精霊契約
ドラゴンとなったイスの背に乗り、俺達は拠点へと帰る。
本来の目的である子供達の潜入も終わったし、もう大エルフ国でやることは無い。
後は子供達に任せればいい。
「とりあえずは任務完了だな」
「そうだね。結構いい国だったんじゃない?2日しか滞在してなかったけど、それでもこの国の良さが伝わってきたよ」
「なるべく治安の良さそうな道を選んでたからな。変に絡まれることがなかったのも、印象がいい原因だな」
傭兵ギルドや冒険者ギルドを今回は訪れてない為、荒らくれ者達と会っていない。
俺達の見た目だと、絡まれることの方が多いのだ。
バルサルでも、ちょくちょく絡まれることがある。
基本的には、皆いい人なのだが、どこに行っても馬鹿は居るようで、絡んでくるやつがいるのだ。
そして、そういう奴は大抵弱い。
忠告した後、絡んでくるようなら容赦なく叩きのめす。最近は俺達の顔を知られるようになってきた為か、絡まれることはグンと減った。
「ま、機会があったらまた来るよしよう。婆さんの野菜オンリーのサンドイッチは美味かったしな」
「あれは美味しかったねー。素材の味をしっかりと活かしつつ、青臭さを取り除くためのドレッシング。しかも、それがちゃんとパンに合うように作られてて、長年の歴史を感じたよ」
流石に長い歴史は感じなかったなぁ.......って言うか、長い歴史って何?
「キュルァ!!」
俺と花音がイスの背中で談笑していると、イスが急に吠えて暴れ出す。
「ちょ、おい!!イス!!落ち着け!!」
「キュア......」
揺れる背中の上で、何とかバランスをとりながらイスを落ち着かせる。
こうなる原因は1つしかない。
俺は、気配のする方を睨みつける。
「おい、大人しくしろ。さもなきゃ消すぞ」
若干殺気を滲ませながら、俺は見ることの出来ない精霊に注意する。
結局、このイタズラっ子精霊は俺達に着いてきたのだ。
別に、拒む理由はないので連れてきた。
それに、魔力属性が火の奴が1人いる。もし、精霊を見ることができるのであれば、契約させてみたい。
それと、イスには同じくらいの年齢の友人がいない。
1番精神年齢的に近いのはメデューサなのだが、彼女はかなり歳が行っている。
本人に年齢を聞くような地雷行為はしないが、話を聞いている限り何千歳とかそういうレベルだ。
友人と言うよりは、孫を見守るテンションの高いおばあちゃんである。
精霊の年齢は分からないが、精神年齢的に見れば恐らくイスと同じぐらいだろうし、見た目も多分イスに近い。
小さい頃に友人を作っておくことは、今後何かしらで役に立つだろう。
まぁ、今は喧嘩ばかりしているので、俺が怒らないといけないんだけどね。
ドライアド兄貴も付いてきて欲しかった。そうすれば、このイタズラっ子をもう少し楽に大人しくさせることができたのに。
「まぁ、殺し合いの喧嘩に発展しないだけマシか」
「そんな事になったら、精霊ちゃん即死待ったナシだよ.........」
確かに。
その後、精霊ちゃんは大人しくしており、いつも通りの空の旅をして拠点に帰ってきた。
「あら、おかえりなさい。どうだった?エルフの国は」
「おかえりでーす!!団長サン!!」
イスから降りると、アンスールとメデューサが出迎えてくれる。
アンスールはお母さん。メデューサは従兄弟のお姉さんと言った感じだ。間違っても、おばぁちゃんでは無い。
「ただいま、アンスール。メデューサ。精霊樹とか言うめっちゃデカい木があってな。そこに精霊が沢山いて幻想的な光景が広がっていた
「らしい?」
「俺と花音には精霊が見えなかったんだよ。全く持って残念だね。俺達には見えなかったけど、イスは精霊を見ることができるんだ。精霊樹の光景はイスから聞いた話だよ」
俺達が精霊を見る方法はないのだろうか。この後、ファフニール辺りに聞いてみるとしよう。
