デジャブってやつ?
さて、人気のない場所に辿り着いた訳だが、未だに奴隷達はダウンしているままなので、俺の異能の中に居てもらうとしよう。
崩壊の力を使わなければ、黒い物体としてそこにあるだけの異能と言うのは不便なようで便利である。
「イス、頼むよ」
「分かったの!!」
イスは元気よく返事をしたあと、その姿を竜へと変貌させていく。あの小さな少女が、恐ろしくも美しい竜に変身するとは誰も思わないだろう。
俺や花音からすると、この竜があんなに可愛い子供に変身するとは思っていなかった訳だが。
「キュイ!!」
竜の姿になったイスが、俺達に乗るように促してくる。
俺と花音はイスの背中に飛び乗ると、背中をポンポンと叩いて空を飛ぶように合図する。
「キュィィィ!!」
イスは元気よく吠えた後、自身の周りに霧を出現させて空を舞った。
行きは8時間程かかったが、帰りは場所をわざわざ確認しながら飛ぶ必要も無いので半分近い時間で、済む。
やはり、地形を完全に無視できる空は便利だな。もっと時代が進めば、この世界にも飛行機のようなものが飛び始めるのかもしれない。
そうして5時間程の空の旅をした俺達は、無事に拠点に帰ってきた。
「おかえり、ジン。思ったより早かったわね。後、一日二日かかると思っていたのだけれど」
「ただいまアンスール。本当は観光もしてお土産を買ってこようと思ったんだがな。買ってきた奴隷達が表に出せるような面子じゃなかったんだよ」
「奴隷って、あそこで倒れてる白い子達かしら?」
「あぁ、走ってダウンし、復活したと思ったら空の旅でダウンしたからな。中々体験できないだろうと思ったんだが、どうやら恐怖の方が強かったらしい」
30分間程で奴隷達は復活したので、せっかくだし空の旅を見せてやろうと囲っていた黒の物体を退かしたのだ。
まずはその高さに驚き、そして自分たちが竜の上に乗っていることに恐怖し、普段は体験できないからこそ精神的な疲れが溜まったのだろう。彼らは再びダウンしていた。
「あら、団長さん帰ってきてたのね。旦那と三姉妹を呼んでこないと」
「ただいま、スンダル。ストリゴイと三姉妹は何をしているんだ?」
「息抜きがてらに手合わせをしているわよ。あれぐらいの時は、成長が著しくて見てて楽しいわね」
「是非とも、俺とタイマン張れるぐらいまで頑張って欲しいな」
「それは無理よ」
さいですか。
遊び相手が増えるかと思ったのに残念だ。いや、タイマンは無理でも三人同時なら遊べるかもな。今度暇な時間を見つけて誘ってみるか。
俺はのほほんとこちらを見つめるスンダルに、ストリゴイとは三姉妹を呼んでくるように頼む。
「ガルゥ!!」
「ゴル」
「「「グ、グルゥ.......」」」
奴隷達に紹介をする為に団員が全員揃うのを待っていると、フェルリルとマーナガルムがこちらへ猛ダッシュして突っ込んでくる。
ケルベロスはいつも通りに暴れる二匹の面倒を見ており、既にクタクタだ。
「フェーン!!」
「ガルゥッ」
花音はフェンリルの巨体をがっしり受け止めると、そのまま背負い投げをしてフェンリルの背中に土をつける。
そして、フカフカのお腹にダイブをしてモフモフを堪能していた。
俺からしたら見慣れた光景だが、奴隷達からすれば巨大な狼が飛びかかってきてそれを花音が投げ飛ばした後、その腹にダイブするとか言う意味不明な状況である。
ちなみマーナガルムは俺に飛びかかろうとはせずに、目の前で立ち止まって俺の顔をペロリと舐めた後、そのフカフカな尻尾を俺に巻き付けていた。
「アイツらは元気が良すぎるな」
「ゴルゥ」
「グルゥ」
「お?どうしたケルベロス。何か言いたげだな」
「グルゥ.......」
