落ち着け
獣王国の空を飛ぶこと2時間、俺達はようやく首都らしき街を見つけた。
「あれっぽいな。街のど真ん中に、闘技場の様な広場があるぞ」
「多分これだね。お城もあるし。さぁ!!早く降りてモフモフをモフモフしてモフモフするんだよ!!」
「落ち着け。何言ってるのか分からん」
普段は大人しい為か、こうやって興奮したのを止めるのは結構大変だ。
今はまだマシだが、ニーナ姉の尻尾をモフモフしてた時は本当に酷かった。
俺が言っても聞かないし、ニーナ姉が本気で振りほどこうとしても、巧みにいなしながらで無理やり押さえつける。そして、モフモフする。
アレはニーナ姉だったから許されたものの、獣王国で知らない人にモフモフしに行こうものなら俺達は晴れてお尋ね者だ。
死ぬ気で止めなければ。
これは、子供たちにさっさと奴隷を取り扱っている店を探してもらうしかない。花音は我慢すると言っていたが、我慢できるとは到底思えないからな。
俺は影に潜む子供達に小さな声で話しかける。
「いいか?お前たちが一番最初に探すのは、俺達が泊まる宿じゃない。奴隷を扱っている店だ。何としても、花音が暴走する前に見つけろ。いいな?」
「シャー」
影に潜む子供達の1人が、代表して声をあげる。
頑張ってくれ。お前たちの奮闘次第で、俺が花音を無理やり押さえつけるかどうか決まるんだ。
『いいの?ジン』
「何が?」
『白色の獣人は嫌われてる。それを先に買うと、宿に止まれないかもしれない』
なるほど、確かにベオークの言う事は一理ある。しかし、その考えは甘いぞベオーク。
「白色の獣人を買って宿に泊まれず野宿するのと、暴走した花音を取り押さえるの、どっちがマシだ?」
『...........野宿』
「だろ?」
ベオークは、暴走した花音を見たことないが、俺の雰囲気を何となく感じ取ったのだろう。“花音を暴走させるとヤバい”と。
花音の欲を発散させるだけなら、歓楽街辺りで綺麗なお姉さんたちと戯れるのもアリかなと考えたのだが、俺達にはイスがいる。
どう考えても教育に悪いし、そもそも子供は入れない。宿にイスとベオークを置いて行ってもいいが、間違いなくイスに泣かれるので、この案は速攻で却下した。
となると、野宿覚悟で先に奴隷を買うしかないだろう。
「イス!!早く降りて!!」
「キュ、キュイ」
いつもとは少し違う花音にイスは戸惑いながらも、人目のつかない場所に降り立つ。
「早く!!早く!!」
「分かった。分かったから落ち着け。頼むから落ち着け。あまりはしゃぎすぎると、モフモフは買わないぞ」
「分かった!!大人しくしてる!!」
いつもとテンションが違いすぎて正直怖い。ここまでウッキウキな花音は、そうそう見れない。
昔、一緒に行った猫カフェ以来だ。こんなにテンションが高いのは。
イスもベオークも、普段とは違う花音を見て若干引いている。
「なんかママが気持ち悪いの........」
『同感』
「そう言ってやるな。まぁ、俺もちょっと気持ち悪いとは思うけど」
この先の検問所でどれだけ待たされるか知らないが、その間花音は我慢できるのだろうか。
あぁ、不安だ。
時間にして今は昼過ぎ、今は検問所がさほど混まない時間帯だ。
バルサルならば、10分も経たないうちに街へと入れるが、ここは獣王国の首都。かなりの人が並んでいる。
「これだと、1時間ちょいって所かな?」
「後1時間、後1時間、後1時間、後1時間」
怖い怖い。花音が壊れた。
どれだけモフモフしたいんだよ。目がヤバいぞ。
「ママが怖いの.......」
「大丈夫だ。モフモフを買えば元に戻るはずだから」
いや、モフモフを買ったらモフモフしまくって更に壊れるのか?......深く考えないでおこう。
