氷合戦③

 「ふはははは!!では、行くぞリーシャ!!」

 「は、はい。ストリゴイ........さん」


 試合が始まって早々にストリゴイはリーシャを連れて、前線へと走っていく。


  速っ。もう姿が見えなくなったぞ。


  リーシャは呼び捨てしようと頑張ったものの、結局さん付けをしてしまった様だ。


  氷合戦が終わるまでに、呼び捨てにできるのだろうか。


 「デハ、ワタシ達も行くとしまショウ。ところで、何か作って欲しい魔道具とかありマスか?」

 「んー、今のところはないかな?村の生活よりも、ここの方が色々充実してるし」


  ドッペルとトリスはのんびりと歩きだし、トリスは5個の氷の玉をお手玉している。


  普通に凄いな。


  それを見たドッペルは、10個の氷の玉でお手玉を始めた。


 「むっ.......」

 「そんなに睨まないでくだサイ。5個出来れば10個も余裕ですヨ。教えましょうカ?」

 「教えてー」

 「いいデスカ。マズは─────」


  あの.......お手玉講座じゃなくて、氷合戦をやって欲しいんだけど。


  なんでこんなに厄災級達は自由奔放過ぎるのか。ってか、その玉結構脆いから落とすと割れるぞ。


 「私達も行こっか」

 「誰狙う?」

 「んー特にないかな。出会った敵から片付けよ?」

 「分かった」


  花音とシルフォードは普通だな。シルフォードは花音に苦手意識を持っているが、別に嫌っている訳では無い。


  最初の出会い方が問題だっただけだ。


 「さて、俺達も行くとするか」

 「はい。団長様」


  全員が動き出したのを確認した俺は、ロナを連れて動き始める。


  異能、魔法を禁止されてはいるが、身体強化と探知は問題ない。


  あ、ルール説明の時に探知OKって言うの忘れてた。まぁ、いいか。未経験者は経験者と組ませているから、探知も使ってOKって事を伝えてくれているだろう。


  探知を広げて味方と敵の大体の位置を把握する。イスのチームは未経験者と経験者をくっつけているが、余った人達はバラバラに動いているな。


  俺は透き通った氷の上を歩きながら、ロナに話しかける。


 「ここでの生活には慣れたか?」

 「はい。仕事のミスも大分減りましたし、皆様に迷惑をかけることも減りました」

 「そうか。なにか不満はあるか?」

 「まさか!!団長様を始めとして他の方々も優しい方ばかりですし、ご飯は美味しいし、フカフカのベッドで寝れますし。奴隷なのにこんな扱いを受けていいのかと思うほどです」


  確かに、奴隷の扱いにしてはかなり上等な待遇だな。


  この世界の奴隷、しかも闇奴隷の扱いは家畜以下のところばかりのようだし。


  奴隷という文化のなかった日本でもし、こんな扱いをした日には人権団体が黙っていないだろう。


 「闇奴隷に堕ちた時点で、マトモに生きれるのは諦めていたのですが、こうして人として扱ってくれる団長様には感謝しかありません」


  そう言って、ロナはペコリと頭を下げる。


  まぁ、どこかの変態に買われるよりかはマシだと思うが、こんな事で礼を言われても反応に困る。


  俺としては、当たり前の対応をしただけに過ぎないのだから。


 「あーうん。とりあえず頭を上げような。当たり前のことをしただけだから、そんな礼はいらないぞ。どうしてもって言うなら、仕事をがんばってくれ」

 「はい!!」


  ニコニコと嬉しそうにしながら、俺の横を歩くロナを見ながら俺は探知を続ける。


  こちらに近づいてくるのは1人だけだ。反応からしてラナーだな。


  距離としては約300mだろうか。向こうも俺達に気づいたようで、障害物を背にして身体を出さないようにしている。


  今、俺達がいるこの場所はロングスナイプができる場所で、ステージの端から端まで一直線に道ができている。


  無警戒に飛び出すと、信じられないような速さで飛んでくる氷玉に狙撃されるのだ。


  もちろん、俺達もこの道のど真ん中にいるのではなく、その横にある障害物に隠れている。


 「さて、どうするかな。ロナ。この障害物の向こうに誰かいるのが分かるか?」

 「はい。おそらく、ラナーさんだと思います」


  うんうん。ちゃんと探知の精度は上がっているな。


  奴隷達にも情報を纏める仕事の他に、自分を最低限守れるように色々な訓練を積ませている。


  半年もしっかりと正しい訓練を積めば、500mぐらいの探知はできるようになるのだ。


  まぁ、多少の才能はいるが。


 「そうだ。あそこにいるのはラナーだ。よく分かったな」


  俺はイスを褒める時のように、ロナの頭をなでる。


  身長がイスより少し高い程度だから、いつもの癖で撫でちゃうんだよな。嫌がっている素振りは無いので、俺も改めるつもりは無い。


  と言うか、尻尾を見る限り、嬉しそうにしているので問題ないだろう。


 「戦い方における考え方は教えてもらったか?」

 「いえ、先ずは基礎をしっかり固めろと言われまして.......」

 「基礎は大事だもんな。俺もしっかりと基礎を固めたおかげでここまで強くなったし。それじゃ、特別授業だ。戦い方における考え方を教えてやろう」


  ラナーもこちらに気づいており、警戒している。我慢強い性格をしているので、こちらが動かない限りは様子を伺うだけだろう。


  ゆっくりと教える時間はあるはずだ。


 「戦いにおける考え方は簡単だ。相手に最善だと思われる動きを強制すればいい」

 「相手に最善だと思われる動きを強制?」

 「そうだ。今回は今隠れているラナーで考えようか」


  俺は氷の上に簡単な地図と点を書く。


 「この点が俺達とラナーだな。分かるか?」

 「はい」

 「それじゃ、1問目だ。俺達がここからラナーに攻撃するにはどうしたらいい?動くのはダメだ」


  ロナは少し考えた後、答えを出す。


 「上から玉を落とす?」

 「そう!!正解だ。俺達が現状できるよう攻撃は、孤を描いて上からの攻撃だけになる。そして、そんなトロイ攻撃は、当たらない。避けられるからな」


  探知がお粗末な奴ならそれで当たるだろうが、バレバレの攻撃は容易に避けられる。


  ましてや相手はラナーだ。上からの攻撃も当然警戒しているに違いない。


  こちらに攻撃が来ないのは、後出しの方が強いと思っているからだろう。


 「ならどうするか。簡単だ。反応できない攻撃をすればいい」


  そう言って俺はとてつもないスピードで氷玉を上に投げる。


  あまりに勢いよく投げるものだから、霧の中にまで到達してしまった。


 「.......今のは?」

 「下準備さ。3発で終わる。見ておきな」


  少し間を置いた後、俺はラナーを狙って障害物の上から玉を投げる。


  このまま行けば、孤を描いてラナーに当たるだろう。


  それと同時に少し道の方に身体を出して、氷玉を構える。


  氷玉がラナーに向かって落ちていき、当たりそうになる少し前に俺は道に向かって氷玉を投げた。


  誰も居ないところに投げられた玉は、そのまま真っ直ぐ道を進んでいき、誰にも当たらずに通り過ぎる。


  そして、孤を描いた氷玉をラナーは後ろに下がって避けた。


  それが最善だろ?そして、意識は落ちてくる玉に向けられる。だからこそ、


 「はい、アウト」


  一発目に放った玉は、ラナーの頭に直撃するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る