氷合戦②
チーム分けが決まった後は、参戦会議だ。
流石に
一応、アンスールが作った
イスが頑張って温度を調節したとしても、0度前後が限界なのだ。
俺は自分のチームメンバーを見ながら、今回の作戦を伝える。と言っても、ほぼ無計画に近い。
「んじゃ2人1組を作ってペアで行動するように。それ以外は自由でよし」
「え?それだけ?」
トリスが拍子抜けの表情をする。
ただの氷合戦に、そんな大掛かりな作戦なんて無いに決まっているだろ。
それに、作戦を立てたところでどうこうできる相手では無い。
「それだけだ。ただし、組むペアはあまり話していない人と組むように」
「えー!!仁と組めないの?!」
「せっかくこんなにみんなが集まって遊ぶんだぞ?友好を深めるために、普段話さない人と話すんだ」
俺と花音は団長と副団長と言う役職に着いている以上全員と満遍なく話しているが、ドッペルとストリゴイはあまり話さない人とかいるだろう。
特にドッペルに至っては、三姉妹とも殆ど話していないはずだ。
「ふむ、ならば我はリーシャ殿と組むとしよう。ダークエルフ達とはそこそこ話しておるしな」
「よろしくお願い致します。ストリゴイ様」
「ふはははは!!“様”付けは辞めてくれたまえ!!今は
リーシャは知らないだろが、昔は吸血鬼達を束ねている王だったんだぞ。
スンダルの尻に引かれているけど。
「しかし私は奴隷で.......」
「団長殿の奴隷であって、我の奴隷では無い。それでいいでは無いか」
「........分かりました。よろしくお願いします。ストリゴイさん」
「本当は“さん”も要らぬが、まぁ良しとしよう!!」
おおらかで自由奔放なストリゴイと、少し硬いリーシャ。いいコンビとは言えないが、この氷合戦の中で仲良くなれるといいな。
リーシャが1番懐いているのは花音だが、いつも花音が隣にいてくれる訳では無い。
なるべく頑張って友好を深めてくれ。
「デハ、ワタシはトリスさんとペアを組みましょうかネ」
「え?私?」
自分が選ばれると思ってなかったトリスは、自分を指さしながらドッペルの方をむく。
おそらく、ロナを選ぶと思っていたのだろう。引きこもっていたとはいえ、少しは話したことのある仲だしな。
「エェ。確かにロナサンとも余り話したことはありませんガ、よくよく思い返すとダークエルフの三人とも殆ど話していないノデネ」
「んーそう言われるとそうかも。片手で数えるぐらいしか話した記憶がないかな」
「と、言う訳でよろしくお願いシマス。トリスサン」
「ん、こちらこそよろしくね」
少し独特なドッペルと、元気のいいトリス。このペアは能力的に見ればかなり強そうだな。
三姉妹の中では1番身体能力が高いトリスと、顔を変えることでどんな状況にも対応出来るドッペルゲンガー。
アタッカーとサポートがはっきり分かれている。役割がハッキリしている分、動きやすいだろう。
さて、残りはシルフォードとロナだが、この2人はよく話すからな。
シルフォードは仕事やプライベートでもよく話すし、イスとサラが遊んでいる時にその様子をよく一緒に見ている。
ロナは姉であるリーシャが花音にモフられている時に俺が相手しているので、よく話すのだ。
「あ、そう言えば、サラはどうしたんだ?今日は見当たらない様だが.......」
「ファフニールさんが、サラを強くしてやるって言って何処か飛び立って行った」
大丈夫かそれ。ファフニールは団員の中でも上位に入る問題児だ。
強いが故に自由奔放すぎる。団員の中で、唯一俺と本気でやり合っても勝てる存在だ。
仲間にする時にやったタイマンも、半ば運勝ちだったからな。
そんな強くて精神年齢が低そうなファフニールに連れられて、修行させられるのはもう不憫でしかない。
俺はサラの無事を心から祈るのだった。
