団長は大変。特に面子が濃いと

  クッソ長い空の旅をする事、8時間。あれから更に3時間がたった頃。


  ようやく獣王国が見えてきたようだ。


 「んー、ここら辺から獣王国かな?」

 「本当か?間違っていると、面倒だぞ?」

 「多分大丈夫だと思うよ。あそこに湖があるし、こっちに山がある。今いるのはここでしょ?」


  花音は俺に地図を見せると、今いる場所を指さす。


  確かに、小さい湖とそれを囲むように山が連なっている。地図では、その先が獣王国だと書かれていた。


 「ようやく着いたな。後は、首都を探すのか.......」

 「地図があるから、大体の場所はわかるよ。大エルフ国の時よりは早く見つかるんじゃない?」

 「それはそうなんだが、エルフの国の時のように、目印がある訳じゃないだろ?下手すると、通り過ぎる可能性もある」


  大エルフ国の首都であるグリエレには、馬鹿みたいにデカい精霊樹と言う木があった。


  あれほど特徴的な街なら間違えようがないが、獣王国の首都は何が特徴なのか俺は知らない。


  空から見ても、分からない可能性があった。


 「ふっふっふ、大丈夫!!私はちゃんと獣王国の首都には何があるのか知っているからね!!」


  そんな俺の不安をよそに、花音はドヤ顔しながら胸を張る。


  これは頼もしい。


 「で、何があるんだ?」

 「仁はバサル王国の国王の決め方を覚えてる?」


  バサル王国といえば、アスピドケロンを挟んで向かい側の国だな。


  あそこの国も、獣人国家だ。花音が暴走する可能性が高かったため、行ったことはないが。


 「確か、いちばん強いヤツが国王だったよな?」


  獣人は脳筋と言うイメージを体現したかのような、国王の決め方だ。


  個人的には結構好きな考え方だが、同じよな事を人間国家がやったら八百長、買収の嵐になりそうだ。


  他にも、暗殺とか。


  もしかしたら、バサル王国の中でもあるかもしれない。


 「そう!!その考え方は獣王国でも同じで、毎年国王を決める大会があるの。その闘技場が、街のど真ん中にあるのが首都だと言うことだね!!」

 「へぇ、開けた場所が街にあるのが首都なのか。なぁ1つ思ったんだが、その大会で獣人以外が優勝したらどうなるんだ?」


  獣王国の王を決めるための大会で、人間が優勝したらどうなるのだろうか。


  その人間が王になるのか?


