氷合戦④

 「ラナーさん。アウトです」


  モーズグズの声がステージに響き渡る。


  拡張器でも使っているのか?おそらく、ドッペル辺りが作った魔道具だろうが、持ってるなら最初から使えよ。


  無事にラナーがアウトになったことを確認した俺は、満足げに頷きながらロナに話しかける。


 「さて、俺が何をしたか分かったか?」

 「えーと、最初に放った氷玉が本命で、次に放ったラナーさんを狙う玉はダミー。道を真っ直ぐ飛んで行った玉は、ラナーさんを道に出さないようにする為の牽制と言った所でしょうか?」

 「大体正解だな」


  ちなみに、今の手はラナーだから当たったにすぎない。厄災級の連中なら初弾にも気づいて避けていたはずだ。


  探知が甘く、それでいて真面目な戦い方を好むラナーだからこそ読めた動きだ。


 「ここまで上手く当たったのは、相手がラナーだったからだ。実際はもっと上手くいかない。それでも、この考え方は役に立つだろうから覚えておくといい。特に、ロナのような異能は相手に選択肢を迫りやすいからな」

 「なるほど.......」

 「まぁ、これに関してはおいおい慣れていけばいい。いきなりやって出来る物じゃないからな。今度一緒に訓練するか?」

 「はい!!」


  目を輝かせながら、嬉しそうに返事をするロナの頭を撫でならがら、俺は次の標的を探す。


  んーむ。どこも膠着状態と言った感じだな。


  残弾が10発しか無いので、下手に投げ続けるとあっという間に弾切れを起こしてしまう。


  俺達のチームはペアを組ませているので20発はあるが心もとないだろう。


  イスチームに至っては、一人だけ動いている連中は10発しかない。先に攻撃を仕掛ければ弾切れになるのはどちらか明白なので、相手が玉を使うのを待つしかない。


  残弾があるって言うのは、かなりいい枷になるな。


  厄災達の残弾がゼロになれば、三姉妹や奴隷達でも反撃に出ることが出来る上に上手く行けば仕留めることも出来る。厄災達とて、三姉妹や奴隷達がしっかり動けることを知っているので、迂闊に攻撃はできない。


 「さて、俺達はどうするかねぇ。誰かを落としに行きたいが、ここから1番狙いやすいのは花音とシルフォードと睨み合っている奴か?」

 「.......僕の探知では分からない距離。団長の探知距離、広すぎませんか?」

 「今はゲーム性を壊すから本気で探知はしていないぞ。本気でやればこのステージ全体を探知するぐらいは出来る」


  と言うか、それぐらい出来ないとあの島では命取りなんだよなぁ......


