失せろ
花音が不安な発言をしてから1時間後、俺達は大エルフ国の上空を飛んでいた。
「如何にもエルフって感じの街並みだな」
「確かに。自然をなるべく壊さないように、そのまま活用したような街並みになっているね。これ、少しでも火事が起こったら大変なんじゃない?」
花音の言う通り、大エルフ国の首都であるグリエレの街並みは、なるべく自然の景観をを損なわないないように作られている。
空から見た感じだと、木の幹を削って空洞を開けてそこを家にしているようだ。
「神聖皇国と比べると、随分目に優しい町並みだな」
「あっちは光を反射しすぎて眩しいもんね。こっちは緑が多くて落ち着くよ」
流石に太陽光全反射の、ギンギラな街並みは目に堪える物がある。なぜトランプとかはあるのに、サングラスのような物は無いのだろうか。
使っている素材がプラスチックだからか?ガラスはあるけどプラスチックは見たことないし。
「空から子供達を降らすの?」
「いや、せっかく大エルフ国に来たんだ。少し観光していこうと思う。大エルフ国は人間立入禁止みたいな国じゃないからな」
一応この国はエルフ至上主義だが、そこまで差別が酷い訳ではない。少し他の種族を見下す程度である。
この話を聞いたのはロムスからなのだが、ロムスも国から出てきた最初は人間を見下していたそうだ。
しかし、旅をする中で色々な人と出会い“人間”と言う種族を知ったことで、見下す事はなくなった。「あの頃は若かったですね」と言っていたが、その頃の年齢を聞いたら50歳を超えていたそうだ。俺達からしたら十分おじいちゃんである。
ちなみに、シズラス教会国は人間以外が街に入ろうものなら、あっという間に拉致られて奴隷行きだ。
戦争に負けたので、今後はだいぶマシになるだろう。
「いいね。ついでにみんなのお土産も買っていこうよ。エルフの郷土料理とか持って帰ればみんな喜ぶんじゃない?」
「そうだな。特にダークエルフ三姉妹辺りは故郷の味とかあるかもしれないし、色々と買っていくとするか」
俺もエルフの料理には興味がある。美味しいものを沢山食べたい。
イスをに指示して、人目のつかない場所に降りて街道から少し外れた道をを駆けていく。流石に首都へと続く街道ともなると人通りが多いので、なるべく人目のつかない道を通らないといけないのは面倒だ。
少し遠回りになったが、無事に城壁にたどり着いた。
流石は首都だ。城壁に沿って人が多く並んでおり、このままだと入るのに何時間もかかるな。
何時間もかかるだろうが、並ばなければ入れない。俺達は大人しく城壁に沿って並んだ。
「パパ、ここの城壁は木でできているんだね。火事でも起きたら危ないんじゃない?」
「そうだな。なるべく景観を損なわず、それでいて実用性のあるように作られているっぽいが、それでも火に弱いのは明白だな」
「街といい、城壁といい、本当に火に弱いね。火事の対策とかしているのかな?」
「さあ?どうなんだろうな?なんせ、魔法や魔術がある世界だ。もしかしたら燃えない木を作る魔法や魔術があるかもしれないぞ」
それに、エルフには古くから伝わる魔術があるらしいからな。都合のいい魔術の一つ二つはあるだろう。
検問の列に並ぶこと2時間、ようやく俺たちの番がやってきた。そして、特に何事もなくあっさりと検問を通り過ぎる。
今回に至っては、傭兵のギルドカードをチラッと見せただけで通ってヨシだった。
「いつも思うが、検問の意味あるのか?と思うぐらいザルな検問のだな。一体何を検問しているんだ?」
「毎日何百人、何千人とひとを捌かないといけないから、よっぽど怪しくなければスルーするんじゃない?一人一人じっくりやってたら日が暮れちゃうよ」
1人1分で検問を終わらせたとしても、120人捌くだけで2時間かかる。検問場所は幾つかあるが、それでも人が多く集まる首都では足りないのだろう。
