ランニング!!
自己紹介を終え、その後は親交を深めるべく色々な話を聞いた。
奴隷になった経緯や、異能についてもっと詳しく聞いたり、好きな食べ物など、くだらない事を沢山話した。
一晩だけだったので、話せることには限界があったが、少しは彼らの事を知ることができただろう。
奴隷達がテントの中に入って寝静まり、イスも寝かせた後、俺と花音はぼんやりと焚き火を見ながら話をしていた。
「白色の獣人は全員異能持ちなんだな」
「みたいだね。ものによっては使いにくいだろうけど、今回買った子達はどれもそれなりに使えそうだね」
「唯一、エドストルが力量差によって完全に使い物にならなくなるが、格下相手なら一切近寄らせる事無く完封できるだろうな」
一対多に優れている異能だ。ただし、相手が格下に限る。
参加させる気は正直無いが、もし神聖皇国と正教会国との戦争に参加する場合に役立つだろう。
まぁ、リントヴルムの隕石落とした方が早いんだけどね。
「でも、なんで白色の獣人は全員異能が使えるんだろう?何か秘密があるのかな?」
「そうだな。白色の獣人と白色の獣人が交わって子供を産んでも、普通の獣人が生まれるそうだし謎が多い種族だ」
「戦争が終わったら、そう言う謎を解き明かす旅に出てもいいかもね」
「大抵の事はファフニールに聴けば分かる気がするけどな........」
生きた辞典とは正にファフニールの事だ。1を聞けば、10が返ってくるからな。
パチパチと音を立てながら燃える焚き火に、薪を足しながら俺はゆっくりと伸びをする。
「そろそろ寝るか。最初の火番は俺がやるよ」
「分かった。私はここで寝るね」
そう言って花音は、俺の肩に頭を乗せる。アニメやドラマでよくあるシーンだが正直に言おう、邪魔である。
しかし、ここで正直に“邪魔”と言った日には花音にくびり殺されそうなので、俺は大人しく花音に「おやすみ」とだけ言うのだった。
翌朝。日が登り始めた早朝に、俺はみんなを起こして回る。
「パパ!!おはようなの!!」
「はいはい、おはようイス。相変わらず元気だな」
こんなクソ早い朝っぱらから、俺の胸に飛び込んでくるイスを受け止めながら朝食のアポンの実を全員に手渡す。
肉を焼いても良かったのだが、俺の胃袋が“朝から油物は無理”と言っていたので果物になった。
獣人とはいえ、彼らも肉だけを食って生きている訳では無い。果物も食べてくれるだろう。
と、思っていたのだが.......
「あの、団長殿」
「ん?どうした?」
話しかけてきたのはゼリスだ。彼は俺から受け取ったアポンの実を持ちながら、質問をしてくる。
「これはどうやって食べるのですか?」
「.......え?」
どうやってと言われても、齧りつけとしか言いようがない。ってか何でそんなことを聞くんだ?
「どうって普通に食べるだけだけど......真ん中にある硬い芯は無理して食わなくてもいいから」
俺はアポンの実に齧り付いて、実践してみせる。何と言うか、少し恥ずかしかった。
「そのように食べるのですか。ありがとうございます」
「え?うん。どういたしまして?」
混乱する俺に、エドストルが近づいてきて耳打ちをする。
「アポンの実は、獣王国では大変高級な果物なのです。ただでさえ、底辺に近い生活をしていた白色の獣人がアポンの実を食べる機会はそうそうありません」
「あーなるほど。それで俺に食べ方を聞きに来たのか」
中には、間違った食べ方をすると痛い目を見る食べ物とかあるからな。日本で言えば、フグとかがいい例だろうか。
シャリッといい音を立てて、アポンの実を齧りながら俺はあまりの美味しさに目を見開いて食べている奴隷達を見るのだった。
この果物、バルサルでは銅貨1枚で買えるんだけどなぁ.......
時間停止機能がついているマジックポーチでも、持ってこれる量には限界がある。
嗜好品としての色が濃いアポンの実などの果物は、育たない地域では高級品になるのだろう。
転売業を始めたら物凄く儲かるかもしれないな。イスの背中に乗って飛ばなくても、俺自身が空を飛べば4~5時間で着くだろうし。
そんな事を思いながら朝食を終えると、俺達は拠点に活動帰るために移動を開始する。
が、流石にここでイスを変身させる訳にはいかない。何故かって?まだまだ人目が多いのだ。
霧に紛れて飛ぶとはいえ、大勢の人目に触れるのはあまり好ましくない。もう少し離れた人気のない場所から飛び立ちたい。
と、言うわけでちょっとした体力テストをしてみよう。
アポンの実を食べ終えた奴隷達を集めると、俺は話し始めた。
「さて諸君。今から君達には走ってもらう。俺の後を着いてくるだけでいい。無理もするな。キツくなったら言え。特にペナルティはないし、頑張ったところでご褒美もない。んじゃ、行くぞー」
物凄く適当な説明だが、これでいいでしょ。
唐突に始まったランニングに、困惑しながらも全員走って着いてくる。
最初は身体強化無しの軽いジョギングから。俺が日本にいた時の足の速さだ。
「流石にこれは着いてこれるみたいだね」
「これで脱落されたらマジで困るぞ。せめて身体強化を使うまでは頑張って欲しいな」
後ろをちょこちょこと確認しながら、ゆっくりと、走る。まだ全員余裕そうな顔をしているな。奴隷として閉じ込められていても、獣人の筋力や体力は衰えづらいらしい。
俺は3分ぐらい走って身体を慣らした後、少しづつ走る速さを上げていく。
イスも花音も隣で余裕そうに走りながら、身体強化を使わずに走れる限界速度まで到達した。
2年前の俺なら、数十秒走っただけで息が切れていただろうが、今の俺はあのクソッタレな島で尋常ではない程鍛えられているのだ。身体強化無しの全力疾走程度で疲れることは無い。
なんかこうやって走っていると、初めてこの世界に来た時のことを思い出すな。その時は身体強化に慣れなくて、壁にぶつかりまくってたけど。
さて、この速さでも全員頑張って着いてこれているようだ。
全員身体強化を既に使っているが、何年もあの暗がりの中に閉じ込められていながらここまで走れるのは関心である。
「プランとリーシャが少し辛そうだな。大丈夫かー?」
「問題、有り、ません」
「大、丈夫、です」
少し息が切れているが、まだ返事ができるだけマシか。
「ベオーク。無理してないかよく見ておいてくれ。もし、ダメそうなら糸で釣り上げろ」
『り』
俺はベオークに監視を頼んでおく。ベオークは走らずに、俺の影の中でボケーとしているだけだしな。
ところで、『り』って“了解”って意味だよな?略語とかどこで覚えてきたんだよコイツは。いやまぁ、俺が教えていないのだから、花音が教えたんだろうけどね。
俺には伝わるから問題ないが、他の団員は伝わらないだろうからその返事をするのはやめておけよ?
こうして、ランニングをしながら人気のない場所まで移動して行ったが、最終的には奴隷達全員がダウンしてしまった。
予想よりも粘っていたが、やはり俺達の最速に着いてこれるだけの足は持っていなかったようだ。
「全員ダウンしたし、いつも通りの速さで走るか」
「「はーい」」
花音とイスの返事を聞いて、俺は身体強化をフルで使う。
奴隷達は俺の異能の中で休んでいるので問題ない。こういう微妙な事には役立つんだよな俺の異能は。
そう思いながら、俺達は森の中を爆速で駆けるのだった。
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