何を言っているのかは分からないが、多分“お前らも同類だよ”と言われた気がする。
失敬な、俺たちはあそこまではしゃいだりはしないぞ。
「あ、そうそう。そこでビビりまくってる白色の獣人5人が新しく俺たちの仲間になるから、仲良くな」
「ゴル」
「グルゥ」
ケルベロスとマーナガルムが少し離れた場所から静かに頭を下げる。
奴隷達は引きつった顔をしながらも、何とか会釈を返す。
この反応を見ていると、三姉妹を思い出すな。彼女達も同じような反応をしながら、恐る恐る挨拶をしていたものだ。
今では、仲良く話しているけど、やはり見た目だけはかなり恐ろしいからな。ビビってしまうのはしょうがない。
ビビりまくられて少し凹むマーナガルムとケルベロスの頭を、俺は優しく撫でるのだった。
「団長、帰ってきたんだ。おかえり」
「おかえりなさいませ」
「おっかえりー」
凹むマーナガルム達の頭を撫でていると三姉妹とスンダル達がやってくる。
いつの間にかユニフォームのようになっている黒いコートと、その右肩にはトレードマークの逆ケルト十字。最初来ていた時は服に着られていたが、少し着慣れてきたのか様になってきている。
「ただいま。手合わせしていたんだって?どうだった?」
「三人でかかっていっても、軽くあしらわれる。まだまだ修行が必要」
「ふはははは!!当たり前だろう!!団長殿や副団長殿程追い込んでやっていれば別だが、最低限の自衛ができる程度しか鍛えていないなら、負ける道理など無いわ!!」
ふはははは!!と笑うスコリゴイを呆れた目で眺めるスンダル。彼女の目は“全く、すぐ調子に乗るんだから”と言わんばかりだ。
何と言うか、花音が俺を見る時もこんな目をしている時があった気がするぞ。
「それが新しい人?」
高く笑うストリゴイを無視しながら、シルフォードは俺の後ろで震える奴隷達を見つめる。
どこか同情的な目で彼らを見ているのは、かつての自分と照らし合わせているのだろう。
「そうだ。そこの三本尻尾が生えた子は花音の奴隷だから別だけどな」
「そう。4人増えるってことでいい?」
「あぁ、部屋はあるだろ?」
「うん。4人どころか、10人居ても問題ない」
やっぱあの宮殿はデカすぎるわ。鬼ごっことか普通にできるもんな。
これなら問題なく仕事ができるだろうし、一人一部屋を与えれる。
姉妹と夫婦は同じ部屋を希望するのかな?後で聞いておこう。
「仕事は教えれるか?」
「問題ない。こうやってゆっくり話せる暇がまだあるから、その時間を減らせばいい」
給料とか払っていれば特別手当をだしてもいいのだが、生憎彼女たちはダークエルフであり、人の街を歩くことができない。
今度、何か欲しいものを代わりに買ってあげるとしよう。
「今度欲しいものを言ってくれ」
「んー、私は特にないから、妹達に聞いておく」
「あぁ、そう.......」
欲まみれなのは困るが、無欲は無欲で困るな。仕事には対価をと思ってこの傭兵団を率いているが、大抵の団員は何かを望んだりはしないのだ。
何故かって?彼らは退屈なあの島から抜け出せたのが、最大の報酬だと思っているからだ。
自由気ままに空を飛び、目新しい景色を眺める。
それだけで、長寿である彼らは何百年もの時を楽しく過ごせるのだ。それに、あの島と違って人間という玩具もある。
今は俺が居るからアホなことはしないが、俺が死んだあとは好き勝手に暴れたりするだろう。
まぁ、それはその時の問題だし、俺は関係ないからいいか(無責任)
その後、奴隷達と団員の顔合わせを終えたのだが、三姉妹と同様な表情をしていて、とても面白かった。
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