それに、24時間何時でも検問をやっている訳では無い。日がくれれば、門は閉じるのだ。そうすれば、城壁の外で一夜を過ごすことになる。
篝火はあるだろうが、それでも城壁の外は危険だ。ゴブリンのような弱い魔物であっても、寝込みを襲われたりしたらひとたまりもない。
門番たちだって、城壁の外で死んで欲しい訳では無い。なるべく多くの人を街の中に入れようとする。そうすると、検問がザルになるわけだ。
「まぁ、検問がザルなおかげで、楽に街に入れるからいいけどな」
「すごく詳しく聞かれると、私たち困っちゃうもんね」
「それな。どの街を経由して来たのかとか聞かれたら困る」
流石に、ドラゴンの背中に乗って空を飛んできましたとは言えない。そんなことを言った日には、頭のおかしい奴と思われるか、捕まるかのどっちかだ。
俺は街に入ると早速、子供達を街の中へと放っていく。木が多く生い茂っている為、この街は影が多くある。子供達にとっては、動きやすい環境だろう。
「頼んだぞ。ただし、無理はするな。何かヤバかったらすぐに逃げろ。情報も大切だが、それ以上にお前たちの命の方が重いからな」
「「「「「シャ」」」」」
影にいる子供達が静かに返事をする。賢い子達だ。無理をして誰かが欠けることは無いだろう。
それに、今回連れてきたのはシズラス教会国やアゼル共和国で情報を抜き取っていたベテランの子供達だ。三体一組を心がけて、しっかりとやってくれるだろう。
「そういえば仁。ここから拠点まで、距離があるけどどうやって情報を持ってくるの?」
「アンスールに
これに関しては、既に実験済みである。シズラス教会国に
聞き出した情報を紙に書き出して、それを三姉妹が精査する。何度もやったが特に問題なかったので、今回はこれを採用した。
今後も問題なければ、この方式でやっていこうと思う。もしダメだったら.......それはその時考えよう。
「......」
俺が子供達を放っていると、イスが今までに見た事がない程俺を睨みつけている。鬼の形相ですら、もう少し可愛いのでは無いだろうか。
あれか?もしかして反抗期か?ついさっきまで可愛くパパって呼んでたのに、急に嫌いになるのか?
「ど、どうしたんだイス?」
俺は内心焦りながらイスに話しかける。あまりに動揺しすぎて、声が上擦ったがそれどころではない。
たった2年で俺は嫌われたのか?心当たりはある。偶に、変にスイッチが入って頭を撫で回したりした事がある。もしかして、それが嫌だったのか?もしそうなら今すぐ直そう。頭を撫でたいが、イスに嫌われる方が俺にとってはダメージがデカい。
「失せろ」
イスは殺気を滲み出しつつ、俺に向かってそう言った。
言われた俺は、頭の中真っ白である。ヤバい、メンタルにダメージが入りすぎて今すぐに首を吊りたい。あの可愛かったイスが、俺に向かって“失せろ”って言ってきたのだ。もう死のう。生きている意味ないから死のう。
流石に花音もイスがそう言うとは思っていなかったようで、呆然と立ち尽くしている。
そりゃ思わねぇよな。俺だってイスの反抗期が唐突すぎてビックリしてるもん。
「い、イス?急にどうしたの?」
「ママ!!アイツがパパにイタズラしようとしてたの!!」
花音がイスに話しかけると、イスは普段の調子に戻る。
ん?アイツ?
イスの指さす先には、何もいない。あるのは青々とした空が広がっているだけだ。
「イス?アイツって?」
「パパの横にいるの!!ほら、そこ!!」
イスが指さす方向を再び見るが、そこには何も無い。
俺たちが見えなくて、イスが見えるもの。俺はひとつの結論にたどり着いた。
「もしかして、イスには精霊が見えてる.......?」
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