モフモフを求めて
戦士達に別れを告げ、ギルドマスターが請求書に頭を抱えている頃、俺達は拠点に戻っていた。
「次は、どの国に子供達を放つのがいいと思う?」
「そうですね.......無難に近場でいいんじゃないでしょうか」
「ってなると、大帝国か?あそこなら大体の位置は分かるし、神聖皇国や聖王国も近い。最悪、首都がわからなくても、神聖皇国に放てば何とかなりそうだしな」
「団長様達が1番困るのは、神聖皇国と正教会国並びにその同盟国が壊滅的被害を受けることです。早めに子供達を放って捜索させて、魔王の居場所を特定した方が良いかと」
俺は持っている地図を見て、深くため息を吐く。
大エルフ国から盗み出した情報に、大まかな世界地図があった。俺は喜んでその地図を見ていたのだが色々と照らし合わせると、物凄いガバガバなのだ。
俺達が、子供達の情報を元に作った地図の方がまだ正確である。
しかし、無いよりはマシなのでこうして眺めているのだ。
俺の目の前で素早く書類を確認するラナーを見ながら、俺はもう一度ため息を着く。
「もっと正確な地図があれば楽なのになぁ......地球の文明が、如何に優れていたかよく分かる」
「団長様の故郷でしたっけ?その“ちきゅう”とやらは」
「あぁ。俺が異世界から来たって話はしただろ?そっちの世界では、魔法なんてものは無いんだよ。その代わりに科学が発展していた」
「以前、副団長様にその話は聞いたのですが、私には理解出来ませんでした。空を飛ぶ乗り物“ひこうき”やら、人の位置を確認できる“じーぴーえす”とか。話を聞く限りだと、有り得ないと思いましたね」
そりゃそうだろう。俺たちからすれば、魔法の世界なんて御伽噺だ。まさか、本当にあるとは思っていなかったが。
そして、その逆も然り。ラナー達から見れば、俺達の居た世界は御伽噺だと感じるだろう。
「あ、そうだ。これからもっと忙しくなるだろうけど、人員は増やす?」
「三人で情報精査がちゃんとできるか?ということですか?」
「そうだ。大帝国に行くなら、そのまま神聖皇国と聖王国にも行くだろうからな。そうすると、大エルフ国の比じゃないほどの量の報告書が来るぞ」
大エルフ国1つで、かなりキツそうだった。三連チャンは手が回らないだろう。
それに、大エルフ国はやっと首都の情報精査が終わった頃だ。まだ他の都市の情報を、集めないといけない。
とてもでは無いが、三人で捌くのは難しいだろう。
ラナーは、少し考える素振りを見せた後、俺の質問に答える。
「確かに、私達だけでは難しいと思いますね。しかし、人員はどうやって確保するのですか?」
「奴隷かな?最低限自分の身を守れて、それなりに仕事が出来るやつがいい」
「それって滅茶苦茶条件厳しいですよね......」
俺も言ってて思った。そもそも、奴隷になるような奴は何かしら問題があるのだ。
中には無実の罪をきせられたマトモな者もいるだろうが、その大半は問題児だと思う。
不用意に奴隷を買おうものなら、この拠点で何か問題を起こすだろう。
流石にそれは困る。
「お?なになに?奴隷を買うの?」
俺が頭を悩ませていると、後ろからひょっこり花音が現れる。
「イスはどうした?一緒に遊んでたはずだろ?」
「サラちゃんといい感じに遊んでたから、メデューサにあとは任せて来た」
始めはあんなに喧嘩していたのに、一週間もたたずに仲良くなれるのは子供の特権だろう。
純粋な故に、仲良くなれる。少し羨ましいな。
アンスールから、イスがサラマンダーにあだ名を付けていた事を教えてもらった時は嬉しかった。
年齢は分からないが、見た目は同じぐらいなのだ。親としては、友人ができるのは微笑ましい限りである。
「的当てか?」
「ちょっと前までは的当てやってたけど、今は大富豪やってるよ」
「精霊って、物を持てるのか?」
「持てるみたいだね。カードが浮いてるのを見るのは、不思議な感じだったよ」
夜中にやられたら、ビビりそうだ。トイレに一人で行けなくなりそう。
俺の頭燃やそうとしたイタズラっ子だし、夜中に何か驚かすとかはやりそうだな。
「んでんで、奴隷買うの?」
「まだ決まったわけじゃないけどな。流石に三人だけで情報を纏めるのは大変そうだし、もう少し人員を増やそうかなと」
「いいね。じゃぁ獣王国に行こうよ」
「獣王国?」
獣王国と言えば、11大国の1つだ。“獣神”ザリウスと呼ばれる
獣王国は俺達の拠点から西側、聖王国と正連邦国の間付近に存在している。
大帝国よりは遠いが、さほど大差はない。まぁ、このガバガバ地図で見たらの話だから、本当は滅茶苦茶遠くにあるかもしれないが。
ちなみに、俺は花音を獣王国へは行かせたくない。なぜなら......
「花音、ニーナ姉の尻尾と耳をモフってたよな?しかも、ドン引くレベルで」
「うん、そうだね」
それがどうしたと言わんばかりの顔だが、俺からしたら不安しかない。
今までの言動を見てわかる通り、花音はモフモフが大好きだ。
たとえ相手がフェンリルとか言う、世間一般的に見れば恐怖の象徴のような魔物相手にも、モフモフそうだからと言う理由だけで抱きつくような奴なのだ。
暇を見つけては、フェンリルやマーナガルムをモフモフしているのを俺は知っている。
そんや奴が、モフモフで溢れている獣王国へ行ったらどうなるのかは明白だ。我慢できずに、モフりに行くだろう。
「我慢出来る?」
「モフモフ専用の奴隷買ってくれるなら我慢する」
愛玩奴隷かよ。金は腐るほどあるから問題ないが、流石にそれだけの為に獣王国へ行くのは躊躇われる。
しかし、花音はきちんとメリットも考えていた。
「最低限戦えて、事務もできる奴隷が欲しいんでしょ?なら、尚更獣王国の方がいいと思うよ」
「理由は?」
「獣王国では、白色の獣人は“災いの子”として差別されるんだよ。理由は知らないけどね。それで、奴隷としてはよく売られているそうなの」
「それで?」
「白色の獣人だからと言うだけで、売られているから中にはまともな獣人が多いと思うし、獣人は基本的に身体能力が高い。仕事は私達が教えればいいから、お得だと思うの」
多分、神聖皇国にいる時に死ぬほど調べたんだろうな。獣人をモフりたいが為だけに。
花音の言っている事も、一応は説得力はある。
白色の獣人が“災いの子”と呼ばれて差別されてたのは知らなかったが、獣人が基本的に身体能力が高いのは事実だ。
ニーナ姉のように、小さい女の子でも少し鍛えればかなり強くなる。
俺がどうしたものかと悩んでいると、花音は更に追い打ちをかける。
「それに、獣人は義理堅いから、恩を感じてくれれば裏切りにくいと思うよ」
裏切りにくい。これはかなり重要な事だ。
この世界に奴隷が売られているのは知っているが、それに関して詳しい知識がある訳では無い。
何かしら契約して、主人に逆らえないようにできるらしいが、抜け道があるかもしれない。
結局、人を縛れるのは信頼関係と言う不確かなものだけなのだ。
「......分かった。獣王国へ行こう。そこで、人材を買ってくるか」
「やった!!モフモフ用の獣人は私がちゃんと面倒見るから、買ってね!!」
言い方が、完全にペットを強請る子供のソレなんだけど。
とりあえず、次の目的地は決まった。早速向かうとしよう。
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