姉妹や兄弟はなんやかんや言っても似ている

  俺達は精霊と契約すると使える、精霊魔法を見る為に宮殿を出て庭に集まる。


 「それじゃ、イス。頼んだぞ」

 「分かったの!!」


  流石に火を森の中でぶっぱなす訳にはいかないので、イスの創った世界である死と霧の世界ヘルヘイムに移動するのだ。


  俺と花音とアンスールは、1度死と霧の世界ヘルヘイムを訪れているので、その寒さは分かっている。


  今回は、アンスール以上に寒さに弱いメデューサと普通のダークエルフである三姉妹がいるので、きちんと防寒着を着込むように言っておいた。


  もちろん俺達も、アンスールの作った防寒着を着込んでいる。


  −40度は、耐えれると言っても普通に寒い。


  前回のように何も知らないで行くならともかく、今回はどのような場所か知っているのだ。防寒着を着るに決まっている。


 「いくよー!!死と霧の世界ヘルヘイム!!」


  イスが元気よく異能を発動させると、俺達は霧に包まれて世界が変わる。


 「お?霧が退かされてるな」

 「私達が来る前に、退かしていたみたいだね。イスも気を使えるようになったんだよ」


  今回は始めから霧が無い。


  あるにはあるのだが、霧を退かした状態で俺達をここに連れてきたようだ。


 「寒い.......」

 「寒っ!!防寒着を着てても寒いんだけど!!」

 「流石にこれは寒すぎます.....」


  この世界を初めて訪れた三姉妹は、予想通り肩を震わせていた。


  −40度もあるのだ。寒くない訳が無い。


 「oh!!これがアンスールが言っていた、氷の世界ですか!!とっても幻想的ですね!!」


  その一方で、寒さに弱いはずのメデューサは、イスの創り出した世界を楽しそうに眺めていた。


  強がって寒くないふりをしている訳ではなく、本当に寒くないのだろう。


  寒さに弱いとは言っても、彼女も厄災級の一人。この程度は、魔力を覆って耐えることができるようだ。


 「イス、もう少し暖かくする事はできるか?このままだと、三姉妹が肩を震わせるだけの木偶の坊になっちまう」

 「え?暖かくするの?寒くする方が簡単なんだけどなぁ.........」


  イスは、そう言いながらも、異能を操作してこの世界の気温を上げていく。


  おぉ、さっきよりはマシになったかな?と言っても、−40度が−20度ぐらにいなっただけで、寒いのに変わりはない。


 「ここら辺が限界なの。これ以上は暖かくできないの」

 「よくやったぞイス。無理言ってごめんな」


  俺はそう言って、イスの頭を撫でてやる。


  いつもの冷たいイスの頭が更に冷やされて、手が凍りつくように冷たい。しかし、その程度で俺がイスの頭を撫でるのを辞める訳が無い。


  我が子を思う親は、どんな事でも我慢できるのだ。


  イスの嬉しそうに目を細めて俺の手を堪能する姿を見れば、俺はあと10時間ぐらいは頭を撫でてやれる。


 「ねぇ仁。イスの頭を撫でるのもいいけど、さっさと精霊魔法がどんなものなのか見てみようよ。じゃないと、あの三姉妹が本当に凍りついちゃうよ?」


  三姉妹を見ると、まだ肩を震わせていた。なんなら、三姉妹とも肩を寄せあっている。


  暖かくなったとは言え、まだ氷点下を下回っているのだ。寒さに慣れていない三姉妹には、結構キツいだろう。


 「ってか、そんなに寒いなら、火を起こせばよくね?シルフォードは火を使えるだろ?」

 「「「...........あ」」」


  三人とも“その手があったか”と言った顔でこちらを見てくる。


  天然すぎやしませんかねぇ。こういう変なところで“姉妹なんだな”と感じる。


  普段見ていると、全く性格は違うし似ているのは顔だけだと思ったりするが、よく観察していると仕草とか結構似ているんだよな。


  シルフォードは早速火を灯して、自分の身体を温める。


  この火は魔法で灯された火なのだが、今のところ何か変わったところは無い。


  精霊魔法を使っている訳では無いので当たり前なのだが、もしかしたらと思って見てしまった。


 「普通に魔法も使えるんだね」

 「そうみたいだな。精霊と契約したら、精霊魔法しか使えなくなる訳じゃないようだ」


  婆さんからは、精霊のことについてしか聞いていない。あの時は、シルフォードが契約できるんじゃね?って考えてなかったからな。


  もし、気づいていたらしっかり話を聞いてきたのに......


