暴食の魔王
身構えている時に限って、何も起きない
さて、俺達がこの世界に来て3年。そしてさらにそこから1ヶ月も経った頃。
俺はつまらない毎日を送っていた。
「なーんで魔王は復活しないんだよ!!暇すぎるじゃねぇか!!」
「準備して身構えている時には中々やってこないものだよ。ほら、地震も“忘れた頃にやって来る”って言うでしょ?」
確かに、地震は忘れた頃にやって来る。だからと言って、魔王も忘れた頃に来なくてもいいんだよ!!
1番可能性のありそうだった、俺達がこの世界に来た日ぴったりに復活するということは無く、更にそこから1ヶ月特にこれと言った動きもない。
神聖皇国の封印されている魔王には監視をつけることが出来なかったが、正教会国の方には監視をつけているのだ。
そして、子供たちからは“異常無し”と言う報告しかやってこない。
最初こそ身構えていたものの、1ヶ月も焦らされれば緊張感は薄れていく。人は、常に緊張感を持てるようにはできていないのだ。
「いつ復活してもいいように、ずっと拠点に待機しているのも暇なんだよ。バルサルに買い出し行く時しか拠点の外に出てないし」
「それを言ったら、三姉妹や奴隷達はバルサルにも行けてないでしょ?贅沢言わないの」
「あー、それは確かにそうだな。奴隷達はともかく、三姉妹はどうやっても街には入れないだろうし」
ダークエルフは世間一般で見れば魔物の一種だ。俺達のように偏見がなく、魔物しかいない特別な環境で育った奴ならともかく、一般的な価値観を持った人から見れば人類の敵として見るだろう。
2500年前の先祖のツケを、今の代まで支払っているのだ。
「褐色の人間はいるんだから、耳を何とか出来れば街に入れたりするのかね?」
「ドッペルに今度お願いしてみる?ダークエルフの耳を隠すための魔道具を作ってくれって」
「いいなそれ。もし作れたら、奴隷達も連れてバルサルに行ってみるか。傭兵のギルドカードがあれば自由に街に出入りできるだろうし」
バルサルでは、白色の獣人が差別されることは無い。奴隷達も堂々と街を歩けるだろう。
「そう言えば、知ってる?どうやらエドストルはシルフォードの事が気になっているらしいよ」
「え?マジ?」
「マジマジ。最初はあんなに警戒していたのにねー」
ダークエルフの悪評は学の低い奴隷達でも知っていたようで、初めて顔を合わせた時は全員警戒していた。
その中でも、しっかりと教育を受けてきたエドストルはダークエルフがどのような事をしてきたのかを知っているようで、他の奴隷達よりも警戒心が強かったはずだ。
まぁ、三姉妹以上にインパクトのある厄災達がその後にゴロゴロと出てくるものだから、まだ人の形をした三姉妹は話しやすい方なのかと後々気づいていたが。
「団員同士の恋愛とかは禁止してないけど、大丈夫なのかそれ。主に、ラナーが怖いんだけど」
「私も同感。ラナーちゃん結構ぶっ飛んでるから下手したら埋められるかもしれないね」
「それは流石に勘弁してくれ。仕事出来る人が減ってしまう」
「じゃぁ、ナニを切り落とすとか?」
「ヒッ」
一瞬想像してしまったじゃねぇか。あれだぞ?男にとってそれはアイデンティティなんだ。それを切り落とすのは最早死刑執行と対して変わらないからな?
俺は心の中でエドストルが間違った選択をしないことを、心の底から祈るのだった。
彼が男でいられますように、と。
俺が心の中でエドストルの無事を祈っていると、聖堂の扉を空けて誰かが入ってくる。
気配からして、リーシャだな。
「団長様、副団長様。お時間よろしいでしょうか?」
「リーシャ!!モフモフ!!」
花音はリーシャの後ろに素早く回ると、その尻尾を全力でとモフり始めた。
最初こそ何かしらの反応をしていたリーシャだが、毎日の様にモフられて慣れたのか今では平然としている。
それでも、少し嬉しそうな顔をしているのは隠せてないけどね。
忌み嫌われてきた自分が、ここまで必要とされているのが嬉しいのだろう。
気持ちは分からなくもないが、それでいいのか。
花音はモフモフしていてマトモに話せそうもないので、俺が話を聞くとするか。
「どうしたんだリーシャ」
「はい。イスちゃんが遊ぼうと呼んでおります。なんでも、氷合戦?と言うのをやる為に人を集めているのだとか」
氷合戦とは、雪合戦の氷バージョンだ。
怪我をしないように脆く作られた氷の玉は、どれだけ本気で投げても怪我をさせるのは難しい。
つまり、まだまだ弱い三姉妹や奴隷達と遊べるのだ。
少し前までは、アンスールやメデューサが的当て遊びの相手をやっていたが、毎回同じ相手だと飽きるという話を聞いてこの氷合戦を教えてあげた。
この反応を見るに、リーシャはまだやったことがないのだろう。面倒見のいいプラン辺りが遊んであげてたのかな?
「誰が参加するんだ?」
「人型の方々は全員参加すると聞いています」
「え?ドッペルとかスンダルとかも参加するの?」
「はい。そのように聞いております」
マジか。あまりこういう遊びには参加しない2人も参加するのか。
スンダルは、鬼ごっこの相手をしてくれることはあっても、的当てには参加したことがない。
ドッペルに至っては、島を出た以降その殆どを魔道具造りに費やしている。
「ってことは.......三姉妹と奴隷達で8人。更にアンスール達を入れて13人。俺と花音とイスを入れて16人か。これは氷合戦大戦争ができるな」
「8人づつのチーム戦!!イスチームと仁チームでやろっか」
「いいなそれ。1人づつ交互に選んでチーム作って対戦したら楽しそうだ」
どうせ魔王はまだ寝ているし、団員達との交流を深めに行くとしますか。
そう思いながら、俺はイス達が待つ庭に向かって歩くのだった。
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「今日も何もなしか」
“神聖皇国の大聖堂の真下に魔王が封印されている”その情報がもたらされてから早三ヶ月。
そして、魔王が復活すると予言されてから3年と1ヶ月が過ぎた頃。
神聖皇国の首都である大聖堂カテドラは、かつてないほどの緊張感に包まれていた。
「おい、リュウジ本当にその情報は正しいのか?かれこれ1ヶ月だぞ」
「んな事言ってもしょうがないだろ?場所が書かれていただけで、いつ復活するかまでは分かってないんだから」
今、大聖堂内には戦闘員として戦えるものたちしか居ない。
その他の非戦闘員は別の教会に移動させられ、身の安全を確保している。
毎日のように見回りをしているアイリスは、静かにため息を着くと龍二の持っていたランプを手に取る。
「あ、おい」
「警戒はお前がやれ。私は疲れた」
「ったく」
そんな、夫婦のようなやり取りを忌々しげに眺める影とそれを窘める影が1つ。
「ねぇ光司くん。ここであの二人を燃やした方が世界が平和になると思うんだよ」
「いやいや、流石にそれは困るからやめてね?」
朱那と光司だ。
いつものように四人一組で見回りをする彼らは、こうして話しながらもしっかりと警戒は怠らない。
ただし、彼らの能力を上回る者がいた場合はどうしようもないが。
「シャ」
「シャー」
そんな4人の様子を
「は?“今日もイチャついてた。そしてその後ろでシュナがブチ切れてた”?こんな事まで報告書に書かなくていいのよ........」
そして、運悪くこの報告書を見たラナーは小言を言うのだった。
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