VS悪魔(瞬殺)

  時間は少し遡り、魔王が復活した直後に戻る。


  大地を揺らしながら現れた暴食の魔王を眺めながら、聖堂異能遊撃団の団長であるアイリスはポツリと呟いた。


 「来たぞ。七大魔王の一角が」

 「凄まじい圧ですね。流石は大魔王」

 「かなり強そうですぞ、師匠!!ワタシ達も加勢に行った方がいいのではないのですか?!」


  師匠と呼ばれた、聖堂異能遊撃団の副団長であるシンナスは弟子の1人であるニーナの頭を軽く殴る。


  ゴンと、とてもでは無いが軽く殴られた音ではない音が響き渡り、ニーナは痛みのあまり頭を抱えて師匠であるシンナスを睨みつけた。


 「何をするのですか!!」

 「お前が、私達の話を何も聞いていなかったからだ。この馬鹿弟子。お前のその立派な耳は飾りか?」


  そう言って今度は、ニーナの獣耳を引っ張った。


 「痛い!!痛いです師匠!!」

 「痛くしてるんだよ!!いつも言ってるだろ?人の話はキチンと聞け!!」


  シンナスは大声でニーナを怒鳴りつけた後、その耳を離して説教を続ける。


 「そうやって人の話を聞かなくて何度問題を起こした?まだもう1人の馬鹿弟子の方が手間がかからなくて良かったぞ?」

 「んな?!ワタシよりも弟弟子の方がマシだったと?!ワタシよりも弱いのに?!」

 「強い弱いの問題じゃねぇんだよ!!お前の頭の問題だ!!このスカポンタン!!」


  ヒートアップする口論を隣で聞きながら、アイリスは魔王と何か言い合っている光司達を見る。


  距離が離れている為、何を言っているのか分からないが何か重要な事を話しているのだろう。


(まぁ、魔王はともかく、もう2人の私の教え子達は一体何時になったら来るんだ?)


  2年と半年前に死んだことになっている教え子と、錯乱によって姿を消した事になっている教え子。


  結局この2人の行方は分からず、三ヶ月ほど前に龍二に送られてきた手紙によってようやく安否が分かったのだ。


  龍二曰く、今日は間違いなく現れると言っていたものの、それらしき影はない。


(二年ぶりにその元気な顔を見たいものだな。それはそうと.......)


  少し思い出に浸っていたアイリスだが、何かを感じ取るとその顔つきは一気に険しくなる。


  シンナスとニーナも同じだ。先程まで口論をしていたが、いまではピタリと口論をやめてアイリスと同じ場所に視線を向けている。


 「そちらから出向いてくれるとは。手間が省けたな。悪魔ゴミ風情共」

 「おやおや?随分と舐められていますね。貴方方如きが我々に敵うとでも思っているのですか?劣等種族が」


  現れたのは五体の悪魔達。それぞれ違った形をしており、アラクネのような蜘蛛の胴体を持った者や体長か3m程もある狼、鳥の姿をした者、獅子の頭を持った兵士に豹の姿をした悪魔だ。