  俺も俺で、結構抜けているところがある。注意はしているんだが、これからもこれは治らないんだろうな。


  しばらくすると、シルフォードが俺に話しかけてくる。


 「おまたせ団長」

 「身体は温まったか?」

 「十分温まった。早速精霊魔法を使ってみる......どこに撃てばいい?」


  魔法を撃つにしても、その標的が無ければ撃ちにくい。撃てないことは無いが、コントロールが上手くいっているのかどうかとは、分かりにくいからな。


 「イス、なんかいい感じの的を用意してくれないか?」

 「的なら、そこにいるの」


  イスが指差す方向を見ると、以前イスに紹介されたモーズグズさんがそこにはいた。


  いや、何やってんのアンタは。断ってもいいんだよ?嫌なら嫌って言ってもいいんだよ?


  ただ、彼女の場合は喜んでやっている可能性もある。イスの言葉なら、なんでも言うこと聞きますって感じの人だからなぁ......


 「バゥ」


  的になっているモーズグズを呆れながらみていると、後ろからガルムが小さく吠える。


 「久しぶりだな、ガルム。元気だったか?」

 「バゥ!!」


  元気よく吠えるガルムを撫でながら、俺は精霊魔法を使おうとするシルフォードを見る。


  まだ慣れていないのか、魔力がものすごい勢いで渦巻いている。


  あれ、キチンと制御できてるのか?まぁ、ヤバそうなら俺の異能で何とかするか。


  シルフォードは、汗を垂らしながら人差し指を立てると、詠唱を始めた。


 「その炎は精霊の灯火。契約により、その炎を顕現する。燃え焼かれて灰と化せ。精霊ノ烈火ガイスト・エグゼ


 シルフォードの指先に現れたのは、馬鹿でかい火球。直径10mはあるのでは無いかと思う。


  まるで小さな太陽の様なその火球は、氷点下という寒さをものともせずに燃え盛り、辺り一体を熱くさせる。


  これが下位精霊との契約によって手に入れた力だとしたら、中位、上位精霊はどこまでぶっ飛んだ強さの魔法を放つのだろうか。


  考えただけでも恐ろしい。


 「ふっ!!」


  炎を顕現させたシルフォードは、その火球を的であるモーズグズに向かって投げつける。


  速度はあまりでていないが、的としてそこにいるモーズグズが避けることは無いだろう。


 「モーズグズ~!!頑張って受け止めてねー!!」

 「ご安心を。この程度では、私を溶かせませんので」


  イスが無茶振りをするが、モーズグズは落ち着いてその持っていた槍を構える。


  氷vs炎。どちらが勝つのだろうか。


  迫り来る火球を、モーズグズの槍が受け止める。


  普通の氷なら、この時点で溶けているだろう。しかし、イスの創り出した氷はこの程度では溶けない。


  そして、モーズグズはこの程度の攻撃ではビクともしなかった。


 「ハァ!!」


  神速で振られたその槍は、なんとその火球を真っ二つに切り裂いた。


  更に、それだけにはとどまらず、何度も振られた槍が火球を次々と切り裂き、最終的には精霊の火は消えてしまう。


 「ま、こんなものですかね。もう少しこの魔法が制御出来れば、私の槍の矛先程度は溶かせるかもしれません」


  滅茶苦茶ドヤ顔で、仁王立ちするモーズグズを見ながら、俺は思った。


  下位精霊と契約するだけで、これ程力を手に入れられるのだ。


  もし、中位、上位精霊と契約しているエルフや人間がいたら警戒しないといけないな。


  ちなみに、初めて精霊魔法を使ったシルフォードは、自信でもビックリするほどの魔法に腰を抜かしていた。


  投げるまでは頑張ったんだね........

 

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