魔王討伐

  ロムスはこの後まだやる事があるそうで、一旦ここでお別れをした。


  もちろん、俺たちの正体の事は黙っててくれるようだ。


 「んー仁、これ不味くない?本当にこのまま討伐されそうだよ?しかも、誰一人としてピンチになること無く」

 「あぁ、それは俺が1番思ってる。だけど俺は信じているぞ。最初は気持ち悪い奴だし早く死なねぇかなと思っていたけど、今は何とか一矢報いてくれと思ってる」

 「アレ?仁は人類の敵だった?」

 「パパ、その発言はアウトなの」


  花音とイスにツッコミをされながらも、俺は魔王が第二形態を残していることを心の底から祈る。


  ジークフリードが魔王討伐に参加してからというもの、龍二達の方が圧倒的に有利な状況になり始めた。


  暴食の魔王ベルゼブブは、最早その攻撃を避けたり防いだりする事が限界のようで、反撃を一切していない。


  もう、魔王の威厳が欠片も感じられないのだ。


  誰か一人でもピンチになれば、俺が颯爽と駆けつけて助けようと思っていたのだが、そもそも攻撃されなければピンチになることもない。


 「どーしよう。どうやって登場しようかな。今行っても混乱を招くだけだし、全てが終わった後に行くと“何をしていたんだオメー”ってなるだろ?これ」

 「間違いなくなるだろうね。龍二は何となく察して笑いそうだけど、アイリスちゃん辺りは怒りそう。来るのが遅いって」

 「うわぁ、嫌だなぁ。やっぱり魔王に頑張ってもらうしかないじゃないか」

 「魔王の討伐は簡単そうだったから、人助けしてたって言うのはダメなの?」

 「.......さては天才か?」


  イスが神がかった解決策を言ってくれる。なるほど。それなら魔王討伐に参加していなくても、何も文句を言われることは無いし、俺達の格好もつく。


  いやそもそも、魔王君がもっと頑張ってくれれば良かった話なのに。


  なんでこんなに魔王は弱いん?魔王なんでしょ?もっと頑張れよ。


  既にボロボロになって、再生能力も使うとこが難しくなってきた魔王は、まるで獅子に囲まれた子鹿だ。


  何とか逃げ出そうとするが、それを全員で止められて後はトドメを刺されるだけの状態になっている。


  残りの魔力残量から見て何か手があるとは思えないし、本当にこのまま殺られる可能性が高くなってきたな。


 「それにしても、ジークフリードが強いな。もう彼が勇者でいいんじゃない?ってぐらいに強い」

 「確か、魔導師だったよね。あの人って」

 「んーと風属性魔法を使ってた気がしたな。その気になれば竜巻とか起こせるんじゃないのか?」

 「私達の周りで魔法を使えるのはシルフォードとトリスだけだから、魔法に関してはあまり詳しくないんだよねぇー」


  しかもシルフォードは火、トリスは水だ。風属性魔法に関しては、資料で見た程度しか知らない。


  実際に風属性魔法がどのような攻撃をするのか知らないのは、結構致命的である。その為、ジークフリードの魔法を見ては“こんなのもあるんだ”と思っているが、かなり厄介な魔法なのでは無いのだろうか。


  基本的に魔法による攻撃は目に見えるものが多いのだが、風属性魔法はその殆どを視認することができない。


  そりゃ、風って空気だからね。ある意味不可視の攻撃というわけだ。魔力の動きで探知は出来るものの、目に映らないのはかなり面倒である。


  どうしても、人は目に映るものに反応するからな。実物の剣を振るいながら、ほんの少しのディレイをかけて全く同じ軌道の斬撃を飛ばされようものなら、並大抵の人間は引っかかって風の刃に切り飛ばさせることになる。


  厄介極まりない魔法だ。


 「しかもあの人、魔王が反撃をしようとした瞬間を狙って、的確に攻撃を当てている。流石は聖堂騎士団の第一団長だな。昔に手合せして貰った時が、いかに手を抜かれていたのかが分かる」

 「動きが龍二達よりもいいからね。こればかりは経験の差なんじゃない?」

 「だろうな。たった三年程度で仕上げた戦闘技術と、十数年磨いてきたその一振の価値が一緒な訳が無い」


  こうして話している間にも、魔王にはバカスカと攻撃が当たり、着実に死へと追い込んでいる。


  4枚あった大きな羽は既に2枚まで減っており、8本あった手足も5本にまで減っている。


  確かに強さだけで見れば、厄災級と言われても過言ではない程の強さを持っているであろう魔王だが、流石に灰輝級ミスリル冒険者程の強さを持った者達を相手と戦うのは厳しかったのかもしれない。


  自分の強さを奢ってた魔王は、相手の力量差を見抜けなかったのだ。これが、アンスールやストリゴイならば結果はまた違っただろう。


 「相手が人間だと侮りすぎてたのが仇となったな。最初から本気でやっていれば結果は違っただろうに」

 「そのせいで、私達の出番が無くなりかけていることについて一言」

 「.......だって魔王だよ?!魔王って言ったらラスボスじゃん!!絶対強いじゃん!!倒れゆく仲間達、それでも諦めない勇者!!そして颯爽と現れてカッコよく手助けする俺達!!そんな事考えても許されそうじゃん!!だって相手は魔王なんだから!!出番が無くなりそうなのは、俺の判断が甘いんじゃなくて、魔王が弱いのが悪い!!」

 「うわぁ、ひっどい責任転嫁。こういう輩が蔓延っているから、世界は良くならないんやなって」

 「パパ、かっこ悪いの」


  花音とイスの冷めた視線を感じながら、俺は魔王に恨みを持つのだった。


  くそぅ!!どれもこれも全部魔王って奴が弱いから悪いんだ!!こうなったら、今度俺と退治することになったら魔王に八つ当たりしてやる!!


  魔王からすればいい迷惑だろうが、ボコスカにしてやらないと俺の気が収まらない。弱いことを悔いてあの世にいくんだな!!......次の魔王がいつ、どこで現れるのか知らないけど。


  そんなやり取りをしていると、光司の声が耳に入ってくる。


 「コレで終わりだァァァァァ!!」


  それなりに距離があるのにも関わらず、ここまで響く程の大声を上げながら、その煌めく聖剣を振り下ろす。


  魔王は何とか防ごうと、残った魔力で幕のような物を作ったが、その程度の防御をソハヤノツルギが切り裂けないわけが無い。


  ザン!!と魔王の脳天から胴体にかけて一直線に断ち切られた。


『.........』


  魔王は最後の遺言を残す事なく、その姿を塵へと変えていく。


  足先から徐々に塵となって消えていくその魔王の姿を、この街全ての人々が眺めていた。


  もちろん俺も、消えゆく魔王を見ていた。中から本体のような物が出てきて、第2ラウンドとかならないかなと思いながら。


  しかし、俺の期待とは裏腹に、魔王は静かに消えゆくだけだった。


  あーどうしよう。本当にどうしよう。絶対に何か言われるよ。人助けしていたのは確かにそうだけど、顔を出してから人助けに行けやとか言われそうだよ。


  それに、実はちょっと魔王と戦ってはみたかった。それがお預けになったのも残念だし。


 「なんでこんなに魔王が弱いんだよ。期待はずれすぎるだろ」

 「なんで魔王が最小限の被害で討伐できたのに、仁はガッカリしているんですかねぇ......」


  街が歓声に湧き上がる中、俺は静かにため息をつくのだった。

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