裏方で人助け

  何千人という人々を各地の教会に移動させた後、俺達は魔王と戦う龍二達を尻目にあちこちで人助けをしていた。


  主に、潰れた家に取り残された人々の救出だ。古い家にも人は住んでおり、中には逃げ遅れた人もいる。


  獣人など元から筋力のある種族はともかく、人間やエルフなどの力仕事が苦手な種族はそう簡単に瓦礫の山を抜け出せない。


  そんな人々を、俺達で助けて回るのだ。


 「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」

 「お気になさらず。その傷は我々では治せないので、教会で治療を受けてください」

 「分かりました!!ありがとうございます!!」

 「あーうー!!」

 「ははは。元気な赤ん坊ですね。将来が楽しみですよ」


  ペコペコと何度も頭を下げてお礼を言う40近いおばさんと、その腕に抱かれる赤ん坊。


  彼女達は運良く瓦礫の隙間に挟まって、生きながらえた強運の持ち主だ。


  助け出した人の中には、既に亡くなっている人も大勢いたからな。


  瓦礫が崩れないように慎重に取り除くのは面倒だったので、俺の異能で瓦礫を全て崩壊させると言う荒業で助け出した。


  魔王との戦闘は激化しているし、少し強めの異能を使ったところでバレやしない。


  ちなみに先程とは違い、なるべく威圧感を与えないように話している。助け出しても怯えられて会話にならないのは困るしな。


 「さ、早く教会へ。その内ここも戦場になりかねませんので」

 「は、はい。あの。お名前は........」


  さすがにここで本名を言うほど俺も馬鹿ではない。俺は少しもったいぶりながら、もう1つの名前を名乗る。


 「我々は傭兵団揺レ動ク者グングニル。そして、私は団長のウイルド。また機会があればどこかで会いましょう」


  俺はそう言うと、その場を立ち去って花音達との合流を目指す。


  今は俺1人と花音&イスで分かれている。


  本当は3人とも分かれて人助けをした方が効率がいいのだが、花音は俺以外の人にはキレやすいしイスはまだ幼い。


  1人にしておくと逆に問題を起こすと考えて、花音とイスは一緒にしておいた。


  それでも不安だが。


 「おーやってるやってる。凄いな。あの空中戦」


  大聖堂方面の空を見上げれば、龍二達が魔王と戦っている。


  苦戦はしいられているものの、こっから見る限りは龍二達の方が有利に戦えている。


  光司、龍二、黒百合さんの3人を攻撃の中心として、空を飛べない人達は遠距離攻撃で支援。


  空を飛べる者達は、魔王が逃げ出さないように周りを囲んでおり、隙を見ては魔法や異能を叩き込んでいる。


  どうやら魔王は再生持ちのようで、最初に切られた羽は既に元に戻っていた。しかし、再生能力を使う度に魔力が目に見えて減っているので無駄ということは無いだろう。


 「うわーすげぇ。龍二ってあんなことできたのか。つーかあれパクリじゃね?」


  龍二は親指と人差し指で丸を作ると、そこから光の弾丸が発射される。


  あの技アレだろ。すっごいゆったりと喋るどこかの大将が使う技だろ。何とかの勾玉ってやつだろ。


  もしかして龍二のやつ、自分自身を光に変化させたりできるような自然系ロギアの力を手に入れたりしてないよな?それができるようになったら、魔導師は全員超強くなるんだけど。


