移動は長い
次に行く場所が決まったので、早速準備をする。
獣王国の正確な位置は分からないし、更にその中から首都を探し出すのは大変だ。
下手をしたら何日もかかるかもしれない。
「食料は持ったか?」
「大丈夫。お金もぎっしり持ったし、暇つぶし用のトランプも持ってきた。ご飯も2週間分はあるよ」
花音は4つほどマジックポーチを取り出して、お手玉のように投げて遊ぶ。
アイリス団長から貰ったマジックポーチは2つだが、さすがにそれだけでは足りなかったので、バルサルで買ってきたのだ。
少しお高めのを買ったので、お値段なんと金貨2枚である。
日本円にして、約200万円。日本円に直すと、“少し”お高いどころじゃないな。
値段が高いので、もちろん内容量も大きくなっている。大体6m四方だったかな?アイリス団長から貰ったマジックポーチの八倍の大きさだ。
値段は八倍どころじゃないけど。
確か3m四方のマジックポーチで、値段は銀貨2枚と大銅貨5枚だったはずだ。
ざっと計算して80倍の値段差があるのか。
マジックポーチは、3m以上の容量から値段がグンと跳ね上がる。
素材となるアゼガエルの胃袋の容量が、3m以上のものとなると数が減るのだろう。
ちなみに、マジックポーチは便利なので3m四方の大きさのやつは
流石にヨルムンガンドやジャバウォックなどは大きすぎて扱えないので買っていないが、アンスールや三姉妹には買ってあげた。
三姉妹は1m四方のマジックポーチを1つしか持っていなかったそうで、3m四方のマジックポーチの大きさに驚いていた。
ダークエルフは他の街などには行けないから、こういう魔道具などは手に入れずらいんだろうな。
昔からマジックポーチを欲しがっていたベオークは、とても嬉しそうにしていた。
周りの目を気にせず、テンション爆上がりのベオークを見るのは結構面白かった。
「子供達も影に入ってもらったし、忘れ物は無さそうだな。よし、行くとするか」
『今回もイスの背中に乗る?』
「まぁ、そうなるだろうな。イスは霧のおかげで見ずらいし、空を飛べるしな」
「空飛ぶのは楽しいの!!」
イスが元気よく両手を上げる。可愛い。
今回獣王国へ行くメンバーには、ベオークもいる。
大エルフ国の時は、産まれたばかりの子供たちに色々と教育をしていたから置いてきたのだが、今回はついてくるそうだ。
教育は終わったのかな?何をどう教育していたのかは知らないが、何となくベオークの教育は怖い気がする。
異能のせいか、どことなく深い闇を感じるんだよな。
ニーチェが言っていた“深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ”の意味が、少しわかったかもしれない。
『帰りはどうする?イスの背中に乗れるのには限度がある』
「俺の異能の上に乗せていくよ。ジャバウォックとヨルムンガンドを乗せた時のようにな」
俺の異能は、崩壊の力を発動させなければただの黒い物体だ。
人が乗る事になんら問題はない。
「パパー!!はやくー!!」
「仁!!モフモフが待ってる!!」
「分かった分かった。今行くからな」
準備を終えたイスと花音が、のんびりとベオークと話す俺を急かしてくる。
俺が2人の元へ行くと、イスが人から竜に変わり、頭を低くして乗りやすいようにしてくれる。
俺と花音は、イスの背中に乗り込むと、イスは元気よく吠えた後空へと羽ばたいた。
下を見れば、アンスール達が手を振っている。
俺は手を振り返して拠点を後にした。
「長ぇ........」
空の旅を始めて約5時間。獣王国は、未だに見えてこない。
そりゃそうだろう。大エルフ国には行く時も、6時間はかかった。それよりも獣王国は遠いのだ。
下手したら、後5時間は空の旅をするかもしれない。
「報告書はもう全部見終わったし、もうやる事がない。こうなると、時間を長く感じるんだよなぁ.....」
「しょうがないよ。地球みたいに、スマホがあるわけじゃないんだから。のんびり空の旅を楽しもうよ」
「この代わり映えの無い景色を、永遠と見て楽しめるわけ無いだろ。頭がおかしくなるわ」
度々、自分達の居場所を確認する為に下の景色を見たりするのだが、その殆どは草原か森だ。砂漠も無く、山もない。本当に代わり映えのしない景色を見ているだけである。
暇つぶしに持ってきたトランプたが、流石に風が轟々当たるイスの背中の上でやる訳にはいない。
それに、我が子が頑張って飛んでいるのに、親が遊ぶのはクズすぎる。
「今、どの辺りだ?」
「んーこれだけ大きい森だと、ここら辺かな?」
そう言って、花音は地図を指さす。ガバガバな地図だが、細かく書かれていない為その特徴となるものが置いてあればどこら辺か分かるのは、この地図のいい所だろう。
花音の指さした場所は、まだまだ獣王国から離れており、先は長そうだった。
「後、何時間空を飛ぶのやら.......」
「んーこの距離なら、後2、3時間って所じゃない?その後に首都探しがあるから、もう少し時間がかかるね」
「先は長いな。イスも頑張ってくれ」
「キュア!!」
イスの背中を優しく撫でながら、俺は暇を潰すために何をしようか考えるのだった。
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とある場所の地下深く、光が届かない闇の中でその者達はこの世界を眺めていた。
「女神に無理やり連れてこられた異世界人達も、随分と面白いね」
「面白いけど、それ以上に可哀想ね。彼らは平和な国から来たのでしょ?」
「“ニホン”だったかな?確かに可哀想だよ。アレは、世界の為じゃない。自分の為にやっているからね」
その者は静かにため息を着くと、持っていた資料を置いて立ち上がる。
「彼らと話はつけた。後は、全てが終わった後さ。向こうは、顔合わせは失敗したけど、もう片方には接触できたしね」
「キチンと約束は守って貰ったのは誤算だったわね」
「あぁ。僕も、できたらいいな程度だったけど、想像以上だ。流石、僕との接触を弾いただけはある」
「あちらも私達に賛同した。残る問題は、上だけよ」
「そうだね。ついでに、彼らも仲間に欲しい。戦力になる」
その者達はそう言うと、暗闇に消えていったのだった。
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