全てが始まる時

  魔王の居場所を見つけてからは、更に忙しかった。


  より正確な情報をかき集め、分かっている2箇所の封印場所以外も探し、三姉妹と奴隷達の稽古をつけ、自由奔放すぎる団員達を纏める。


  更には、各地の国に足を運んで子供達を放ち、11大国以外の国にも目と耳を広げた。


  特に、神聖皇国と正教会国の通り道になる国に甚大な被害が出ると困るので、そこを中心に子供達を放ったのだ。


  結果から言えば、神聖皇国と正教会国の2箇所以外には見つけることが出来なかったが。


  そんな慌ただしい日々を過ごし、あっという間にこの世界に来て3年と言う月日が経とうとしていた。


  日が沈み光り輝く星空が天に浮かぶ頃、俺と花音は聖堂に飾られている逆ケルト十字を眺めながら話していた。


 「明日でこの世界に来て3年か。長いようで短かったな」

 「私達ももう19歳だねー。来年は成人だよ」


  異世界に召喚された時が16歳。地球と月日の経ち方は同じなので、年齢の数え方もそのままだ。


  最初は俺一人だけが異能を使えず、神聖皇国に追放されるのではと思っていたが、まさかのクラスメイトに殺人計画を立てられる。


  それを知った俺は“いっその事死んでしまおう!!”と言い出し、龍二を残して国を去った。


  完璧な作戦だと思っていたら川に頭を打ち付けて気絶し、そのまま流されてあの島に行き着いて、望んでもいないサバイバル生活が始まった。


  そこでベオークに出会い、グレイトワイバーンに噛み殺されかけ、アンスールに出会い、厄災達にであった。


  今思い返しても、どうしてこうなったと思う事ばかりだ。


  さらに島から脱出した後は、エベレストよりもデカいアスピドケロンが仲間になり、ドッペルゲンガーが何故かヴェルサイユ宮殿を作り始めるし。


  まぁ、ヴェルサイユ宮殿は何気に俺も気に入っている。特に、今いる聖堂は俺の1番のお気に入りだ。


  無神論者ではあるが、この聖堂の落ち着き具合が個人的にはかなり好きである。祈りを捧げることは無いが、静かにボケーと座っている時が結構好きである。


  その後は吸血鬼の王国を吹き飛ばし、ダークエルフの三姉妹を仲間に加え、それを追ってきた悪魔をイスが瞬殺し、魔王を探す為にエルフの国へと赴いた。


 「ホント色々とあったな。日本にいたら今頃大学生か社会人だぞ」

 「受験勉強や就活をしなくて良かったのは、ある意味ラッキーだったね。日本にいた頃より、絶対お金もってるし」

 「それは間違いない。国家予算をまるまるパクったからな。何百億あるか分からんほど金があるぞ」


  更に、子供達が色々なところから金を盗んできている。もちろん、善良な一般市民から盗むようなことはしない。盗むのは、汚職にまみれたドフからすくい上げた金だけだ。


  どちらかと言えば、俺たちの方が犯罪じみた事をやっている気がするが、気にしたら負けだ。


 「3年かぁ.......お母さんは何をしているんだろう?」

 「花音の母さんは割とケロッとしてそうだけどな。ウチも多分、そこまで悲しまれないと思う。結構ドライな家庭だったし」

 「我が子よりも犬や猫を優先する人達だもんね......」


  昔、野良犬と喧嘩したことがあったが、その時のお袋は俺ではなくまず最初にその野良犬を心配していた。いや、そこは息子である俺を心配しろよとは思ったが、16年もそんな環境にいればなれるものである。


  唯一、妹の事が心配だが、あの子には守ってくれるお友達蜂や蝶が沢山いるのでなんとかなるだろう。


 「それよりも龍二の親御さんの方が心配だけどな」

 「あぁ.....そうだね」


  花音は何かを思い出して、苦虫を噛み潰したような顔をする。


  龍二の両親は龍二の事が大好きで、親離れならぬ子離れができないほど龍二を溺愛していた。


  龍二に近づく虫は何がなんでも払おうとするので、それが原因で花音と少し衝突したことがある。


  主に勘違いで。


  龍二が俺と花音を家に招いた時に、花音が龍二を狙っていると勘違いして忠告。


  そしたら花音は、龍二に興味ないと断言。


  すると龍二の両親は“うちの子に惚れないとかそれでも女か?!”と激怒。最初こそ聞き流していた花音だが、我慢の限界が来て反撃開始。


  いやーあの時は本当に面白かった。


  何とか場を収めようとする龍二と、キレて手の付けようのない花音。それに対して我が子の良さを説く龍二の両親、その惨劇を見て笑う俺。


  最終的には仲直り(?)したのだが、家の中はぐっちゃぐちゃになっており、更にはお互い怒鳴りまくっていたせいで翌日クレームが来たそうだ。


  もう笑うしかない。


  その日以降、龍二の家では遊ばないのが暗黙の了解となったのは言うまでもない。


  そして、そんな子離れできてなかった龍二の両親は、龍二がいなくなって大丈夫なのだろうか。


 「龍二って日本に帰るつもりとかあるのか?両親を安心させる為に」

 「ないでしょ。アイリスちゃんとよろしくやってるらしいし、全てが終わったら2人で仲良く神聖皇国を守るんじゃない?」

 「あ、もしかしなくても、約束は果たされない?」

 「多分。今のところ、アイリスちゃんの勧誘は蹴ってるみたいだけど、十中八九断ると思うよ」


  女の尻に負けた男の友情。まぁ、女を作っておいて、男の友情を取ろうものなら殴り飛ばすけどな。


  身体強化を全力でした上で、キッチリ顎を狙ってやる。


 「約束については、どっちでもいいか。俺も面白そうだからやっただけで、別に強制はしないしな」

 「面白そうだからって理由だけでここまで戦力集めている時点で、相当イカれてるけどね」

 「それはアレだ。仲間に出来るやつらがそれしかいなかったんだ」


  人外ばかり集まったせいで、その戦力の殆どを動かせないとか言う本末転倒すぎる自体に陥っているが。


 「そういえば、光司と黒百合さんも順調に強くなったみたいで、子供達から見ても強いって評価されるぐらいにはなってたな」

 「実際に見てはないから、なんとも言えないけどね。それでも強くなっているのは間違いないと思うよ。私達だってこれだけ強くなったんだからね」

 「そうだな。再開するのが楽しみだ」


  ふと立て掛けてある時計を見ると、0時を過ぎている。


  日付が変わり、ちょうど俺達がこの世界に来て3年になった。


  そして、魔王が復活すると予言された年になる。俺達がこの世界に来ることになった理由である、大魔王の復活がついに始まるのだ。


  やれることは出来る限りやった。不測の事態に備えて、何があってもいいようにいくつもの綿密な作戦も立てた。


  仲間たちも集め、資金は腐るほど用意してある。そして何より、俺達は厄災級と渡り合えるほど強くなった。


  後は、サイコロの目が幾つになるのかを見守るだけである。


 「さて、神に祈るほど敬虔な信徒な訳でも無いが、一応祈っておこうかな」

 「そうだね」


  俺と花音は立ち上がって逆ケルト十字に背を向けて歩き始めながら、祈りの言葉を口にする。


 「「血に錆びた槍の元に」」


  さぁ、全てが始まる時だ。




これにて第一部4章は終わりとなります。そして、第一部“三年の猶予”も終わりです。次からは第二部となります。

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