似た者同士

  闇奴隷市場“ドゥンケル”にて、俺が買うことになったのは全員で5人。1人は花音のモフモフされる係なので、事務仕事云々は4人で回すことになる。


  これで足りるのかどうか分からないが、最近は子供達も少しずつ必要な情報と不必要な情報の区別がつくようになってきているので、多分大丈夫だろう。


  もし足りなかったら、また買ってくればいいだけだしな。


  5人の金額は大金貨3枚と金貨6枚ちょっと。日本円で約3600万円だ。


  日本に居た頃なら、間違いなくこんな大金の買い物はできないだろう。と言うかしたくない。


  ちなみに、奴隷の中でも彼らはこれでも安い方だと言う。白色の獣人は需要が無くてあまり売れない。


  それでも商品として扱っているのは、俺達のように白色の獣人を恐れない他国から来た人達用なのだとか。


  見た目はかなりいいからな。白色で清潔感があって。個人的には、灰色とかよりは白の方がいい。汚れは目立つけど。


 「他にも、奴隷はおりますが......」

 「いや、今回はこれでいいよ。俺達も暇を持て余している訳では無いんでね」


  後、8ヶ月もすれば、魔王が復活するはずなのだ。あまりのんびりとはしていられない。


  その割には観光とかちゃっかり楽しんでいるが、それは別だ。うん。別なのだ。


  その後の手続きはサクサク進んだ。


  俺は金を払い、奴隷の首輪に主人としての魔力登録を行う。


  この魔力登録は、奴隷が主人に逆らわないようにするためのものらしい。もし、逆らって何か反抗的な態度を取ろうものならその首輪が締まる。


  モフモフちゃんだけ、主人を花音にして他は俺が主人として魔力登録をしておいた。コレで、正式に俺の奴隷になったというわけだ。


  まぁ、ゴリゴリの違法奴隷なので表には出せないが。


  買われた奴隷達は黒いローブを着せられ、顔を隠すようにフードを被る。白色の獣人の為、他の獣人に見られないようにする配慮なのだろう。


 「お帰りになられますか?」

 「あぁ、帰りはどこから出ていけばいい?」

 「私が案内致します」


  横に控えていたメイドが、深々と頭を下げる。行きはスーツのお姉さん。帰りはメイドの少女か。


  フードを被った奴隷達を連れて、俺達は店を出る。


  5人とも静かに下を向いて跡を継いでくるが、若干1名歩きづらそうだ。


  理由は明白。花音がモフモフちゃんの尻尾をモフモフしようとしているためだ。


  モフモフちゃんの主人は花音。逆らうことは出来ないが、歩きたい。なんと言うか、見ていて不憫しか感じない。


 「花音、もう少し我慢しなさい。帰りは触ってていいから」

 「んー」

 「『んー』じゃない。我慢しなさい」


  少し強めに花音を注意する。すると、花音は渋々モフモフちゃんから離れて俺の手を握る。


  俺の手を握って下を向く時は、拗ねている時だ。ガキか?この子は。それに、花音の方が身長が高いので様になってない。


  どちらかと言えば、弟を引っ張る姉だ。


 「ママって面白いね」

  『ジンもカノンも変わってる。コレが“類は友を呼ぶ”ってやつ』


  その後ろ姿を見て、イスとベオークが何か言っているが、無視だ無視。


  しばらく歩くと、ひとつの扉に行き着く。案内役のメイドさんは、そこで立ち止まると俺たちに向かって話しかけてきた。


 「裏道に出るのと、街の外に出るの、どちらがよろしいですか?」


  裏道に出てもいいのだが、如何せん連れている者が者だ。風に吹かれてフードが取れよう物なら、問題になること間違いなし。


  獣王国を幾らか観光したかったが、そういう訳にも行かないので、大人しく拠点に帰るとしよう。


 「街の外で頼むよ」

 「かしこまりました」


  メイドは再び深く頭を下げると、扉を開けて進んでいく。


  俺達もそれに続いて行った。


  扉に入って細い道を歩く事10分。ようやく出口が見えてきた。


  光が差し込むのではなく、薄暗い明かりが見える。どこかの洞窟の中を照らした光なのでは無いのだろうか。


  外へ出ると、予想通りそこは洞窟だった。


  あちこちから気配がするが、こちらに敵意を持ったものは無い。監視なのかな?それにしては、視線を感じないけど。


  洞窟に出てさらに歩くと、森の中に出る。


  街から殆ど離れていないところに、ここまでしっかりとした都合のいい洞窟はそうそう無い。おそらく、昔に誰かが掘ったんだろうな。


  案内を終えたメイドがこちらへ振り返り、深々と頭を下げる。


 「皆様、コインをお持ちですね?それを回収させていただきます」


  俺達はコインを取り出して、メイドに返す。また今度来る時は、紹介状が必要になるのか。ジーニアスぐらい話の通じる奴がいいな。


  そう思いながら、俺達はメイドに別れを告げて森の中を歩き出す。


  空は既に暗くなっており、日本ではなかなかお目にかかれない程の星空が森の中を薄く照らしている。


  この世界に来て、感動したことの1つだったな。


  さて、今俺達は森の中を歩いているのだが、この後どうしたものか。


  拠点へ帰ることは確定しているのだが、一夜をここで過ごすかイスの上で過ごすのか。どっちにしようかな。


  俺はチラリと奴隷達を見る。皆、健康そうな体つきをしているがその顔には疲れが見て取れた。


  この状態で空を飛んだり、イスの本来の姿を見るのはメンタルに来るだろう。


 「今日は野宿するか.......あ、食料って足りる?」

『問題ない。子供達が、ちょこっと違法なところからくすねて来た奴がある』


  やってる事が泥棒だが、相手もカタギでは無いならいいか。最近、犯罪行為ばっかりやっている気がするが、そもそも、蜘蛛たちを街中に放つのは犯罪だ。


 ここまで来たら、1も10も変わらないでしょ。

 

 「良さそうな場所はある?」

『探してあるみたい。案内する?』

 「よろしく」


  もう少し歩くことになりそうだから、花音は我慢しような。野宿する場所に着いたらモフモフさせてあげるから。


 「パパーお腹空いたの」

 「もう少し待ってくれ。野宿できる場所を子供達が見つけたらしいから」

 「わかったのー」


  イスが、影からベオークを引きずり出して頭の上に乗せて遊ぶ。


  相変わらず仲がいいね君達は。生まれてから、よく遊び相手になっていたのはアンスールとベオークだったからな。


  俺達は訓練で忙しかったし。


 「ひっ.......」


  イスがベオークを頭の上に乗せると、小さな悲鳴が聞こえてくる。


  声の方に視線を向けると、弟くんが少し怯えた表情をしていた。


  もしかして、蜘蛛が苦手だったりするのか?だとしたら申し訳ない。


  俺の拠点に来る以上、どうやっても蜘蛛達を見ることになる。さすがに何万匹の蜘蛛を見ろとは言わないが、1.2匹程度は慣れてくれ。


  15分も歩けば、目的地に着く。そこは洞窟ではなく、少し開けた森の中だ。


  辺りに気配はなし。花音も何も言わないので、ベオーク達以上の潜伏能力を持ったやつでは無い限り、見落としはない。


  俺は、奴隷達に向かって振り返ると、なるべく優しい声で話しかける。


 「今日はここで野宿だ。準備するから、楽にしててくれ」


  俺達は手慣れているので、効率よく準備を始める。


  そして、奴隷達は困惑した様子で俺達を見つめるのだった。

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