みーつけた
翌日。今日も今日とて報告書に目を通す。要るものと要らないものを事前に分けているにもかかわらず、どこかの境界線上にある小説と同じぐらい分厚い。
しかも、この束が11個もあるのだ。一日で目を全て通すのは無理なので、何日かに分けて目を通すのだが一向に終わらない。
そんな書類地獄に追われる中、遂に手がかりを見つけたのだ。
「“悪魔らしき者を発見した”ねぇ.......」
「悪魔を見つけたの?」
少しうんざりした顔をした花音が、俺のつぶやきに反応する。
最初こそ張り切ってやっていた書類の確認だが、一切進展が無く国の内情だけを見せられていたら、そりゃうんざりもするだろう。
俺だって大分うんざりしている。
「悪魔だとは断定できてないらしいが、おそらく悪魔なんだと」
「悪魔の容姿とか分からないはずだけど、どうやって悪魔って判断したのかな?」
「この報告書には、“獅子のような姿をした人ではない者が人の言葉を話していたから”って書いてある」
思い返せば、俺たちのところに現れた2体の悪魔も犬と猫だったし。
ロムスに見せてもらった悪魔の一覧に、獅子の姿をした悪魔って書いてあったのを思い出す。
ただ、その名前を思い出せない。2年前にチラッと見た程度で、メモも何も取っていなかったからな。
しっかりとメモは取っておくべきだった。
「見かけた場所は?」
「神聖皇国の首都近辺の森だそうだ。おそらくあそこだな」
「あそこだね」
俺たちが始めてゴブリンと戦ったあの森。首都に近い森といえばそこしかない。
森に潜伏場所があるのか、それともただ通りかかっただけなのか。どちらかは分からないが、悪魔を見つけたのは大きな進展になるだろう。
「その悪魔(仮)は1人で森の中を歩いていたの?」
「報告書にはそう書いてあるな。なんでも、独り言を言って歩いてたらしい。“なぜワシがこんな事を.......”って言ってたそうだ」
「そのセリフだけ聞くと、苦労人かプライドの高い人のどちらかだよね」
「俺はプライドが高い方に1票かな」
「私も同じだね。プライドの高い方だと思う。獅子って言う時点で、プライド高そうなイメージだもんね」
獅子という事は要はライオンだ。ライオンってプライド高そうなイメージあるじゃん?
話しが脱線したな。
「今は
「だといいね。コレで、放浪してた獣人でしたってオチだったら笑えるけど」
それはそれで話のタネになる。そんなところに放浪している獣人の一生とか見てみたい。
まぁ、普通に悪魔で、魔王の居場所をポロリと吐いてくれた方が有難いが。
「あ、結局暗殺は失敗したみたいだね」
花音は自分の見ていた報告書から1枚の紙を取り出して、俺に見せつける。
そこには、何十名もの逮捕者リストが書かれていた。
「これは?」
「ほら、2ヶ月前に奴隷達を買ったでしょ?その時に紹介状を書いてくれたジーニアスっておじさんがいたの覚えてない?」
あー、思い出したぞ。確か、家ごと天国まで吹っ飛ばされるとか言う中々派手な暗殺を考えてる連中がいたやつか。
2ヶ月前に1度だけしか会ってない奴の事なんて、余程特徴的な奴でないと覚えてないよ。いや、特徴的だったか。片目潰れてたし。
「って事は、この逮捕者リストはジーニアスの家を汚い花火で打ち上げようとした連中か」
「そゆこと。子供達は殺しじゃなくて情報を流す方を選んだみたいだね」
計画書が何かを盗み出して、獣人会辺りに垂れ流したのか。
彼らの顧客の中には、政治的立場が高いもの達もいる。適当な理由で引っ張る事は容易いだろう。
「しかし、なんで殺さなかったんだ?殺した方が早いし確実だろ?」
「んーとねー。殺して死体を隠した方が騒ぎになると判断したそうだよ。子供達は子供達なりに考えて行動しているみたい」
それは嬉しい限りだ。徐々に臨機応変に対応できるようになっているんだな。
俺が命令したのは“おっさんを守れ”ということであって、手段までは命令していない。子供達は、俺が目立つような行動を嫌う事を考えて、なるべく自分達では無く現地の人々を動かすやり方を考えたのだ。
今度いっぱい褒めてやろう。もちろん、高級な肉を持って。
「ついでに、金庫から幾らかお金をパクったって。今影を通って輸送中との事だよ」
「...........はぁ?」
金をパクるのは、まぁ良しとしよう。暗殺を考える連中が、舐めても問題ないくらい綺麗な金を使っているとは思えない。
この世界では
問題は、今それをこちらに持ってきている事だ。どうしても金が入用なら話は別だが、まだ金庫には腐るほど金がある。
わざわざこの遠い道のりを歩いてくる必要は無いのだ。と言うか、道は分かるのか?
「なんで持ってくるんだ?適当に保管してくれておいていいのに」
「さぁ?価値観の違いかな?魔物と人間じゃ物の価値は違うってあの子たちも分かっているからじゃない?」
「?」
「お金は人間にとって大切なもの、仁にも必要だから持っていった方がいいって判断したんじゃないのかな?」
だとしても、この距離を歩いてくるのはアホとしかいいようがないだろ........
空を飛べば5時間で着ける場所にあるが、逆に言えば空でも5時間はかかるのだ。地形を全部無視して、超高速で飛んでも5時間はかかるんだぞ?
せめて、この金をどうするのか聞くぐらいはして欲しかった。
「後で
自分で考えれるようになったのは嬉しいことだが、こういうトラブルもあるんだなと思いながら、その日も報告書に目を通すのだった。
それから三ヶ月後、毎日のように聖堂で報告書を見ていると、バン!!と勢いよく扉が開かれる。
それらを振り向けば、シルフォードが肩で息をしながら走ってきた。
「団長!!」
「どうしたシルフォード。サラとイスが喧嘩でもしたのか?」
「いやそれはいつもの事!!それよりも!!」
あぁ、いつもの事なんだ。たまにアンスール辺りから喧嘩してたという話は聞くが、そんなに喧嘩ばかりしているのか。
俺がイスの様子を見に行く時は仲良く遊んでいるように見えたけど、あれももしかして喧嘩してたりするのか?
「それよりも?」
「見つけた!!魔王の封印場所を2箇所!!」
「マジか?!」
思わず立ち上がる。膝の上に載せていた報告書が地面に落ちるがそれどころではない。
遂に見つけたのだ。残り五つの場所が分かっていないが、一つも分からないよりはマシである。
「それで?!場所は?!」
「これ」
シルフォードは手に持っていた紙を俺に手渡す。
俺はその内容を見て固まった。
「........え?ここ?」
「子供達から送られてきたのはここだった。悪魔をずっと尾行してたら見つけたらしい」
ひとつは正教会国のとある遺跡の場所。
そしてもうひとつは神聖皇国の首都。しかも、大聖堂の真下だった。
「まぁ、どこにいるにしろ、これは言っておくか。魔王君、みーつけた」
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