的当てゲーム
精霊魔法が、えげつない程強かった事は確認できた。
何がえげつないって、さほど強くなかったシルフォードが精霊と契約しただけであれ程にまで強い魔法を放てた事だ。
あの放った精霊魔法1つで、契約する前のシルフォードの魔力の半分以上を使っている。
それを軽々と撃ったのだ。精霊の凄さがよくわかる。撃った本人も流石に腰を抜かしていたので、軽々と撃ったようには見えなかったが.......
下位精霊であれ程にまで強くなるということは、あの婆さんはどれ程強かったのだろう。もしかしたら、
良かった。才能がないと契約出来ない仕組みで。
こんなバランスブレイカーが、ポンポン契約されてたまるか。
「しっかし、人間の国とはかなり違うな。エルフの国は」
「人間だって、肌の色が違うだけで、色々と変わって来るんだからこんなもんじゃない?」
俺と花音は、聖堂の長椅子に座って纏められた資料を見ていた。
エルフの国について纏められた資料は、たった2日足らずでかなりの量になっており、ある程度厳選されているにも関わらず本1冊分ぐらいの分厚さがある。
それを眺めながら、俺達は悪魔に関しての情報を探していた。
「エルフは王政じゃなくて議会制の国なのか。アザン共和国と同じように、話し合って決める国のようだな」
「でも一番偉い長老?とかいう人達は選挙によって選ばれる訳じゃなくて、血筋で決めているようだね」
「選挙なんて一々やってられないんだろうな。移動に危険が伴うし、地球のように情報のやり取りが簡単な訳では無いしな」
比較的安全な街道を歩いていても、盗賊や魔物が襲ってくるような世界だ。わざわざ開票結果を伝えるために、移動する事はリスクしかない。
それに、選挙活動とかも大変だろうしな。
「あ、火事が起きても、城壁が燃えないようにする為の魔法陣見っけ」
「お、それはいいな。うちの宮殿にも対策しておきたいから、それは分けておいてくれ」
俺達の拠点である宮殿は、その全てが木造だ。火事への対策はしておかなくてはならない。
ついさっき、火を使うやんちゃ者も仲間になったしな。イスと遊んでて、そのまま火を使ってしまう事などを考えると、早めにやっておいた方がいい。
ちなみに、イスと精霊ちゃんは今頃仲良くアンスールとメデューサと遊んでいる頃だ。
アンスールもメデューサも精霊ちゃんを見ることは出来ないが、感じることは出来る。危ない事をしていたら、注意するぐらいはできるだろう。
「んーやっぱり、黒いナニカについての情報はナシか。もしかしたら、悪魔関連なのかもしれないと思ったんだけどなぁ.........」
「そうだね。黒いナニカに関しては、全くと言っていい程情報が無いよ。イスの見間違いかな?」
「それは無いだろ。イスが嘘をつく理由が無い。それに、言ってたら分かる」
イスが見たと言う“黒いナニカ”。俺は、もしかしたら悪魔に関係することではないのだろうかと思って資料を見ているのだが、それに関する事は一切無い。
まだ完全に調べきってないので可能性はあるが、おそらく悪魔とは関係がないのだろう。
暫くして、俺達は纏められた資料の全てに目を通し終えた。
「今のところは、悪魔に関する情報はナシだな。ひとまず、大エルフ国の首都であるグリエレでは魔王に関する何かは無さそうだ」
「これで、お婆さんは悪魔や魔王に殺られる事は無くなったね。死なれると美味しいサンドイッチが食べれなくなっちゃう」
「そのサンドイッチのレシピなら、探せば出てくると思うぞ。子供達に言っておこうか?」
「何それサイコーじゃん。よろしくお願いするね」
間違いなく子供達の無駄使いだが、美味しい料理はそれだけの価値があるのだ。がんばって盗み出してくれ。
「これで、お婆さんが死んでも美味しいサンドイッチが食べられるね」
「あの婆さんが、そうそうおっ死ぬとは思えないけどな。中位精霊と契約していたんだぞ?下手しなくても、そこら辺の冒険者より腕が経つだろ」