  最上級魔物達にとって、1km2km程度は一瞬で距離を詰めれるのだ。


  100m程近づいてきた時点で気づいても時すでに遅く、襲われて食われているだろう。


 「流石団長様。僕はせいぜい300mぐらいが限界です」

 「最初はそんなもんさ。むしろ半年でそこまで行けたなら、あと2年もあれば今の俺ぐらいにまで探知はできるようになるかもしれないな」

 「でも、その時は団長様はもっと強くなってると思いますけど.......」

 「それはしょうがない。いづれは世界最強を目指してみるさ」


 ファフニール曰く、ファフニールより強い奴らも何名かいるらしい。そいつらまで倒せるようになるまでは、俺も毎日の訓練をサボる訳にはいかないな。


  俺は強いが、世界最強を名乗れるほど強いとは思っていない。強者は自惚れた瞬間に足元を掬われるのだ。


 「お、花音とシルフォードがやり合っているな?相手はおそらく、メデューサだな。このゲームにおいては数が多い方が圧倒的に有利だ。加勢に行くぞロナ」

 「はい」


  ロナが付いてこれる範囲で、身体強化を使ってステージを駆けていく。


  もちろん、探知範囲外からの狙撃を警戒してなるべく直線的な道は通らずに、障害物が多い場所を走る。


 「あ、クソ。メデューサが俺たちに気付いて引いて行ったな。下手に追撃したら、喰われるのは俺たちになるかもしれん。やっぱりここら辺の判断は正確だな」


  もう少しで花音達と合流するかという所で、メデューサが逃げの一手を打った。


  ただでさえ足の速い厄災級魔物が、本気で逃げる時に仕留めるのは難しい。コレは諦めた方がいいな。


 「じーん!!メデューサ逃がしちゃたー」


  メデューサとの戦闘を終えた花音とシルフォードが、こちらへやってくる。


 「上手く逃げられたな。やっぱり厄災達は一筋縄では行かないか」

 「メデューサさん避けるの上手すぎ。くねくね動いて全く当たらない」

 「そりゃそうだろ。メデューサは吸血鬼夫婦よりも動きが機敏だからな。人型の魔物の中だと、アンスールと並んで1番強い」


  もし、団員の厄災級魔物達だけで強さランキングをつけるとしたら、メデューサは5、6位ぐらいに入っているだろう。


  1番強いのはファフニールで、1番弱いのはドッペル辺りだな。


 「もっと玉があったら仕留めれたのにー!!なんで10発しか持てないの!!」

 「無制限に玉を持てたら勝負にならないだろうが。お互いに投げまくって玉と玉を相殺しまくるから決着が着かねぇよ」


  三姉妹や奴隷達ならば簡単に仕留めれるだろうが、厄災達はその馬鹿げた身体能力で玉を躱し続けるか、全く同じ弾道を放って相殺し続けるだろう。


  弾切れと言う弱点を無理やり作らなくては、この勝負は永遠に終わらなくなってしまう。


 「残弾は?」

 「私が残り3発。シルフォードが4発残ってる。仁達は?」

 「俺が残り7発。ロナは1発も打ってない」


  コレは一旦玉の補充に行った方がいいのだが、間違いなく出待ちされているだろうな。


  玉の補充はこのゲームにおいて、かなり重要な要素だ。相手もそれが分かっているので、玉の補充を相手にはさせたくない。


  補給所は間違いなく激戦区になるだろう。


  場所は3箇所。ステージのド真ん中とその両端だ。


  本気で勝ちに行こうとしたら俺と花音が補給所を速攻で押さてえ、他のチームメンバーを残った1つに向かわせるのだが、遊びでそこまでガチの戦法をやるのは大人気ないのでやっていない。


  イスなら間違いなくやるだろう。子供だから、どんな戦法をとっても許される。


 「待っているとしたら誰かな?」

 「俺の予想だとイスとアンスール。あとは......誰だろうな」


  安牌ならメデューサなのだが、先程花音と戦っている。


  今いる場所から補給に行くには少し遠いので、メデューサは今回遊撃に回っているのだろう。


 「一人でもきっちり仕事出来そうなのはスンダルだが、アイツは今日が初めての氷合戦だからな」

 「んースンダルと他の経験者がペアを組んで待ち伏せている?」

 「それが1番ありそうか。合流したし、4人で補給所の何処かを落としに行こう。4人の残弾を合わせて24発もあれば、なんとかなるだろ」


  そう言って、動き出したその時だった。


 「リーシャさん。アウトです」


  ステージ全体にモーズグズの声が響き渡る。どうやらストリゴイとリーシャは誰かと戦っていたようだ。


 「あ、姉さん.......」

 「そんな悲しそうな顔をするなよロナ。仇は後でとってやるから」


  ロナの頭を撫でながら、俺達は補給へと移動を始める。


  今いる場所から1番近い補給所は左端にある。ストリゴイとは真逆の方向だな。


 「誰と交戦していたのかな?ストリゴイとやり合えるってことは、厄災達だよね?」

 「まぁ、そう考えるのが妥当だな。超遠距離スナイプで抜かれたかもしれないけど」


  遠くから抜ける道は幾つかある。ひょんなことから顔を出してやられたかもしれない。


 「とりあえず俺達は俺達のやれる事をやろうか。最悪、俺たち4人が残っていればなんとでもなる......多分」


  残弾と言う制約がある為、絶対勝てる保証は無いがなんとかなるでしょ。

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