見えぬ魔王

 奴隷達が仲間になってから2ヶ月が過ぎた。彼らは最初こそ戸惑っていたものの次第に慣れていき、今は三姉妹と同じように仕事をしてくれている。


  人が増えれば当然作業効率は上がり、俺のところに上がってくる報告書の量も増えていた。


  聖堂で今日もその報告書に目を通す。


 「大エルフ国は悪魔や魔王の気配ナシか。かなり隅々まで調べても出てこないってことは、大エルフ国はハズレかな?」

 「そうかもね。ウロちゃんのように認識を阻害できる結界が張られていたりしたら別だけど」

 「そうか、その可能性があるのか。流石にウロボロスレベルの結界が張られていたら、子供達だけではどうしようもないな」


  子供達は強いが、それでも上級魔物。中には最上級魔物レベルにまで強い子もいるが、規格外の厄災級には叶わないのだ。


  悪魔の中には、厄災級の強さを持つやつも居るらしいからな。ウロボロスのように結界を張れる悪魔がいるのかもしれない。


 「ベオークでも送る?」

 「ベオークなら結界も何とかできそうだけど、1人だけであのクソ広い大地を虱潰しに歩くのか?俺達に何百年と時間が残されているなら別だが、後半年程度じゃ無理だ」

 「だよね。言ってみただけ」


  あと半年、それが俺達に残された時間だ。復讐の為に色々とやって来たが、まずは魔王を倒さないと何も始まらない。


  ただ魔王を倒すだけならば、復活を待つといった手段も取れるだろう。


  しかし、俺たちはそうもいかない。


  神聖皇国や正教会国、どちらかに甚大な被害を出す訳にはいかないのだ。


  この2ヶ国には、戦争を起こして貰わないとならない。あまりに被害が大きすぎて、戦争所ではない状況は勘弁である。


 「神聖皇国は少し前に悪魔の被害があったようだな」

 「私達が悪魔を倒した少し後に、龍二達が悪魔を倒しているね」


  大エルフ国の資料を見終えた俺は、神聖皇国の資料を手に取る。


  この二ヶ月間の間に、11大国全てに子供達を放ってきた。


  神聖皇国の場合は、首都に降りると顔見知りがいるかもしれないので2番目に大きい都市であるゼストラに降り立った。


  俺達の存在が公に出るのはまだ早いので、観光も殆どせずに子供達を放つだけでその場を立ち去った。お土産だけはしっかり買ったが。


  もちろん、龍二やアイリス団長には会っておらず、様子すら見に行ってないのでどこで何をしているのかは分からない。


  もう少しすれば、子供達が情報を持ってくるだろう。


 「街がまるまる1つダメになったのか。これは経済的にも、キツイな」

 「ミルドレは海産物が豊富に取れる街で有名で、それなりに大きい街だったそうだよ。その街の人間全てが、悪魔に洗脳されたのはかなり痛手だろうね」


  この事件によって、神聖皇国上層部が躍起になって悪魔探しを始めている。


  それもそのはず、同じように洗脳されている街があったら大問題だ。早急に各街を調べなければならない。


 「うわ、すごいな。聖堂騎士団の第一団長まで動いているぞ」

 「第一団長って言うと、あの爽やかイケメンの人?」

  「そうそう。1度だけ指導してくれたあの金髪ロン毛の人」


  第一聖堂騎士団団長ジークフリード。彼ははっきり言って化け物だ。


  そこら辺の灰輝級ミスリル冒険者よりも強いと言われており、実際に手合わせをしてくれた際には手も足も出なかった。


  今の俺達とやり合ったら勝てるかどうかは分からないが、少なくともアイリス団長よりも強いのは確かである。


 「首都の防衛は大丈夫なのかな?」

 「大丈夫だろ。騎士団がいなくとも、冒険者はいるからな」

 「あぁ、傭兵は住みにくいけど、冒険者は多いもんね」

 「それに、あそこにはロムスがいる。剣聖と名前を並べられる程の強さを持っているんだ。最上級魔物レベルの悪魔程度なら瞬殺できるんじゃないか?」


  実際の強さを見た事がないのでなんとも言えないが、少なくとも俺達を襲った悪魔程度は余裕で勝てるはずだ。


