氷合戦①

  庭に移動すると、そこには既に参加する面子が揃っていた。


  みんな仲良さげにワイワイと話している姿を見ると、この傭兵団を作ってよかったと思う。


  本来ならば、厄災級の魔物とダークエルフと獣人がこうして話す事はないのだ。この世界で唯一、見ることの出来る光景だろう。


 「あ、パパ!!ママ!!」


  俺達の姿に気付いたイスが、天使の様な笑顔を浮かべて抱きついてくる。


  最近は忙しくてあまり構ってやれなかったせいか、いつもよりもその笑顔は眩しく見えた。


 「おーイス。今日は氷合戦をやるんだって?」

 「そうなの!!皆を誘ったらいっぱい来てくれたの!!」


  流石は愛しの我が子だ。その可愛さにやられてみんな参加したに違いない。


  俺はイスを抱っこしてやると、そのままみんなの集まる場所へと足を運ぶ。


 「お久しぶりですネ。団長」

 「お前は本当に久しぶりだなドッペル。最近は引きこもって魔道具ばかり作っていたが、部屋から出る気になったのか?」

 「エェ、大体作りたいものは作ったノデ、しばらくは皆さんと交流しようカト」


  それはいい心掛けだ。殺し合うほど仲が悪くなられても困るし、なるべく皆が皆仲良くして欲しい限りである。


 「ア、ソウソウ」


  ドッペルは何かを思い出したかのように、マジックポーチを取り出すと1枚のコインを手渡してくる。


  見た限り、表と裏が分かる普通のコインだ。


 「これは?」

 「イカサマコインですネ。魔力を込めテ弾くと必ず表になりマス」


  うわ、クッソくだらねぇ。そんなもの態々イカサマコイン使わなくても表裏の操作ぐらいできるっての。


  抱っこしていたイスを下ろし、そう思いながら、試しに魔力を込めて弾いてみる。高速で回転するコインを目で追いながら裏になるタイミングで左手の甲に受け止め、上から右手で抑え込む。


  さて、本当に表になっているのだろうか?

 

  右手を開くと、“表”と書かれたコインが。おぉ、凄い。凄いけど、こんなクソしょーもない機能をいつどこで使うのやら。


  “いつ使うんだよ”と言った顔でドッペルを見るが、ドッペルはその能面な顔でも分かるぐらいドヤ顔をしている。


  これはアレか?すごいねって言わないといけないやつか?まぁいいや、それでドッペルが満足するならそれで。


 「うん、まぁ、凄いんじゃないか?ちゃんと裏を出したのに、表が出たし」

 「これは団長にあげマス。必要なら売るなり使うなりしてくだサイ」

 「記念に取っておくよ」


  一生使う事は無いだろうけど、せっかくの貰い物だし大切にポーチの中に仕舞っておくとしよう。もしかしたら使う時が来るかもしれないしな。


  コインをマジックポーチに仕舞ったあと、俺はワイワイと話している団員達に話しかける。


 「うし、じゃぁ氷合戦を始めるとするか。ルールが分からないやつはいるか?」


  手を上げたのはドッペルとスンダル、リーシャにゼリスの4人だ。


  4人もいるなら、他のメンバーにも確認の意味を込めてルール説明をするとしよう。


 「ルールは簡単だ。氷の玉に当たったら退場。どちらかのチームが全滅したら試合終了だ。異能や魔法の使用は禁止。身体強化のみを使ってくれ。持ち玉は1人10個づつもし玉がなくなったら、各地に設置されている補給所で玉を補充してくれ。ただし、持てるのは10個までだ。ここまでで分からないやつはいるか?」