  感じ取れるだけの魔力だけで、その強さがわかるほど強大な力を持っておりそこら辺の一端の兵士が戦いに向かっても瞬殺されるだろう。


  しかし、ここに居るのは国を守る守護者であり、最強と言われてきた強者である。


  その力の一端を見たとしても、怖気付くことはない。


 「副団長。記録にある悪魔はいるか?」

 「名前を聞かないと何とも.......見た目が似ている悪魔もいるそうなので」

 「そうか。向こうが丁寧に自己紹介するほど、お行儀がいいとは思えない。行き当たりばったりで殺り合う事になりそうだな」


  ゆっくりと近づいてくる悪魔達を見て、アイリス達も戦闘態勢に入る。


  他の騎士達は魔王討伐の為の援護に回しているので、ここに居るのはアイリス達の3人のみ。


  つまり、3対5の戦いになるわけだ。


  数では不利。更に、アイリスとシンナスは異能を使えない。


  アイリスに関しては、単純に異能を発動できる状況ではなく、シンナスは異能の範囲が広すぎるため街に被害を出してしまう。


 「異能が使えないのは面倒だな。コレが人間相手なら瞬殺できるのに」

 「団長の異能は完全に対人間種用ですからね。私ももっと広い所なら思いっきり異能を使うのですけど......」

 「いや、私とニーナが隣に居るのに使うなよ?私達まで被害が来るから」

 「ワタシはそれで1回酷い目にあっているのです!!師匠!!間違っても異能は使わないで下さいね!!」

 「分かってますよ。団長。それと馬鹿弟子、後でお仕置だ」

 「なんで?!」


  戦闘態勢に入りながらも、ほとんど緊張感なく話す彼女達は流石としか言い様がない。


  長年積み重ねてきたその経験が、彼女達の緊張を解しているのだ。


 「随分と余裕そうだな。人間。貴様ら3人で我々を止めようとは少々傲慢が過ぎるのではないか?」

 「あ?怖いならそういえよ。3人相手に五人で戦って負けた時の言い訳が欲しいんだろ?素直に言ったらどうだ?“もっと人数を増やして負けた時の言い訳を下さい”ってな」

 「.......人間風情がァ。余程死にたいようだな」


  煽られた悪魔達は、先程の余裕そうな雰囲気とは打って変わって殺気を滲ませる。


  魔力はゆらりと練り上がり、明らかな殺意をこちらへと向けていた。


  それを見たアイリスは、面白そうに悪魔たちを指さして、悪魔達に聞こえる声の大きさでシンナスに話しかける。


 「見ろよ副団長。あの恐れ多い悪魔様が、人間風情に煽られてお顔真っ赤だぞ。口で言い返す事もできない子供以下。まるで不機嫌な事があれば直ぐに泣く赤子だな」

 「楽しそうで何よりですよ。団長。しかも、今ので更に悪魔が怒ってますよ」

 「おっとそれは失礼。赤子に言葉は理解できないと思ってたからつい。そうだったな。言葉の理解出来る赤子だったな。この悪魔クズ共は」

 「死ねぇ!!」


  煽りに煽られ、我慢の限界が来た悪魔達は一斉にアイリス達を殺そうと飛びかかる。


  怒りで我を失った悪魔達の攻撃は、素早く力強くもあったがあまりにも単調すぎた。


 「ほい」

 「よいしょっと」

 「そい!!」


  直線的な動きで突っ込んできた悪魔達を、アイリス達はいとも容易くいなす。


  ある悪魔は投げ飛ばされ、ある悪魔は足をかけられて転ばされ、ある悪魔はカウンターを綺麗に食らった。


  3対5と言う数の有利を生かせずに、いいようにあしらわれた悪魔達。そしてそのあしらわれたことに対して怒り、また単調な攻撃を繰り返すと言う悪循環が発生していた。


  プライドが高すぎるがゆえの弱点。“言葉も時としては武器となる”と言った教え子の顔を思い浮かべながら、アイリスは迫り来る悪魔達を容易くいなし続けた。


(一体でも殺してしまうと、恐らく冷静になってしまう。かと言って、五体同時に仕留めるには少々手が足りない。ここは大人しく、アイツが来るのを待つとするか)


  アイリスは頭の中でそう判断すると、悪魔達をいなしつつ適度に煽って冷静にならないようにし続けた。


  途中から、面白いように挑発に乗ってくる悪魔達の頭を心配しつつ攻撃を捌き続け、遂にその時が来た。


 「何をやっているんですか?アイリスさん」


  いつの間に現れたのか、アイリスの横に1人の男が佇む。


  長く纏まった金髪に、整った顔。見るもの全てが振り返る様な可憐さを持ったその男は、楽しそうに悪魔達を眺めていた。


 「見ての通りだ。私達じゃまともに戦うと勝てるか分からなかったからな。ちょっと入れ知恵を使って時間を稼いでたのさ。コレが面白いように引っかかって、ちょっと楽しくなってたけどな」

 「そうですか。ところで、その遊び相手は斬っていいのですかね?」

 「ご自由に」


  アイリスがそう言った瞬間、その男の腕がブレる。


  刹那。悪魔達の首は撥ね飛ばされ、何が起こったのかも分からずにその生を終える。


  塵となってた消えていく悪魔を眺めながら、その男はアイリスに話しかけた。


 「なるほど。本来の力を出させずに勝つ。その入れ知恵をした人は、戦いを分かっていますね。恐らく、本来通りの力が使えたのなら、今の一撃は避けられてましたよ」

 「だろ?まぁ、だとしても、この一瞬で五体の悪魔の首、全てを叩き斬れるのは流石だな、ジークフリード」


  ジークフリードと呼ばれた男は、静かに笑うと空で戦う勇者達を見るのだった。

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