  ウチの子ですら瞬殺だったしな。


 「でも、何で禁忌なんだろうね。神聖皇国なら“神域”とかの方が納得できるのに」

 「“神域”カムイか。確かに名前だけなら、そっちの方が神聖皇国っぽいよな」


  “神域”カムイ。ロムスと同じく、灰輝級ミスリル冒険者であり、領域系の異能を使って戦う。


  詳しくは分からないが、その異能は正に神の領域と言われ、それを見た者は堪らず彼女を崇めるそうだ。


 「国を代表する冒険者なんだから“禁忌”よりも“神域”の方が、絶対聞こえはいいよな。もう少し魔王捜索に余裕が出てきたら、そこら辺も詳しく調べさせるか」

 「それはいいかもね........正教会国も少し悪魔の被害があったっぽいけど、魔王に関する情報がないね」

 「正教会国も、今のところ何もなしか。これは神託が下されるのを待つしかないのかもな」

 「神託?」


  花音が可愛らしく首を傾げる。


 「あぁ、俺達を召喚できるような力を持った女神が、魔王の居場所を知らないわけがないだろ。ましてや、復活する事を予言しているんだから」

 「まぁ、そうだね」

 「今もこうやって探してはいるが、もしかしたら、普通に探すだけではどうやっても見つけることの出来ない場所に封印されているかもしれない」

 「どゆこと?」

 「例えば、別次元に幽閉されていて、そもそもこの世界に魔王が存在しないとか」

 「封印する際に、この世界じゃない別の何処かに飛ばしたってこと?」

 「そういう事だ。宇宙に飛ばされても考えるのをやめなかったカー○ってことだ」

 「........?ちょっと何言ってるのか分からない」


  うん、俺も言ってて何言ってるのか分からなかった。


  大丈夫かな、俺。最近資料と睨めっこし過ぎて疲れてきたのか?慣れないことはするもんじゃないな。


 「ま、まぁそんなわけで、女神以外は魔王の場所を知らないと考える」

 「悪魔は?」

 「悪魔は知ってるだろ。ただし、悪魔が集まっている場所が魔王がいる場所とは限らないから、悪魔から魔王の居場所を辿るのも難しそうだけど」


  ひょんなことからポロリと居場所を言うかもしれなが、まず悪魔すら見つけていない状態ではどうしようもない。


 「と、なると後は神託便りだ。もし、神託がなければなるべく早く行動できるように、あちこちに監視をつけて見張ってなきゃいけないし、出来れば神託はして欲しいな」

 「もし、仁の考え通り魔王が別次元にいるとして、なぜ女神は神託をしないのかな?」

 「さぁな。神にも何かしらのルールがあって神託ができないのか。神託をするのは今ではないと判断しているのか。分からないところだな」


  あくまでこれは推測だ。女神の神託云々は別として、魔王が別次元にいると決まった訳では無い。


  時間ギリギリまで探し続けるつもりではいる。が、見つからなかった時の対応も考えておかないと、何も情報が得られなかった時に後手に回ってしまう。


  俺は持っていた資料から目を離して、ため息を着く。こういう大局を見据えるのは苦手なんだよな。


  実際にソイツを見て、どう動くかを判断するのは得意なのだが、国単位、ましてや魔王とその愉快な仲間たちの行動なんて分かるわけないだろうに。


 「あぁ、めんどくせぇ」

 「頑張ろ。今は頑張る時間だよ」

 「分かっているけど、身体は拒否するんだよ」

 「.......後でリーシャのモフモフ少しさわらせてあげる」

 「頑張る」


  そんなくだらないやり取りをしながら、今日がすぎていく。


  ちなみ、三ヶ月後。俺の予想は大ハズレだった。


  普通に魔王の封印場所が見つかったのだ。しかも2つ。


  なんと言うか、その、アレだ。うん。アレなんだ.......ちょっと格好つけてたのが恥ずかしい。

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