「んーじゃぁ、私はシルフォードで」
「うげ」
シルフォードを選択した花音を見て、一瞬シルフォードが顔を歪める。
シルフォードは花音のことが少し苦手である。そりゃ、初対面の相手を鎖で縛り付けて思いっきり木に叩きつけるような人と心の底から仲良くしろと言われても、困るだろう。
花音もそれが分かっていて選択したっぽいしな。
「あー、仲良くな?」
「大丈夫!!私達は仲良しだよ!!ね?シルフォード?」
「カノンのそういうところが苦手」
ま、まぁ、軽口が叩きあえる仲ではあるようだし、大丈夫だろう。
初対面の時のように、花音をキレさせる材料は無いし。
「んじゃ、俺はロナとだな」
「よろしくお願いします。団長様」
ロナは俺の横にトコトコ歩いてきた後、ペコリとお辞儀をする。
うーんいつ見ても女の子。
俺は未だに、この子は自分が男だと思っている女の子では無いのかと疑っている。
いや、可愛ければ性別はなんでもいいか。
白く透き通った肌に、可愛らしい猫耳と尻尾。万人を狂わせるであろうその整った顔立ち。
正直、性癖が歪んでもしょうがないと思う。
「よろしくなー」
ロナの頭を軽く撫でながら、俺はイスのチームの方を見る。
あちらも作戦会議は終わったようで、イスが手を振っている。
「パパー!!終わったー?!」
「終わったぞー!!」
俺が返事をすると、足元から霧に覆われ始める。
この人数でも、まとめてイスの世界に行けるのか。相変わらず滅茶苦茶な異能だな。
しかも、その世界は極寒で全ての動きを止めることすらできるときた。
いつも思うが、強すぎるよその異能。
霧が晴れると、そこはイスが特設した氷合戦専用のステージがある。
態々氷合戦をやる為だけに、イスがまる2日かけて作ったのだ。
大人数用のステージと、少人数用のステージを分けてあり、今回使うのは大人数用だ。
普通にサバゲーで使うような複雑に入り組んだ障害物が多くあり、探知を使わなければ出会い頭に氷をぶつけ合うことになるだろう。
広さは大体2kmの正方形程度。既にチームごとに初期位置にいるので、イス達の姿は見えない。
どう見ても雪合戦でやる様な広さでは無いが、ここにいるのは人間離れした速さで走るもの達ばかりだ。
その気になれば、シャトルランできるだろう。
「.......寒いです」
「全てが氷で出来た世界だからな。そればかりはしょうがない。魔力を全身に覆っても寒さを和らげるのが精一杯だからな」
今の寒さは大体-15度程。俺ぐらいの魔力があれば問題ないが、流石にロナやリーシャ達の魔力では寒さを全く感じないのは無理である。
「イス!!もう少し暖かくできないか?!」
「分かったのー!!」
2キロ離れていても、その気になれば声は届く。イスの返事が聞こえると同時に、気温が少しづつ上がっていった。
「お久しぶりです」
「お、久しぶりだな。元気だったか?」
上がる気温を感じながら、のんびりとしていると後ろから声をかけられる。
この世界に生きる住民の1人、モーズグズだ。
「今回は随分と大人数ですね」
「そうだな。今回は楽しくなるぞ。大人数でやる遊びほど、楽しいものは無いからな。モーズグズもやる?」
「いえ、今回も審判を任されているので、お断りします」
それは残念。また今度お邪魔した時に誘うとしよう。
「ルールはわかっていますね?」
「大丈夫だ。説明したしな」
「わかりました。では、氷合戦を始めてください。ご武運を」
何度も盛り上がらない始まり方だ。もう少し、テンションを上げてくれてもいいだろうに。
俺はそう思いながら、チームメンバーに声をかける。
「遊びとは言え、勝負だ。遠慮なく喰っちまえ」
さぁ、イスチームVS仁チームの始まりだ。
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