「下位であの強さだからね。中位はもっと強いだろうし」
「精霊王と契約したら、天下取れそう」
「確かに」
そう言えば、龍二は光属性魔法が使えたな。ワンチャン、精霊を見る事ができるのであれば契約しているかもしれない。
俺は、神聖皇国に居るはずの親友を思いながら大きく1つ欠伸をした。
あと8ヶ月と少し。成長した皆を見るのが楽しみだ。
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イスと火の精霊であるサラマンダーは、アンスールとメデューサと遊んでいた。
「そこぉ!!」
「───!!」
「甘いわよ。その程度では当たらないわ」
「HEY!HEY!HEY!もっと行動を読むのでーす!!」
声だけ聞けば微笑ましく思えるかもしれないが、その光景は遊びとは到底言えない遊びだ。
飛び交う氷塊と火球。それをひらり交しながら、糸で切り刻む。
イスの創り出した世界で繰り広げられる厄災達と1人の精霊の攻防は、何も知らないただの人間が見たらこの世の終わりの様な光景である。
普通の人間ならば、目に見えない程の速度で飛んでくる氷塊をアンスールは軽く手を振って両断し、時には最小限の移動をして避ける。
メデューサも少しの魔力で覆った拳を振るって、火球をかき消す。そして、踊っているかのようにその火球を避けていた。
絶え間なく襲い続ける氷塊と火球は、次第にアンスールとメデューサを捉えていく。
が、捉えられてもその攻撃を捌くのが厄災級だ。
「そこまで!!」
ヒートアップしていた攻防は、モーズグズの一言によって終わりを迎える。
「あー!!またダメだったー!!」
イスは両手を上げると、そのまま雪の積もる地面へと背中から倒れ込む。
その様子を、アンスールとメデューサは微笑ましく見ながらイスに話しかけた。
「まだまだね。ジンなら30秒で終わってたわ」
「Yah!!団長さんはこのゲーム強すぎますね!!私が初めてやった時は10秒もかからずに負けました!!」
イス達がやっているゲームは、簡単に言えば的当てだ。遠距離攻撃を5分間の間に当てれば勝ちという単純なゲームである。
避ける側は、ガードするか躱すのだ。
イスの異能が覚醒するようになって、遊び場所には困らなくなった。どれだけ暴れても、壊れることの無い世界。力の加減が難しい厄災級の彼女達には、のびのびと動けるいい場所だ。
「凄いですね。アンスール様、メデューサ様。私達は普通に負けましたよ」
「伊達に長生きしている訳じゃないのよ。産まれて2年そこらの子供に、負ける道理はないわ」
「でも、イスのお父様......ジン様には負けるのですか?」
「あれはジンが可笑しいのよ。いやらしい攻撃の仕方をしてきて、こっちの逃げ道を的確に潰してくるんだから。今度やって見るといいわ。貴方なら5秒耐えれれば大健闘だから」
アンスールはジンとこのゲームをやった時のことを思い出す。
完全に避けきったと思ったその瞬間に、死角からの一撃。何度やっても躱せない。
たった18年ちょっとしか生きていない少年に、何千年以上生きているアンスールは1度も勝てないのだ。
「どう?サラマンダー楽しかった?」
「─────」
イスと一緒に遊んでいたサラマンダーの精霊に、話しかける。
姿は見えないが、炎で作られた丸がその場に現れる。
どうやら、楽しかったようだ。
「サラも楽しかったって言ってるの」
「そう。それは良かったわ。私は今からご飯を作るけど、また遊びましょう」
アンスールは、既にあだ名でサラマンダーを呼んでいるイスを嬉しそうに見ながらそういったのだった。
「後で、ジンとカノンに教えてあげないとね」
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