氷合戦⑤

  玉を消費した俺達は、ステージの左側の方にある補給所を目指して走っていく。


  少し前までは、ゼーハーゼーハー言いながら何とか付いてきていたロナとシルフォードだが、今では平気な顔をしている。


  半年でここまで早く走れるようになるのは、適切な訓練と彼女達の才能のお陰だろう。


  ストリゴイとスンダルは教えるのがとても上手いから、言われた通りにしっかりと走り方や魔力の使い方を直していけば、かなりいいところまで行けるようになるんだよな。


  正直、アイリス団長や師匠よりも教えるのは何倍も上手い。やはり歳の積み重ねというのが、大事なのだろうか?


  そんなことを考えながら走っていると、探知範囲内に補給所が入る。


 「やっぱり待っているな。アンスールだ。アイツは搦手が上手いから厄介だぞ」

 「そりゃ、狩りが罠を張っていやらしい追い込み方するからね。まぁ、本人が強くなりすぎて、片手を軽く振るだけでドラゴンを真っ二つとかにできるけど」


  そうだよ。本来蜘蛛というのは、罠を張ってじっと待つ狩りをするはずだ。


  なのにベオークもアンスールもゴリゴリの武闘派なんだよな。それともアレか?この世界の蜘蛛は真正面から戦うのか?........それはないか。ベオークも昔はちゃんと罠を張ってたしな。


 「どうしますか?団長様。このまま突っ込んでも僕は勝てる気がしませんが......」

 「向こうは補給所にいるから、玉の補充が無限にできる。こっちを見つけ次第バンバン投げてくるだろうな」


  アンスールも遊びとは言え、負けず嫌いだ。間違いなく本気で弾幕を貼ってくるだろう。


  適当に投げてもプロ野球選手が投げる玉の2倍は早い玉が際限なく飛んでくるのだ。地獄かな?


 「マシンガンVSモシン・ナガンって感じだね。もちろん、アンスールがマシンガンで」

 「おい馬鹿野郎。モシン様を馬鹿にするなよ?アレは神に匹敵する強さを持っているんだぞ」

 「でもお気に入りは?」

 「スナイパーならM40A5」


  モシンもモシンで趣があって好きなのだが、それよりも俺はカッコ良さで選ぶんだ。すまんな。


  とあるゲームで、M40A5を担いで脳筋凸砂をやっているのが滅茶苦茶好きだったのを思い出す。サブウェポンはM320HEでポンポンしてたなぁ......


 「何の話をしているんでしょうか?」

 「さぁ?団長も副団長も偶によく分からない会話してるから、多分それ」


  後ろでシルフォードとロナが何か言っているが、俺は思い出に浸る。あの頃は花音が異常にARが上手くて、あまりに勝てなかった龍二が、ロケラングレポンとか言う害悪プレイをして喧嘩になってた時だ。