 「ウイルド?何してるの?」


  俺がぼんやりと空を見ていると、後ろから声をかけられる。人目があるこの場所では、傭兵団としての名前を使うようにしている。


 「パパ、ここら辺は終わったの!!」


  俺は褒めてと言わんばかりのイスの頭を撫でつつ、空で戦っている龍二を指さしながら話す。


 「ん?あぁ、見てみろよギューフ。アイツついにやりやがったぞ」

 「うわ、ホントだ。カナヅチになってるのかな?」

 「流石にそれはないだろ......多分」


  コレで本当にカナヅチになってたら、海にでも放り込んでやる。一生溺れてろ。


 「それにしても、凄い戦闘だね。流石は魔王」

 「たしかに凄い戦闘だが、厄災級よりも強いと言われているにしては少し弱い気もするけどな。アレならファフニールの方が何倍も強いぞ」


  もし、ファフニールが魔王の立ち位置にいたのなら、龍二達を皆殺しにした上でここら辺を更地にしているだろう。


  ファフニールは厄災級魔物の中でも別格に強いのだ。


 「んー、それはファフちゃんが強すぎるだけな気もするけどね。アンスール辺りと比べれば確かに強い方だし、一般的な厄災級魔物よりは強いって意味だったんじゃない?」


  確かに花音の言う通りかもしれない。本来厄災級魔物とは、本来そう簡単にお目にかかれるものでは無い。


  厄災級魔物と分類される魔物の中でも強さはまちまちであり、中には滅茶苦茶強い最上級魔物よりも弱い厄災級もいたりするのだ。


  そう考えれば、確かに魔王は厄災級魔物よりも強いと言えるだろう。


 「俺が期待しすぎただけって事か?」

 「そゆこと。それに、ファフちゃんよりも強かったらじ........じゃなくてウイルドでも勝てるかどうか怪しいでしょ」

 「確かに。それは怪しいな」


  怪しいと言うか、十中八九勝てないだろう。ファフニールで五分五分だぞ?それより強かったら勝ち目が無いっての。


  俺の異能はかなり強いからワンチャンがあるが、当たらなければ意味が無い。


  そして、ファフニールより強いやつにそのワンチャンが当たるは到底思えない。


 「お、今度は朱那ちゃんだね。相変わらず天使をしてるねー」

 「天使をしてるってなんだよ.......へぇ、炎の剣か。剣って言うか、大剣だなアレは」


  黒百合さんが手に持っているのは、自分の背丈ほどある馬鹿でかい炎の剣。細く長いその剣は、一太刀振る度に炎を吹き出して魔王を燃やしていく。


  いけ!!ハエを燃やせ!!汚物は消毒だ!!


  何度も振るわれた剣の熱気がこちらまで襲ってくる。あの剣にどれだけの魔力が込められているのだろうか。


 「暑いの.......」

 「確かに少し暑いな。まぁ氷を出しておけば大丈夫だろ?」

 「うん」


  イスは少し氷を作り出すと自分を冷やす。イスは暑さに少し弱いからな。


 「それにしても、これぞ総力戦って感じだよね。なんか見ててカッコイイよ」

 「それな。そして魔王は追い詰められると第二形態になるんだよ。でもいつも思うけど、第二形態の魔王の方が強いなら最初から第二形態で戦えよって話だよな」

 「それは私もよく思うよ。まぁ、アレはゲームを盛り上げるための演出だから」


  そんなことを話しながら、俺達はのんびりと空を見上げて戦いを眺める。


  崩れた家は今俺たちがいる方に固まっており、救出は終わっているのでこうしてのんびりとしていられる。


  コレ、下手したら特に大きなピンチにもならずに魔王討伐とかされるんじゃないのか?なんか想像してたより魔王弱いし。


  討伐されたらされたでいいのだが、俺達の出るタイミングが失われてしまう。


  アホなことを考えずに大人しく最初から合流するべきだったかも。


  そう考えていると、悪魔達と戦っていたアイリス団長達の方で動きが起こる。


 「......ん?アイリス団長達と戦ってた悪魔が一瞬で死んだぞ?」

 「ホントだ。5体ぐらいのいたよね?悪魔って」

 「そのはずだ。師匠達が応戦してたはずなんだが、何があったんだ?」


  探知をそちら側に集中させると、強大な気配がいることに気づく。かなり巧妙に隠されている為分かりずらいが、この気配は間違いなくあの人だ。


 「いないなと不思議に思ったが、どうやら別の何かをやっていたっぽいな」

 「おーあの人か。そりゃ悪魔も瞬殺な訳だよ」


  その気配は聖堂騎士団第一団長ジークフリードの気配だった。

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