再会

  聖堂騎士団第一団長であるジークフリードが、悪魔を瞬殺したのを感じ取った俺たちは、再び魔王と戦う龍二達を見ていた。


  魔王であるベルゼブブに向かって、ありとあらゆる魔法や異能が飛び交い、その魔法を避けたり当たったりした隙を狙って龍二達が攻撃を仕掛ける。


  魔王が周りの雑兵から排除しようとしても、その動きが隙となって龍二達にボコさせるという、1種のハメ状態のようになっていた。


  つまり、俺の完璧な登場計画が無に帰す可能性が高くなった訳だ。


  やっべどうしよう。このままだと魔王を倒し終わった後に、ヒョロっと登場する羽目になる。


  だからと言って、今無理やり出ていっても混乱を招くだけであり、下手をしたら魔王に有利に働くかもしれない。


  今、俺に出来ることは、魔王が第二段階を残していて、めっちゃ強くなってくれるという事を祈るだけだ。


  気持ち悪いから早く死んで欲しいけど、もう少し頑張って一矢報いてから死んでくれ。俺の登場シーンを作ってお願い。


 「ねぇ、そういえば聖女さんはどこいったのかな?」


  俺が心の中で魔王を少しだけ応援していると、花音が俺に話しかけてくる。


  そういえば、確かに聖女様は見当たらないな。探知にも、それらしき人物は引っかからない。


 「本当だ。言われてみれば、聖女様が居ねぇ。あの人確か、一緒に戦うみたいなこと言ってたよな?」

 「言ってたね。どこにもいないのか、それとも私達の探知を上回る程隠密に優れているのか」

 「隠密に関しては流石に無いと思うけどな。聖女様は、そういう訓練はほとんど積んでないそうだし」

 「こういう時に、子供達が居れば簡単に探し出せるんだけどね」

 「それはしょうがない。この戦闘の余波に巻き込まれて死なれても困るからな」


  子供達は影に入っていればほぼ無敵だが、影が無くなると途端に弱くなる。


  しかも、いきなり影から日に出ると蜘蛛も影から放り出されてしまう。


  特に、今回のような光魔法をバカスカ使いまくってあちこちの影を無くす奴が居ると危険なのだ。


 「まぁ、聖女様がいようがいまいが、この調子でいけば勝てそうだな」

 「そして私達は出るタイミングを失って、どうしようかと慌てると?」

 「うぐっ」


  こんな順調に魔王と戦えているなら、俺達も最初から参加するべきだった。あー、アホなことを考えなければ良かった。


  そんな事を考えていると、後ろから近づいてくる気配が1つ。


  俺達は全員気づいているものの、敵意が無いと感じ取ったので特に強い警戒はしていない。


 「強いな」

 「そうだね。ジークフリードさんと同じような気配がするよ」

 「んー強いの」


  気配をどれだけ巧妙に消していたとしても、その溢れ出る強者のオーラは隠せない。


  そして、俺はこの気配を知っている。


 「貴方達ですか?瓦礫に埋もれた人々を助け出した、仮面の3人組は」


  俺は後からかけられた声に、振り返ることなく答える。


 「。禁忌ロムス。我々に一体なんの用で?」

 「ふむ.......そうですね。姿、初めましてですね。どうやら私の事を知っていただいているようで」


  とぼけれるかな?と思ったが、流石にバレてらァ。


  まぁ、この神聖皇国を代表する灰輝級ミスリル冒険者だからな。2年で大幅に変わったとしても、根本的な気配が変わってなければ分かってしまうか。


  バレているなら、態々隠す必要もあまりない。どちにしろ、後でわかる事だ。


  俺は振り返った後、少しだけ仮面をズラして顔の半分を見せながらロムスに頭を下げる。


 「久しぶりだな。ロムス」

 「いやぁ、本当に久しぶりだね。ジン君。君が死んだとは聞いていたが、黄泉から這い上がる禁忌でも使ったのかい?」

 「禁忌......禁術の事か?」

 「流石はジン君。君はこの国を去っても知識を仕入れ続けたようだね」


  今の言い方からして、俺が死んだとは欠片も思ってなかったのだろう。