 「仁。思い出に浸るのもいいけど、そろそろ着くよ」


  花音の言葉で、現実に引き戻される。いけないいけない。日本の思い出に浸るのもいいが、それでもこの戦いに負けるのはダサすぎる。


  たとえ相手が我が子であろうと、俺は容赦なく叩き潰すのだ。


  補給所へと続く道の1本手前で、俺達は一旦立ち止まる。


  アンスールもこちらには気づいているので、下手に身体を出そうものなら氷玉に撃ち抜かれるだろう。


 「さて、どうするかな。誰か一人を囮として特攻しても、アンスール相手だと簡単に対処されそうだし」

 「私達は残弾も気にしないといけないから面倒だね。ばかばか投げてたら、あっという間に弾切れだよ」

 「かと言って生半可な搦手は普通に対処される。そして、弾切れを待つと言う選択肢も取れない」


  あれ?詰んでね?こちらは24発以内でアンスールを仕留めないといけないのだ。


  どうするかねぇ。


  俺が悩んでいると、ロナが氷玉を3発渡そうとしてくる。


 「あ、あの。団長様が持っていた方が何かと役に立つと思うので........」

 「気持ちは嬉しいが、それは自分で持っておけ。ルール上は問題ないが、こう言うのは限られた中で考えるから楽しいんだよ」


  戦略としては、ロナの方が正しいだろう。だが、俺も花音もそう言うのはあまり好まない。


  もちろん、どうしてもそれが必要な時は遠慮なく頼るが。


 「ご、ごめんなさい......」

 「ちょちょちょ、そんなにしょげるな。なんか俺が凄い嫌な奴になるじゃないか。ロナの気持ちは嬉しいんだ。うん。俺が我儘なだけだからそんなに落ち込まないで」

 「あー仁がロナを泣かせたー」


  シュンと尻尾と耳を垂れ下げるロナを見て慌ててフォローする。コレ、フォローになっているのか?少し怪しい気もする。


  後、花音。お前は煩い。


 「まだ来ないのかしら?」


  障害物の影でそんなやり取りをしていると、アンスールが痺れを切らしたのかこちらへ話かけてくる。


  ついでと言わんばかりに、氷玉を投げてわざと障害物に当ててきやがった。


  なんて贅沢な使い方だ。羨ましい。


 「なんだ?そんなに早く退場したいのか?だったら大人しくリタイアしてくれよ」

 「あらあら?そこは私を倒すぐらいのことを言ってくれないとダメよ?あぁ、それとも倒せる自信がないのかしら?」


  容赦なく煽ってくるな。


  普段の言動を見ているとあまりこう言う煽りはしないように見えるが、結構アンスールは煽ってくるのだ。


  流石に子供であるイス相手に大人気なく煽ることは無いが、相手が俺や花音なら容赦はない。


 「ならこっちに来てくれよ。そんな1人だけ残弾があってないようなものだと不公平だろ?」

 「あら、コレはちゃんとした戦略よ?初動でココを抑えれなかったからって、随分と抜かしたことを言うのね?」

 「初動で取れなかったんじゃなくて、取らせたんだよ。お前達の動きを制限するためにな」


  もちろん、嘘である。そんなの先に陣取った方がどうやったって明らかに有利だろうが。


  俺はアンスールと会話をしながら、手で花音達に指示を出す。


 “俺がアンスールを引きつけるから、隙を伺って当てれそうなら当てろ。無理なら逃げろ”と。


 「仁は?」

 「7発あるんだ。何とかなる.......多分。分かったらさっさと行ってこい。下手をするとメデューサもこっちに来ちまう。そうしたら負けは確定だぞ」


  俺のアバウトすぎる指示に頷いた花音達は一斉に散らばる。この動きで、アンスールも仕掛けてくるのを勘づいただろう。


  明らかに警戒している気配がある。


 「動き出したようね。それで?ジンが私の相手をしてくれるのかしら?」

 「もちろん」


  障害物から飛び出すと、アンスールが狙いすました一撃を放ってくる。


  はっや。100mは距離があるのに、もう目の前に玉が来てるんだけど。


  下手したら銃弾並みに早い。流石は厄災級だ。


  俺は身体を後ろに倒して、マトリックスの様に玉を避ける。


  ちゃんと手も回して映画の再現だ。ネタが花音にしか分からない上に、その花音が見ていないので完全に自己満足の避け方だったが。


 「2発目」


  アンスールはポツリと呟くと、左手で豪速球を放ってくる。


  今度は足を狙った一撃だ。


 「ほい」


  俺は体をのけぞらせたまま、足を振り上げて一回転する。


  玉は綺麗に地面に激突して砕け散った。


 「おー怖い。ちょっとでも反応が遅れてたら当たってたな」

 「よく言うわ。余裕がなかったらもっと効率的な避け方してるわよ」

 「いやいや、俺はコレが効率的な避け方なんだよ」

 「嘘をつけ」


  アンスールはニヤリと笑うと、氷の玉を構えるのだった。

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