 「優勝した人間が王になるそうだよ。過去に3人、獣人以外の王が誕生しているようだし」

 「へぇ、それはすげぇ。その3人は人間なのか?」

 「人間、亜人、エルフの三人なんだって。3人とも王になったはいいけど、その狭苦しい生活が故にやめたそうだよ。仁も出てみる?王様になれるかもよ?」


  まぁ、王といえばその国を代表する国民なのだ。1番模範的な人でないとならない。


  少なくとも、神の名を騙って貧困層から金をむしり取るような王は王では無いのだ。


  心休まる時間など、ほとんどないよだろう。


 「俺は王の器じゃないからパス。あの濃いメンツを纏めるのに精一杯だ」

 「みんな自由すぎるし、結構面倒な性格してるからね........」


  たった20名ちょっとを纏めるのにすら、ここまで苦労するのだ。


  ウン十、ウン百万人も居るような国家の上に立つなど、頭を下げられてもゴメンである。


  本当に大変なんだぞ?あの自由人どもを纏めるのは。


  特に、出番が殆どないジャバウォックとアスピドケロン辺りは、死ぬ程気を使う。


  2人とも結構繊細なのだ。ウロボロスぐらいノー天気だったら良かったのに。


  子供達曰く“自分達はちゃんと役に立てているのか?”と悩んでいるそう。


  この世界に厄災を振りまく存在が、そんな事で悩むのかよとは思うが、厄災達にだって感情はある。


  そして、そんな不安を取り除いてやるのは団長である俺の役目だろう。


  一応仕事は与えているのだが、ぶっちゃけやって貰ってもやって貰わなくてもどっちでもいいものだ。頭のいい厄災達は薄々気づいている。


  だって、結界内の監視なんて子供達にやってもらえばいい話だ。バレにくいし、数が多いから全体をしっかりと見張れる。


  サボり癖のあるフェンリルとかをわざわざ見張らせる意味が無いのだ。


  それでも、ないよりはメンタル的にも楽でしょと思って仕事を与えたり、定期的に話に行ってその仕事ぶりを褒めたりする。


  本当に面倒である。


  アスピドケロンはともかく、他の厄災達にはちゃんと戦争の時に暴れてくれと言っている。しかし、他の厄災が色々仕事していると、自分もなにかしなければと思うのだろう。


  お前は日本人か。アメリカ人のように、ノー天気に生きて行こうぜ(偏見)


 「皆が活躍するのはいつ頃なのかな?」

 「魔王との戦いが終わってからだからな。ヘタしたらあと2、3年は出番無しの可能性もある」

『ワタシの出番は?』

 「お前は既に出番がいっぱいあるだろうが。灰輝級ミスリル冒険者の暗殺とか大仕事だっただろ」


  これ以上欲張るな。ベオークは、既に必要以上の結果を残しているんだよ。


 「俺達の最終目標である戦争は、まだまだ先だな」

 「下準備に三年。魔王討伐がどうなるか分からないけど、全部同時復活と考えて、討伐するまでに1年弱。バカ五人を神聖皇国から正教会国に逃がすのに1年。ってところかな?」

 「やっぱり2年ぐらいはかかるな」


  2年後の俺達はどうなっているのだろうか。まだ見ぬ仲間達が増えているかもしれないし、魔王を討伐できなくて人類が滅んでいるかもしれない。


  ま、その時になればわかるだろう。


 「凄い話がズレたけど、なんの話ししてたっけ?」

 「獣王の決め方についてだよ」


  そうだそうだ。そこから話がズレたのだった。


  俺は話を獣王国に戻す。


 「今の獣王は誰なんだ?」

 「“獣神”ザリウスだよ。モヒカンとの話でも出てきた、獣王国を代表する灰輝級ミスリル冒険者が今の王様だね」

 「“獣神”ねぇ。どんな戦い方をするのか全くわからんな」


  正教会国にいる“剣聖”や、聖王国にいる“聖魔”のような二つ名ならば、何となく戦い方がわかる。


  だって、剣とか魔とか言ってるもん。剣とか魔法使うんだろ。


  だが、神は流石に分からない。イメージだけで言えば、なんかこう.......神々しく変身するのではないかと思う。


  昔読んだラノベに、そんなこと書いてあった気がする。


 「私も“獣神”には興味無かったから調べてないなぁ。子供達に調べさせる?」

 「当たり前だ。立地的に、この国は戦争に巻き込まれる可能性が高い。敵に着くにしろ、味方に着くにしろ、知っておいて損は無い」


  獣王国は、聖王国と正連邦国との間にある国だ。幾つもの国が間にあるが、まず間違いなく戦争に巻き込まれるだろう。


  そうなれば“獣神”が出張ってくる可能性は高い。


 「その時は王様が変わっていたりしてね」

 「“獣神”が何歳か知らないが、それは無いだろ。強い奴は、歳をとっても強いものだ」


  魔物と人間種を比べるのは違うかもしれないが、随分とおじいちゃんのファフニールだって未だに化け物じみた強さを持っている。


  アイツだけ別格だからな。流石は“原初の竜”と呼ばれるだけはある。


 性格は未だにやんちゃ小僧だが.......


  正直、イスの方が大人しいと思う。アイツ、ヴァンア王国滅ぼした後からよく出かけているけど、どこかで問題起こしてないよな?ちょっと不安になってきたぞ。


 「でも、それよりもモフモフだよ!!早くまだ見ぬモフモフをモフモフしたい」

 「はいはい。分かったから落ち着け。目がヤバいぞ」


  手をワキワキさせる花音を見ながら、俺は獣王国の首都を探すのだった。


  今日中に見つかるといいな。

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