまだな」
「分かった。バレないように異能を使うのはいいって事だね?」
「まぁ、バレなきゃ、使ってないと同じか」
「分かったのー」
瓦礫に埋まっている人の所まで辿り着くと、先ずは声をかける。何度も人を救助しているうちに、かなり慣れてきた。
先ずは声をかけて安心させる。見た目が仮面を被った怪しい俺達なら尚更大事である。第一印象、大事。
「助けて!!誰か!!」
瓦礫の中から助けを求める声が聞こえてくる。この人も、運良く瓦礫の隙間に入って助かった人だろうな。声からして女性。種族まではさすがに分からんけど。
「大丈夫ですか?安心してください。今助けるので落ち着いてください」
「で、でも!!悪魔が!!魔王が!!」
「落ち着いてください。魔王は既に討伐されました。貴方も聞いたでしょ?大地を揺らす歓声を」
「........確かに」
随分と冷静な人のようだ。中には話が通じない人とかもいたからな。
気持ちは分からないでもない。狭い暗闇の中で、いつ崩れるか分からない恐怖が押し寄せるのだ。
身体強化を使うことが出来れば、多少の衝撃には耐えれるものの、怪我をする恐れは大いにある。
「お独りですか?それとも中に一緒に誰か?」
「ひ、1人です」
「分かりました。少し時間はかかりますが、瓦礫をどかしていくので、それまではそこから動かないでください」
「は、はい」
俺達は身体強化を使ってテキパキと瓦礫をどかしていく。もちろん、どの瓦礫を退かせば崩れないとかなどは全く分からないので、イスがこっそり異能を使ってその氷で瓦礫を固定している。
絶対に見えない隙間にほんの少しの氷で固定しているため、傍から見れば異能を使っているようになど見えないだろう。
「ギューフそこを退かせ」
「これ?」
「そう。多分それを退かせば外に出られるはずだ」
俺の指示通りに瓦礫を退かすと、女性の姿が目に入る。どうやらエルフの人だったようだ。
そう言えば、精霊樹の事を教えてくれた婆さんは元気にやっているのだろうか。また今度話を聞きにいきたいな。
「手を掴んでください。引き上げますので」
「ありがとうございます」
今回は落とし穴のように縦に穴が空いているので、手を差し伸べて瓦礫の上に引き上げる。
思いっきり引き上げると、肩が外れる可能性があるため優しく引いあげた。もしこれが龍二相手だったら、一本釣りのように上に腕を振り上げていただろう。
引き上げられたエルフの女性は、自分の身体についた砂埃を払ったあと俺達にお礼を言う。
「ありがとうございました。お陰で声が枯れずに済みした」
「あはは。それは良かった。声が枯れると戻るまで時間がかかりますからね.......教会まで歩けますか?我々はまだ瓦礫に埋もれている人を助けなければならないので」
「大丈夫です。このご恩はいづれお返しします。ところでお名前は......」
このやり取りも何度目だろうか。助けた人達は必ず俺達の名前を聞きたがる。仮面を被ってるからか?
仮面に怯えられるよりかはマシだからいいけどさ。
「我々は傭兵団
俺の自己紹介を終えると、エルフの女性は後ろの花音達を見る。何も言ってないが、要は“お名前は?”と聞いているのだろう。
花音もそれを察したのか、簡単に自己紹介をする。
「同じく
「イス。またの機会に」
普段は子供らしい言葉使いのイスも、こういう時はキチンとした言葉使いをする。
「私はカナン。この御恩は忘れません。ありがとうございます」
そう言って再び頭を下げた後、教会へとカナンは歩いていった。
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