紹介状
検問の為に並び始めて1時間とちょっと。ようやく俺達は、獣王国の首都であるボルフの街に足を踏み入れた。
相変わらずガバガバすぎる検問だった。大エルフ国と同じように、傭兵ギルドのカードを見せただけで通ってよしとなったのだ。
「流石は首都。毎度毎度思うが、凄い人だな」
「人がいっぱいなの!!」
大エルフ国の時も物凄い人通りの多さだったが、獣王国もかなり人が多い。
11大国の首都ともなれば、どこでもこんな感じなのだろう。
ただし、コミケには劣る。あそこは魔境だ。行きの電車ですら、地獄だからな。
「モフモフモフモフモフモフモフモフ」
俺の横では、ずっと“モフモフ”言いながらちょっとヤバイ目つきで辺りを見渡す花音がいる。
冗談抜きで、そこら辺にいるモフモフそうな獣人に飛びつきそうだったので、俺は手を繋いでそれを防いでいる。
もう少し我慢しような。
獣王国の首都ボルフの街並みは至って普通であり、城へと続く大通りと、それに連なる店の数々。
露店や屋台もちらほら設置されていて、街の雰囲気で言えばバルサルに似たようなものを感じる。
バルサルと違う点を上げるなら、その規模と街中を歩く獣人達の多さだろう。
まぁ、辺境に近い田舎と、首都の規模が一緒な訳が無い。
「獣人って言っても色々なんだな」
『人間の姿に近い者から、獣に近い者までいる』
ベオークの言う通り、コスプレのように耳と尻尾を生やした人間に近い見た目をした獣人もいれば、全身が毛で覆われた獣に近い獣人もいる。
獣人は興味なく全く調べなかった為、ここまで大きい違いがあるとは知らなかった。
今まで出会った獣人は、皆人間の姿に近い方だったな。
もしかしたら、全身毛だらけの獣人は、珍しいのかもしれない。事実、かなりの人が歩いているが、獣に近い獣人はかなり少ない。
その見た目故に目立っているだけで、数はいないのだ。
花音は知っていただろうが、今の状態の花音に話は聞けない。観光は後でもできるし、話も後で聞ける。急いで奴隷の店まで行くとしよう。
場所は既に子供達が見つけてくれており、後は案内してもらうだけだ。
「案内頼む」
「シャ」
人混みを掻き分けながら、俺達は早足でその店に向かった。
この国では、奴隷は違法なものではない。神聖皇国のように、皆全て愛しましょうと言った考え方は持っていないのだ。
この奴隷の文化は、決して悪いものだけではない。きちんと最低限の人権が保護された上で、売られている者が多いのだ。
しかし今回、子供達が案内した奴隷の店はどう見ても違法の匂いしかしない店だった。
「え?ここ?」
「シャ」
案内された場所は、スラム街と言っても過言ではない場所。
壊れかけた家が並んでおり、俺達を品定めするかのような視線をあちこちから感じる。
そして、俺たちの目の前にあるのはそんなボロけた家の一つだ。
誰がどう見ても、奴隷を売っているような店には見えない。
「シャ、シャシャーシャーシャー」
「は?ここで紹介状を貰え?どうやって」
「シャシャ」
「んな滅茶苦茶な」
案内役の子供曰く、花音が求めているモフモフの白い獣人は闇奴隷と呼ばれる非合法な所に売っているらしい。
それに、獣王国で正式に奴隷を買うにはそれなりの手順と書類がいるらしく、俺達ではかなり買うのは厳しいそうだ。
しかし、非合法の奴隷なら紹介状と金さえあれば買える。この国で俺達が奴隷を買うには、1番簡単な方法というわけだ。
国によって奴隷の買い方まで変わってくるのは、考えてなかったな。
シズラス教会国では、誰でもその場で奴隷を買う事ができたので、てっきり獣王国も同じように買えると思っていたのだ。面倒な手続きは無く、行って、選んで、買うだけでよかった。
「ここにモフモフが........?」
