氷合戦⑥
アンスールの弾幕が俺を襲ってくる。とてもでは無いが、両手で投げているだけで張れるような玉の幕では無い。
しかし、それを可能にするのが厄災級の身体能力である。
自分を中心に360度全てをピッチングマシンで囲まれて、時速200km越えの硬式ボールが飛んでくる気分だ。
補給所の玉は、減っていく度に生成され続けるので無くなることはない。アンスールを倒さない限り、俺は永遠に玉を避け続けなければならないのだ。
遮蔽物に隠れてもいいのだが、それだとアンスールがほかの三人に攻撃を仕掛ける可能性がある。
現に、俺に向かって玉を投げながら牽制として3人のいる方向にも何発か玉を投げている。
「本当に当たらないわねぇ。かなり本気で投げているんだけど......ちょっとショックだわ」
「この程度なら何とか避けれるさ。異能が使えればもっと楽なんだけどね」
異能が使えたら、俺の望むところに遮蔽物を作れるからな。それをやると流石に強すぎるけど。
「そうね。異能や魔法はルール違反だ物ね」
何か含みのある言い方だな。まるで、俺にルールを確認しているような感じだ。
「そうだな......うをっ!!あぶね。異能と魔法、後は魔術も禁止だぞ」
「異能、魔法、魔術。この3つがダメなのよね?」
「回りくどいな。何を言いたいんだ?」
アンスールの異能は知っている。それは自分の眷属を作ることや糸を出すことではない。
ん?待てよ。糸を出すこと?
確かにアンスールにとって、糸を出すことは異能や魔法の類に当てはまらない。
糸を出すことは、あくまで身体の一機能として備わっていることなのだ。
つまり、ルール違反ではない。
やっべ。普通に見落としていた。今まで糸を使っての攻撃はしてこなかったのに、ここで使ってくるのか。
俺は急いで距離をとる。糸をどのように使うかは分からないが、距離を取っておいた方が対処しやすいのだ。
「あら?気づいたようね。でももう遅いわよ?」
アンスールの指が複雑に動き始める。糸が細すぎて視認は出来ないが、探知がしっかりと反応している。
その指から出ている8本もの糸が、全て氷の玉と繋がっている。コレは不味い。
アンスールの糸は、魔力を込める事で好きなように動かせるのだ。
よかった。アンスールは糸に繋がっている玉を所持していると、考えているようだ。
“糸に繋がっているだけだから、所持してることにはなりません”とか言い出されたらやばかった。自由に動ける氷の玉が無数に俺を襲ってくることになるだろう。
「まずは、弱い兵からよね」
アンスールはそう言うと、2発の糸に繋がれた玉を発射する。
狙いは俺ではなく、シルフォードとロナの2人だな。しかし、それは2人を甘く見すぎている。
幾ら操作できる弾丸だとしても、たった1発で当てられるほど彼女達も弱くはない。
「.......随分と上手く避けるわね。半年前なら捕まえれたのに」
「それは残念だったな。弱いとはいえ、厄災級達を相手に訓練してるんだぞ?その程度じゃそうそう当たらねぇよ!!」
アンスールが向こうに集中してくれたおかげで、こちらへの弾幕が少し薄くなった。俺はその隙を逃さずに1発玉を投げる。
この玉がもし、前の世界でも投げれたなら間違いなく俺はメジャーにいけただろうに。いや、受け止めれるキャッチャーがいなくて無理か。
身体強化を全力で使った一投は、風を切りながらアンスールの胴体へと吸い込まれていく。
人間とは違い、下の蜘蛛の部分は曲げたりすることは出来ない。そこをピンポイントで狙ってやった。
まぁ、当たるとは思えないが。
「あっっっぶないわね。もう少し反応が遅れたら喰らってたわ」
「チッ。やっぱり普通に防ぐか」
俺の放った氷の玉は、アンスールの操っていた氷の玉に防がれる。