  “黄泉から這い上がる禁忌を使ったのかい?”と言いながら、その後に“この国を去って”と言っている。


  確かに死んでもこの国を去った事にはなるが、今の言い方はこの国を生きて出ていったと解釈していいだろう。


 「まぁな。話したい事が山ほどあるが、それよりもひとつ言わせてくれ」

 「なんだい?」

 「ロムスが教えてくれた知識のお陰で、俺も花音も今日まで生きてこれた。ありがとう」

 「ありがとう。ロムスさん」


  俺と花音は再び頭を下げる。空気の読めるイスは、大人しく俺達の1歩後ろでその様子を眺めていた。


 「ははは。そんな頭を下げられるようなことじゃないさ。僕はあくまで、こういう物もあると教えただけで、学んだのは君自身だ。その知識は、僕が教えたのではなく君が学んだものなんだよ」


  こういうところは変わっていないな。教えたのではなく、君が学んだ。これはロムスのは口癖だ。


  頭を下げられて居るのがムズ痒かったのか、ロムスは慌てて話題を変える。


 「ところで、ジン君達はこんなところで何をしているんだい?一緒に魔王の討伐はしないのかい?」

 「あーいや、それがそのー」

 「このアンポンタンは、自分がカッコよく登場しようと思ってみんながピンチになるのを待っているんだよ。でも、なんかこのまま行けば普通に魔王を倒しちゃいそうだし、どうしようかと悩んでるところ」


  花音が容赦なく俺のアホな考えを暴露すると、それを聞いたロムスはほんの一瞬キョトンとした後盛大に笑い始める。


 「アッハッハッハッハッ!!あは!!アッハッハッハッハッ!!相変わらず君は変わっているね!!長い間色々な人と話してきたが、君のような変人はそうは居ないよ!!」

 「それ褒められてる?」

 「間違いなく貶されてるよ」


  変人と言われて褒められているわけが無いか。それにしてもロムスの野郎笑いすぎだぞ。何が“あーお腹痛い”だ。


  そういえば、ロムスはなぜ戦闘に参加していないんだ?魔王と戦っている冒険者も数多くいる中、こんなところで油を売っていていいのだろうか。


 「ロムスは戦闘に参加しないのか?」

 「ん?あぁ、僕の仕事は大聖堂の書庫を守ることだからね。それに、僕が少し暴れただけでここら一帯が更地になっちゃうよ」


  流石は、灰輝級ミスリル冒険者の中でも最強格の男だ。


  その溢れ出る自信と余裕は、正しく強者にのみ許された特権。


  俺とロムスが本気でやりあったら、どちらが勝つのだろうか。


 「じーん。漏れてる漏れてる」

 「パパー抑えるのー」

 「おやおや?少し闘気が滲み出てるようだけど、どうしたのかな?」


  おっと、いけないいけない。確かにロムスと戦ってはみたいが、こんな魔王とはやりあっている真横でドンパチかます程戦いに飢えている訳では無い。


  でも、ロムスは絶対強いよなぁ。この魔王討伐が終わったら少しだけ手合わせしてくれないだろうか。


  そうやってロムスと話していると、魔王戦の方で動きがある。


  どうやらジークフリードも魔王討伐に参加したようで、形成が一気にこちら側に傾いたようだ。


 「ほう。そろそろ魔王戦も終わりですね。ジン君。この後どうするんだい?」

 「あーもう諦めて普通に合流するよ。あ、後姿の時は俺はウイルド、花音はギューフと呼んでくれ」

 「分かったよ。ところで、そっちの小さい子は?」

 「この子は俺のギューフの子供だ。イス自己紹介できるか?」


  イスはこくりと頷くと、ロムスに自己紹介をする。


 「傭兵団揺レ動ク者グングニル団員。イスなの。よろしくねロムスさん」

 「はい。よろしくお願いしますね」


  どうやら、ロムスですらイスの正体は見抜けないようだ。


  俺はイスの頭を撫でてやると、第二段階を残しているはずとまだ淡い期待を抱くのだった。

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