この世界が創成されてからずっと生きているらしいファフニールなら、何か知っているはずだ。
と言うか、精霊についてもファフニールに聞けば全部分かるかもな。
「凄いじゃない。精霊は私も見ることができないわ。気配を感じるだけならできるんだけどねぇ.......」
「Yah!!私もでーす!!精霊なんて、見た事ありまセーン!!」
イスが見れるのだから、厄災級は皆見ることができるのか?と思っていたが、どうやら違うようだ。
アンスールとメデューサは、俺達と同じように精霊を見る事ができないらしい。
「それじゃ、ここに居る精霊を見ることもできないのか」
「できないわね。何かいるのは分かるのだけれど、その正体を見ることはできないわ」
羽の生えた可愛い女の子だぞ。俺も見えないから、どんな風に可愛い子なのかは説明できないけど。
「あぁ、そうだ。三姉妹はどうしてる?」
「今は、大量に送られてくる報告書を死ぬ気で捌いている最中だと思うわよ。必要そうな情報に絞って纏めてあるのが、ジンの机の上に置いてあるそうだから確認しておいてって言ってたわね」
たった一日で、どれだけ調べ上げたんだあの子供達は。
ヴァンア王国の時も一日足らずでその殆どを調べあげてたし、流石としか言いようがないな。
「今も、執務室にいる?」
「えぇ。いると思うわよ」
早速、契約できるかどうか確かめに行こう。もしできるのであれば、契約してしまった方がいい。
せっかく何故か知らないがついてきた精霊だ。逃す手はない。
後、精霊魔法を見てみたい。扱うのが火なので火事の心配があるが、イスの世界でやれば問題ないだろう。
「と、言うわけで、この子見える?」
「何が“と言うわけで”なのかは分かりませんが、とりあえずおかえりない団長様」
「おかえり団長さん。お土産ある?」
「おかえり団長。その赤毛の小さい子?」
三姉妹が、三様の反応で出迎えてくれる。
反応から見るに、シルフォードには見えているようだ。
「ただいまみんな。シルフォード。見えるのか?」
「見える。恐らく、サラマンダーの人型精霊?」
大正解である。
「シルフォード、お前確か火属性の魔法が使えたよな?」
「使える。昔住んでいた村も今の拠点も森の中だから、火事にならないように種火として以外は使わないけど」
俺達の拠点もほぼ全てが木造だからな......今度、火の対策しておくか。
恐らくエルフから盗み出した情報に、火事対策についてあるだろう。
「シルフォード。この子と契約しないか?俺と花音は見えないし、イスは異能を使うから契約できない。このままにしておいてもいいんだが、どうせなら契約して精霊魔法を使えるようになった方がいいだろ?」
「精霊と契約......?私が......?」
「そうだ。まぁ、この子が契約してくれるかどうかは知らないけどな」
もしダメだったら、その時はその時だ。イスと仲良く喧嘩しててくれ。
精霊はシルフォードに近づくと、何かをやっている。
何をやっているのかは見えないので分からないが、シルフォードの前で気配が動いているのだけは分かる。
「ふふっ、分かった。契約しよう」
シルフォードはそう呟くと、静かに精霊に向かって手を差し出す。
直後、シルフォードの魔力が増大し、赤い膜がシルフォードを覆う。
「すごいな。これが精霊契約か」
「シルちゃんの魔力がとんでもなく跳ね上がったね。そりゃ強い魔法をバンバン打てるわけだよ」
目に見えて増大した魔力は、シルフォードの体内に収まっていき、いつものシルフォードに戻る。
「契約完了。どう?団長」
「流石にそれだけじゃわからん。魔力が大きくなったことぐらいしかな。外で、精霊魔法を使ってみようぜ。火消しは俺とイスでやるからさ」
「分かった」
精霊魔法。楽しみだ。
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