攻撃では無く、防御としても使えるのは厄介だな。自分で遮蔽物を用意しているのと、何ら変わりがない。
しかも、向こうは玉の補充が出来てしまう。
「これは、ジンを優先的に潰すべきね。貴方を放っておくと厄介でしかないわ」
「うわぁ、避けきれる気がしねぇな」
直線で来る玉なら割と簡単に避けれるが、その中に自由に動ける玉を混ぜられるとかなり動きを制限される。
厄介なのどっちだと言ってやりたい。
相も変わらず飛んでくる豪速球の中に、とんでもない軌道で俺を狙ってくる氷の玉が8つ。
この8つが本当に厄介すぎる。直線的なお動きの中に紛れる変化球を常に探知しながら、避け続けるのはかなりの集中力を持っていかれる。
おかげで、花音達との連携が取りづらい。
「クソっ」
俺は一旦遮蔽物に身を隠して弾丸の嵐を回避する。そして、アンスールが俺以外を狙ったその瞬間にもう一度身体を出してアンスールの気を散らせる。
「やりにくいわね!!」
「そりゃこっちのセリフだ!!」
とにかく避け続けて、花音達が攻撃する隙を作らなくてはならない。
後ろから引き戻される糸に繋がれた玉を避ける。
そうだ。この糸を逆に使ってやるとしよう。
向こうは、糸が絡まないように器用に氷玉を動かしているが、そのせいで糸をしっかりと探知できている。
コレが滅茶苦茶に絡み合っていたら、どれがどの糸か俺には分からなくなるからな。
「そろそろ当たってくれないかし.....ら!!」
アンスールが放ってきた8つの糸付き玉のうち、俺のスレスレを通る玉に目をつける。
皮1枚でその玉を避け切ると、方向を変えられる前に糸を掴む。
「んなっ?!」
「こっちへこいやぁ!!」
アンスールがこちらのやりたいことに気づいて、急いで糸を自分の手から切り離そうとするがもう遅い。
俺はその糸を全力で引っ張ると、アンスールは強制的に俺の方へと引きづられた。
「今今今!!」
「当てる」
「食らえぇ!!」
隙を伺っていた花音達が、俺の動きに合わせてアンスールへと攻撃を仕掛けに飛び出す。
花音に至っては、俺がこのタイミングでアンスールの糸を引っ張ると分かっていたかのようなタイミングで飛び出している。
「そう簡単にやられないわよ」
糸を切り離したアンスールは、残りの玉を2人に向けて放つ。
俺に当てられるよりも先に、シルフォードとロナを落とすつもりか。
だが、たった7発の玉を避けれない程、2人は弱くない。
「無駄」
「当たりませんよ」
攻撃態勢から一転、即座に遮蔽物に身を隠した2人。しかも、ロナは上からアンスールに向かって玉を放り投げて牽制までしている。
この場合、アンスールの取れる行動はふたつ。
ロナの玉に当たるのを覚悟でシルフォードとロナを持っていくか。避けて俺たちに倒されるかだ。避けながら、2人を持って行けるほどの余裕はない。
「2人は落とす」
どうやらアンスールは前者を選んだようで、遮蔽物の影に向かって糸を操作しながら玉を飛ばす。
だが、フリーな状態の俺と花音がそれを許すわけないだろう?
このままアンスールにぶち当ててもいいが、せっかくロナが機転を効かせて放った一撃を無下にしたくはない。
「花音!!」
「私が3ねー」
俺は花音に向かって叫んだ後、花音は即座にアンスールの糸付き玉を狙って氷玉を投げる。
氷玉は、衝撃に弱いのだ。玉同士を当てるだけで簡単に壊れる。
「抜かったわね。残念」
アンスールは、それだけ言うと、ロナの放った氷玉に当たるのだった。
「アンスールさん。アウトです」
残りは6人。結構時間がかかっているし、ここからは本気で行くとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます