わーお、唐突
紹介状を受け取った俺達は、再び大通りを歩いていた。
子供達曰く、闇奴隷市場であるドゥンケルに行くには、ある場所でこの紹介状を見せなければならないそうだ。
「しかし、良かったな。話のわかる人で。もし、腕にしか覚えのないド低脳だったら今頃あの家の装飾は赤く染ってたところだ」
『ヒヤヒヤした。主に、カノンがキレないかどうか』
「イスに感謝だな。俺が強く言えば止まるだろうが、あまりやりたくはない」
今、花音の機嫌はいつも通りになっている。イスが花音に甘えまくって、花音の機嫌を取っているからだ。
よくやっているぞイス。後で好きな物買ってあげるからな。
我が子のファインプレーに感謝しながら、大通りを歩くこと10分。子供達に案内されたのは、洒落たバーだ。
「ここか?」
「シャ」
影にそう聞くと、「そうだ」と返ってくる。とてもでは無いが、そういう裏の世界に通じている店とは思えなかった。
『もっと薄暗い怪しい所にあると思った』
「同感だな。でも、怪しいところにあると目立つんだろ。コソコソとやるよりは、堂々としている方がバレにくいんだろうな」
俺が犯罪組織を探すとしても、このバーの中を探すことは無いだろう。
よくできた隠れ家だ。
ちなみに、今はCLOSEの看板がかけられている。が、そんなこと知ったことではない。
「んじゃ、入るとするか。行くぞー」
「ママ、行くの!!」
「はーい」
もう少しで、花音の機嫌が完全に良くなるだろう。俺もちょっと気になっている。子供たちが見つけたモフモフの白い獣人とやらを。
バーの中に入ると、予想通りの店内だ。
薄暗く、不気味な感じを醸し出しながらも、それでいて誰もが落ち着くような雰囲気がある。
左側にはカウンターがあり、そこではバーテンダーな夜の開店に向けて準備をしていた。
「お客様。当店はただ今閉店中です。夜にまたのお越しを」
「そうか。それは失礼した。ところで、この店には
「えぇ、子連れで来るお客様のいらっしゃるので。
「せっかくだ。
なんとも言えない合言葉だ。なんで、態々牛乳を飲むのか飲まないのかを合言葉にするのやら。
ちなみに、コレは閉店中の合言葉で、開店中は他の合言葉になるそうだ。
俺は先程顔の怖いおっさんから貰った紹介状を、カウンターの上に置く。
バーテンダーはそれを受け取ると、中身をチラリと確認した後、3枚のコインを取り出してカウンターの上に置いた。
このコインがないと、闇奴隷市場には入れないそうだ。そして、そのコインを貰うために、紹介状がいるというわけだ。
「こちらへ」
俺と、花音とイスの三人分のコインを受け取った後、店の奥に通される。
かなり分かりずらい隠し扉をくぐると、そこには1人の獣人が頭を下げて待っていた。
「上の方から“丁寧に扱え”と言われている。ランクは1だ」
「かしこまりました。ますたぁ」
灰色の長いうさ耳をピンと立て、黒いスーツを着込んだ女の獣人は甘ったるい声で返事をする。
へぇ、流石は裏の人だ。そこらの一般人とは違い、しっかりと訓練されているのが分かる。訓練とはもちろん、戦闘訓練の事だ。
俺達には遠く及ばないものの、どっかの昼から飲んだくれている傭兵達より少し強い。
バーテンダーが店に戻ると、うさ耳の獣人が話しかけてくる。
「お客様方。コインはお持ちですね?」
「あぁ、そこのバーテンダーに渡されたな」
「お失くしにならないようにお願い致します。無くされると、少々面倒なので」
「分かった。家宝のように大切に持ち歩くとするよ」
影に入れておけば問題ないだろう。落としようがないし、スられる心配も殆どない。
もし、影の中からスれるような超人がいたらお手上げだが。流石に、俺達に干渉しようとした時点で気づく。
「ではこちらへ」
俺達は、歩き始めたうさ耳のお姉さんの後ろについていく。
少し坂道になっている。闇奴隷市場“ドゥンケル”は、地下にあるらしいから、そこに向かっているのだろう。
『身元が分かった』
長く狭い通路を歩いていると、いきなりベオークが俺の背中に文字を書く。
俺だけではなく、花音やイスにも見せるように書いてるな。
俺は、うさ耳のお姉さんに聞こえないように異能を使って会話をする。
俺の黒い球は、文字にも形を変えられる。ほんと、この黒い球は便利なんだよ。本質である、崩壊が使いづらいだけで。
『何の?』
『さっき、ワタシ達に紹介状を渡してくれたおっさんの事』
別に調べろとか言ってないのだけど、勝手に調べあげたのか。
『あの目に傷を負っていた獣人は、獣人会と言われる非合法組織の最高幹部の1人、ジーニアス。どうやら今日は仕事が入ってなくて、娘の機嫌を取るために買い物に来てたらしい』
非番だったのか。なんかごめんな。もし、助けがいる時があったら、格安も格安で仕事を引き受けてあげるから。
俺は心の中で謝りながら、ベオークの報告を聞く。
『たまたま近くに居たのが彼だったから、ワタシ達の相手をした』
『本来なら、手順を踏まないと行けないところをすっ飛ばしたからな。申し訳ないぜ』
『彼が対応してくれて助かった。どうやら彼は、ワタシ達の強さを見抜いていた。恐らく異能の類い』
なるほど、だから直ぐに丁寧な口調になったのか。
俺や花音の機嫌を損ねようものなら、その場が自分たちの血で赤色に染まる事を彼は分かっていたのだ。
『で?態々それの報告をするってことはなんかあるのか?』
『このままだと暗殺される。2ヶ月後の晩に』
わーお、唐突すぎる。彼も裏組織の人間だ。恨みなどごまんと買っているだろう。
そして、その恨みを持った人達が、後先考えずに殺しにくるのだ。
『暗殺されるってことは、計画も相手も分かっているのか?』
『分かってる。家族ごと家を吹っ飛ばすらしい』
テロかな?確実に殺すためとはいえ、家を吹き飛ばすのか。凄いなそれは。正直、ちょっと見てみたい気もする。
恨まれて、女神の元に吹っ飛ぶのは勝手だが俺としては少し困ることもある。
ツテだ。
かなり細いツテとはいえ、無いよりは便利なツテだ。この細い糸をプツンと切られるのは、少し困る。
別に悪い事をしたい訳では無いが、どっかのバカを神聖皇国から正教会国へ行かせるルートが多い事に越したことはない。
タダ働きは好かないが今日は迷惑をかけたし、サービスしてやろう。
『その計画は阻止しておけ。場合によっては、殺しても構わん』
『分かった。そう伝えとく』
この相手が、龍二やアイリス団長、バルサルにいる傭兵たちだったら俺は計画の阻止はしないだろう。
だが、今回は違う。俺の全く知らない、ただの赤の他人だ。死のうが生きようがどうでもいい。
ジーニアスには利用価値があるが、暗殺計画を立てている彼らにはない。俺の邪魔になる以上、消えてもらった方が都合がいいというものだ。
『これからも守る?』
『できる限りは守ってやれ。だが、子供達の命が最優先だと言うことを忘れるなよ?』
『それも加えて言っておく』
俺はコツコツと足音だけが鳴り響く中、スーツを着た女の人ってカッコイイなと思うのだった。
今度アンスールにスーツ作ってもらうかな?誰も着る人いないけど。
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