  誰も手をあげない。みんな理解が早くて助かるね。


 「場所は死と霧の世界ヘルヘイムでやるんだよな?」

 「うん!!審判はモーズグズとガルムがやってくれるよ!!」


  贔屓が凄そうな審判だが、いないよりはマシだろう。


  ルールも説明し終わったし、次にやる事はチーム分けだ。


  全員が敵のサバイバルをやってもいいが、こんなに人がいるのだからチームを組んでやるとしよう。


 「チーム分けはどうする?チームの代表を決めて、1人づつ交互に選んで行くか?」

 「そうするの!!代表は私とパパね!!」


  元気よく頷くイスの頭を撫でながら、俺は誰を選ぼうか悩むのだった。


  花音は確定として、他をどうするかだよなぁ。正直、厄災級達はバランスブレイカーもいいところだ。


  イスなら間違いなくアンスールを取ってくるだろう。そして俺は、花音を取る。


  後は、メデューサかな?イスが、懐いているし、イスは強さ云々よりも好きな人を取るだろう。


  ストリゴイとスンダルはどちらでもいいかな。2人とも身体強化だけで見れば、同じぐらいだし。


 「どっちが先に取る?」

 「イスからでいいぞ」

 「分かったの!!じゃぁ.......」


  イスは、まず最初に花音の方を向いたが、何かを察したのか慌ててアンスールの方を見る。


  イスはまだまだ子供だが賢い子だ。おそらく、花音から溢れ出る見てはいけないような大人気ないオーラが出ていたのだろう。


  俺としては花音がチームにいなしてもいいのだが、花音はそうでも無いらしい。


  本当は花音を選びたかっただろうに、ごめんな?大人気ない子で。


 「アンスール!!」

 「私はイスのチームね?頑張るわ」


  1連のやり取りを見ていたアンスールは、苦笑いをしながらイスの後ろに立つ。


 「んじゃ、花音」

 「はーい」


  ここで花音を選ばないと言う冗談をかましてやりたかったが、それをやると後が怖いので大人しく花音を選ぶ。


  流石に冗談を言うのに、命をベットする気にはならない。


  元気よく返事をした花音は、俺の後ろに移動してきた。


  何コレ、選ばれた人は代表の後に立つのか?別に進行の妨げとかにはならないからいいけどさ。


  さて、次はイスの番だ。選ぶのはおそらく.......


 「んー次はメデューサ!!」

 「Yah!!イスと同じチームでーす!!」


  選ばれたメデューサは、嬉しそうにイスに抱きつく。メデューサとイスは仲がいいからな。


  アンスールはお母さん的な立ち位置にいるが、メデューサはよく遊んでくれる近所のお姉さんだ。俺達の仕事が忙しい時にはイスの相手をしてくれているのは、本当に助かる。


  どれだけ忙しくても2日に1回は構ってあげるようにしているが、それでもイスは寂しい思いをしているのだ。


 「俺はドッペルで」

 「アレ?ワタシなのですカ?てっきり吸血鬼夫婦のどちらかを選ぶと思ってまシタ」

 「ぶっちゃけ誰でもいいんだよ。久しぶりにドッペルと遊べるなら、偶には仲間として遊ぼうかと思ってな」


  島にいた時はいつも組手の相手だったから、お互いに殴りあってたしな。


 「殴りあった仲ですしネ。連携はバッチリでショウ」


  何を根拠に殴りあったら連携が取れると言っているのか分からないが、お互いに動き方を知っているので即興のコンビネーションはある程度あるだろう。


  その後もお互いにチームメンバーを決めていき、最終的にはこうなった。


 イスチーム


  代表ーイス

 メンバー

 アンスール、メデューサ、スンダル、ラナー、ゼロス、プラン、エドストル


 仁チーム

 代表ー仁

 メンバー

 花音、ドッペルゲンガー、ストリゴイ、シルフォード、トリス、リーシャ、ロナ


  バランスで見れば、大体いい感じになっているだろう。


  厄災級の強さを持つのが4人づつ、後は似た実力同士なのでどちらかのチームが圧倒的に強いこともない。


  俺はチームを分かりやすく見分けれるようにするため、赤色の布と青色の布を用意する。


 「イス、どっちの色がいい?」

 「青!!」


  俺は青色の布をイスの左腕に巻き付ける。これだ少しは見分けやすくなるだろう。


  イスチームは青、仁チームは赤の布を左腕に巻いて氷合戦の戦いに挑むのだった。

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