精霊の専門家
渡された鍵の部屋は、かなり良かった。
掃除が隅々まで行き渡っており、汚れなどは一切ない。ある程度の広さが確保されていて、ベットは1つだが、俺達3人が寝転がっても問題ない程の大きさだ。
あの婆さん俺達を人目見ただけで、3人とも一緒に寝ていると見抜いたのか。すげぇな。
俺達の拠点である宮殿ができた頃は、バラバラに寝ていたのだが、イスが寂しいと言って花音や俺と一緒に寝るようになった。
そして、毎回どちらかと寝るより3人で寝た方が早くね?ということで、腐るほどある部屋の1つにデカイベットを運び込んで3人一緒に寝るようになったのだ。
イスは、生まれてからまだ2年しか経っていない。まだまだ親には甘えたいのだ。
「前に泊まった傭兵ギルドの宿もそこそこ良かったけど、ここは更にいいな。木造の家は落ち着く」
「そうだね。これでご飯も美味しかったら文句なしだよ」
時間的には、まだ夕食には早い時間だ。飯の時間までは、あの婆さんと精霊について話すとしよう。
こうしている間にも、子供達は影の中からこの街全体へ散らばっている。
既に、色々と情報を抜き取っている頃だろう。暫くは、三姉妹も忙しくなるな。
「うー!!パパに近づくな!!失せろ!!死ね!!」
イスは、俺にイタズラをしようとする精霊を追い払おうと暴れており、微妙に殺気が漏れている。
多分精霊を殴ろうとしているのか?精霊が見えない俺から見ると、イスがとんでもない速さでシャドウボクシングをしているように見える。
マイク・タイソンもびっくりな速さのジャブだ。少し離れているのに、風を切る音が聞こえてくる。
このまま行けば、そのうち異能を使ってしまいそうだ。
「イス。とりあえず、その精霊は放っておいてバーさんの所へ戻るぞー」
「でも!!」
「バーさんに話を聞けば、その精霊をどこかへ行かす手段があるかもしれないだろ?」
あるかもしれないだけで、無いかもしれない。
ただ、イスが怒って異能を使うのは避けたいので、この精霊ちゃんは大人しくしていて欲しい。
この宿を凍らせるとか、イスならやりかねないのだ。
憤るイスを花音に鎮めてもらいながら、俺達は婆さんの元へと戻る。
「どうだい?部屋は」
「文句なしだ。後は飯が美味ければ満点だな」
「ほっほっほ。今日はお主らしか客はおらんし、腕によりをかけて作るとしよう」
婆さんの言う通り、今ここに泊まっているのは俺たちしか居ない。
精霊を探知する関係上、この宿全体をも探知してしまうのだが、人っ子一人いないのだ。
大丈夫か?この宿。値段は普通だし、儲かっている気がしない。
まぁ、それは俺が気にすることでは無い。婆さんの問題だから、婆さんが解決してくれ。
「それでだな。飯の時間が来るまで、精霊について色々と教えてくれないか?」
「いいとも。私の専門分野だ」
「専門分野?」
「宿屋の店主は半分趣味の副業。本職は精霊の研究家じゃよ」
なんと言うご都合タイミング。もし、子供達がここまで分かっててこの宿を勧めていたら、最早エスパーだ。
流石にそれはないと思うけど。
「それで?何が知りたい?と言うか、お主は精霊をどこまで知っておる?」
「基本的な事だけは知っているつもりだ。エルフが信仰している種族であり、適性がなければ見ることの出来ない存在。契約すれば、精霊魔法と呼ばれる強力な魔法を使うことができるようになる。って事ぐらいか?」
「ほう。基礎中の基礎はしっかり勉強しておるのだな」
勉強って程ではないけどな。
もっと詳しく書いてある文献とかも大聖堂には置いてあったが、それよりも知らなければならない事が多かったから読んでいない。
2週間で、サバイバルに役立つ植物とか果物、危険な魔物や悪魔の事を詰め込んだのだ。
そんな中で、さほど重要ではない精霊の文献を読む時間は無い。
「では、もう少し詳しく説明してやろう。と、その前に、そこにおる小娘には大人しくして貰わんとな」
婆さんはそう言って、パンと手を叩く。
すると、俺の探知に何かが引っかかった。
その場所を見るが、誰もいない。
ということは、精霊か?
「おや?見えておらぬのに、感じることは出来るのか?」
「何となく分かる程度だ。これは精霊か?」
「そうじゃよ。私と契約しておる精霊。人型の中位精霊ドライアドじゃ」
「男の人だ!!」
俺には見えないが、イスには見えているのだろう。
ってか、俺の中でドライアドって女性のイメージなんだが、イスの反応を見るに男なのか。
「ドライアドや、ちょいとそこの元気な子を注意しておくれ」
婆さんが精霊に話しかけると、ドライアドと呼ばれた精霊は俺の後ろにいた女の子の精霊に近づく。
少しした後、ドライアドはどこかへと消えてしまった。
「何をしたんだ?」
「ヤンチャな子供を諭したのさ。人に迷惑をかけてはいけないよってね。そこの子供には会話が聞こえたんじゃないかい?」
「怒られてたの!!ざまぁ見やがれなの!!」
イスが嬉しそうに声を上げる。よっぽど嬉しかったのか、俺に抱きついてきた。
「愛されているのじゃな」
「まぁな」
ついさっき、嫌われたのかと思って滅茶苦茶メンタルにダメージを受けてたけど。
「さて、イタズラっ子も大人しくなった事だし、精霊について話すとするかのぉ」
そう言って、婆さんは精霊について話し始めた。
流石は専門家と言っているだけはある。俺の知らない事を、婆さんは沢山教えてくれた。
精霊には、階級がある。
下から、下位、中位、上位、王の四つだ。
上になって行くほど精霊の力は強くなっていき、精霊王クラスにもなると厄災級の強さになるそうだ。
精霊王はその属性事に一体しか存在することはなく、精霊王が死んだ場合は上位精霊の中から王が選ばれる。
精霊はそれぞれ1つの属性を持ち、魔法と同じように使うことが出来る。
属性は火、水、風、土、光、闇、の6種類。
俺にイタズラをしようとしていた精霊は火で、婆さんが呼び出した精霊は土に属するそうだ。
魔法の属性と同じだな。
精霊と契約を結ぶには、自身もその属性の魔法を扱えないと行けない。これが、精霊と契約する人が少ない理由だ。
例え精霊に気に入られても、自分の使える魔法が同じでなければ、その力を借りることは出来ない。
少なくとも、俺達三人はこのイタズラっ子と契約することはできないと言うことだ。
ちょっと残念。
そして精霊には、様々な姿をした者がおり、基本的に三つに分けられる。
人型、動物型、不定形型だ。
人型はその名の通り、人の姿をした精霊だ。イタズラっ子と婆さんの呼んだ精霊はこれである。
動物型は、動物だけでなく魔物のような姿をした精霊も含まれる。中にはゴブリンの見た目をした精霊もいるそうだ。
そして、それらに属しない不定形型。基本的に形を持たない精霊はここになる。
精霊にはそれぞれ呼び名があり、火の下位精霊ならサラマンダーと呼ばれるそうだ。
俺の後ろで大人しくしているイタズラっ子は、人型の下位精霊、サラマンダーという訳だ。
何か固有名詞を持てるのは、上位精霊以上の存在であり、それ以下はこの呼び名以外で呼ばれることは無い。
「へー色々知ってるんだな。伊達に専門家を名乗っている訳では無いのか」
「まぁ、ほとんどはドライアドに聞いた話だけどねぇ」
聞けば分かるんかい。
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