城壁のお陰で、俺達が並んでいるところは影になっている。
今の間に、子供達を街の中に潜入させてしまおう。1時間もあれば、奴隷を売っている所を見つけるだけではなく、奴隷と一緒に泊まってもOKな宿も見つかるかも知れない。
「頼んだぞ」
「シャ」
俺の影から、何万もの蜘蛛達が出ていく。もし、この場にこの蜘蛛の大群を見ることが出来る人がいたら、悲鳴を上げていることだろう。
わらわらと俺の影から出ていく子供達を見送りながら、俺は花音が暴走しないように見張るのだった。
「ここの城壁は硬そうだね」
俺が花音を見張っていると、イスが自分の何倍も有る高さの壁を眺めながら俺に話しかける。
獣王国の城壁は、大エルフ国の様な木でできた物とは違い、しっかりとした石造りである。
そりゃ硬そうに見えるだろう。
「大エルフ国よりは強そうだな。俺が殴っても、半分壊れるかどうかじゃないか?」
「パパの場合は城壁なんて意味ないじゃん。全部異能で崩せばいいんだから」
それを言ってしまったらおしまいだ。俺の異能の前では、大抵のものが意味をなさなくなる。
「まぁ、それはそうだが、俺の異能は燃費が死ぬ程悪いからな。そうポンポン使えるものじゃないぞ」
「いやいや。この程度なら殆ど魔力を使わずに壊せるの。なんなら、その黒い奴を思いっきりぶつけるだけで吹っ飛ぶの」
我が子からの評価が高い高い。俺の異能は強力だが、結構使いずらい。
特に、その能力を発動させる時は大量の魔力を消費する。
様々な形に変えることのできる俺の異能だが、本来の能力である崩壊に関しては制約が多いのだ。
当てれば最強だが、当てるまでが大変なロマン砲である。
「俺の異能の話は置いておいて、イスならこの城壁をどう壊す?」
「んー私の世界に連れ込んでもいいし、普通に殴ってもいいの。1番楽なのは、モーズグズに壊してもらうことかな?」
“私の世界に連れ込んでもいい”という事は、この街全てを
もしかしなくても、うちの子の異能はかなりのぶっ壊れだな?
俺の異能は結構使いずらいが、イスの異能は誰が使ってもある程度は強い気がする。
「そういえば、モーズグズはこちらの世界には来れないのか?いつも
「無理なの。モーズグズとガルムはあの世界でしか生きれないの。会いたいなら、私に言ってね」
別に会いたい訳では無いが、何か用事があればイスに言わないといけないのか。
「今回はどんな奴が仲間になるんだろうな」
「モフモフだよ!!モフモフが仲間になるんだよ!!」
「はいはい。それは分かってるから、ちゃんとモフモフを買うから。それ以外の話ね」
めんどくせぇ.......こういう時の花音は、本当に面倒くさい。
少し黙っててくれ。頼むから。
『何人ぐらい雇うつもり?』
「わからん。その時次第だな。白色の獣人を買うつもりなんだ。なるべく普通の獣人は買いたくない」
『なぜ?』
「ベオークは自分の嫌いな奴と一緒に仲良くできるか?それも毎日」
『無理。絶対話さない』
「だろ?そう言う軋轢はなるべくない方がいい。少し劣っていたとしても、仲良く出来るやつの方がいいからな」
ただでさえ、問題児が多いのだ。これ以上、団員の面倒を見るのはゴメンである。
俺は暇そうに城壁を眺めるイスの頭を撫でながら、話しかける。
「イスはどんな人がいい?」
「んー遊んでくれる人!!」
まぁ、子供からしたら遊んでくれる人の方がいいわな。俺としては仕事のできる人がいいが、子供にとってそんな事は知ったことではない。
俺は隣でずっとモフモフ言い続けている花音を見ながら、小さくため息を着くのだった。
早く検問が終わってくれと。
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