「落ち着け花音。ここで紹介状を貰う必要があるんだと。モフモフはもう少し我慢だ」
「.............ん」
不味い。ちょっと機嫌が悪くなっている。このままお預けを喰らうと、ほんの些細なことでキレるので注意しなくては。
特に、紹介状をくれる人が対応を間違えない事を祈る。いやマジで。
「この家が
俺はそう呟いてボロ家に入るのだった。
ボロ家の中はかなり綺麗に掃除されており、外からは想像がつかない程、まともな内装をしている。
「綺麗なの。外は偽装?」
「普通に考えてそうだろうな。もしくはそういう趣味なのか」
俺は部屋の真ん中にポツンとあるソファに移動すると、そこに座る。今は誰もいないが、待っていれば来るはずだ。
そして、5分後案の定こちらへ近づいてくる気配が2つある。
あの俺達を品定めしていた視線の誰かが、呼んできたのだろうな。
ガチャンと乱暴に扉が開かれ、2人の男の獣人が入ってくる。
「おいおい。いつからここは家族連れの観光地になったんだ?」
「............」
俺達を見るやいなや声を上げた獣人は、そのまま俺たちと向かい側のソファに歩いていき、座る。
凄い!!誰がどう見ても、脛に傷持つ者だと分かる風貌をしたおっさんだ。
左目は潰れており、何かで焼いて塞いだ跡がある。そこら辺の子供に話しかけたら間違いなく泣かれるだろう。
もう1人、何も話さないガッシリとした獣人のおっさんは、ソファの裏で立つ。
ボディーガードの人だろう。歩き方や、立ち姿を見るにある程度は戦えるようだが、それでも小指であしらえる。
頼むから、物分りのいい人であってくれ。
「お客さん方。アポを取ってなくて来るとは随分といいご身分ですね」
「そりゃどうも。俺としては、手順を踏んでも良かったんだが、そうすると問題を起こしそうな奴がいるんでな。迷惑だと分かってても来るしか無かった。それについては詫びよう」
本当にごめん。ウチの副団長が暴走しそうなんだ。
俺の心の声が聞こえたのか、目に傷があるおっさんは静かにため息をついたあと、本題を切り出す。
「.......まぁいいですわ。それでウチに何をご所望で?」
「闇奴隷を売っている“ドゥンケル”への紹介状が欲しい」
待つまでいる5分間で、子供達に色々と聞いた。たった1時間ちょっとで、必要な情報のほぼ全てを探し出してくるのは流石としかいいようがない。
「身元も分からない初見のお客に、紹介状を書くとでも?」
でしょうね。闇奴隷市場ドゥンケルはかなり裕福、かなりの権力を持ったもの達しか通されることの無い場所だ。
そもそも、闇奴隷は違法なものなので、隠し通す必要がある。つまり、ある程度の事はもみ消せる権力がなければならない。
さらに、ドゥンケルは奴隷の質が段違いで良く、見た目が綺麗な者や、頭のいい優秀な者が多い。
もう少し下のグレートの闇奴隷市場もあるそうだが、どうやら子供達が花音の好みに合うと見つけてきたのは、このドゥンケルにいるようだ。
「ん.......」
やべぇ、本格的に花音の機嫌が悪くなっている。
ゆらゆらと右足を揺らし始めたのだ。
「ママーこのおじさんこわいよー」
花音の雰囲気を感じ取ったイスが、ものすごい棒読みで花音に抱きつく。
怖い呼ばわりされたおっさんは、少し顔を顰めるが、流石に子供相手にキレたりしないようだ。
抱きつかれた花音は、足の揺らしを止めて抱きついてきたイスの頭を撫でる。
何時ぞやの作戦会議の時とは逆だな。
俺はイスに心の中でよくやったと褒めながら、また花音の機嫌が悪くなる前に話をつけようと意気込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます