遠くからでも割と見える
翌日。俺と花音は竜になったイスの背中に乗って空を飛んでいた。
「んー、ここら辺から大エルフ国領内か?」
「多分そうかな?ほら、森の奥から大エルフ国ってあるから」
魔王の捜索をする為に、11大国の首都や大きな都市に子供達を放つと言う計画を考えついた俺だが、この計画には問題がある。
それは、首都が何処か分からないという事だ。
首都の名前は分かるが、それが何処にあるのかは分からない。2年前にチラッとだけ見た世界地図を覚えている訳がないし、そもそもあの地図はそこまで正確なものでは無いのだ。
冗談抜きでG○○gleマップが欲しい。何気なく使っていた機能だが、どれだけ優秀なのかがよくわかる。
科学ってすげーな。人工衛星ってすげーわ。GPS機能って便利だわ。
正直、魔法よりも科学の方が優秀だと俺は今思っている。ロマンだけでは生きていけないのだ。
「子供達の集めた情報とシルフォード達の話を照らし合わせながら、何となく地図は作ったけど、やっぱ分かんねぇわ。今どこだよココ」
「如何に地球が便利だったのか、よく分かるね。頑張って地形を見ながら照らし合わせても、全然分かんないよ」
「最悪、ここら辺に子供達を放って調べてもらうしかないな。地球だと、簡単に調べられるから場所が分からないなんて考えてなかった.......」
一応、大エルフ国には特徴的な目印がある。
精霊樹と呼ばれる大きな木が、首都の中心に生えているらしい。
どの程度の大きさかは知らないが、どれだけ大きくとも、見える距離にいなければ意味は無い。
エベレストがある場所がネパールだよって言われても、日本からエベレストを見ることは出来ないから、ネパールの位置は分からないのだ。極端すぎる話だが、そんな感じである。
「キュア?」
「いや、イスはそのまま適当に飛び続けてくれ。こうなったら無理に地図と照らし合わせずに、行き当たりばったりで行こう」
イスが“降りる?”と聞いてきたので、俺はそのまま飛び続けるように指示を出す。
大エルフ国の領土はかなり広いらしいが、適当に飛んでいれば街の1つ2つ程度は見つかるはずだ。最悪、そこで話を聞くとしよう。
広大な緑の土地を飛び続けること3時間。ついに俺達はあるものを見つけた。
「ん?おいあれ、木じゃないか?」
「え?どこ?」
「左前方、うっすらと見えないか?」
「んーホントだ。確かに木っぽいね」
「キュア!!」
かなり遠くだが、うっすらと木のようなものが見えてくる。身体強化を使って視力を強化していなければ、見えないような距離だが間違いなくあれは木だ。
その高さは雲をも貫いており、下手な山よりも大きい。
まぁ、アスピドケロンと比べると、小さいんだけどね。
正確な高さら知らないが、あの子はエベレストよりも大きいんじゃないかと思っている。
「多分あれが、シルフォード達が言っていた精霊樹ってやつだな。イス、あの木を目指して飛んでくれ」
「キュア!!」
イスは元気よく返事をすると、空を高速で飛んでいく。あまり速すぎると、俺達を振り落としてしまうのでそこら辺は加減してくれているが。
「よく見つけたね。全然わからなかったよ」
「木の大きさにもよるけど、条件さえ良ければ、結構遠くからでも分かるらしいからな。富士山なんて、和歌山県から見える事もあるらしいぞ?」
「和歌山県からとか凄いね。大体300kmは離れてるでしょ?」
「そんぐらいだな。流石にここまで遠いと色々と条件があるらしいが、妙法山から富士山を見ることができるそうだ」
昔気になって調べたが、標高749mから320km離れた富士山を見ることができるそうだ。
俺たちは今標高3000m近くを飛んでいる。天気が良ければ、見えるかもとは思ったが、ちゃんと見えてよかった。
変な知識は変なところで役に立つんだなぁ......
ちなみに、イスは自身の下に霧を発生させて下から見えない様に対策をしている。あまり低く飛びすぎると不自然に見えるが、ある程度高さを保てば、下からは雲のようにしか見えない。
うちの子は優秀なのである。
1時間も飛べば、ぼやけていた木の輪郭がはっきりと見えてくる。
「デカイな......流石は異世界だ。規模が違う」
「この木1本で、私達の宮殿作れるんじゃない?」
“この木なんの木”に出てきそうな、形をした精霊樹はとてつもなく大きく、その高さはパッと見で大体3000m程だろうか。大きすぎて正直わからないが、多分そんなもんでしょ(適当)
俺達が飛んでいた高さと、同じぐらいの高さの木だとは思わなかった。
そりゃまだまだ距離があるわけだ。はっきりと見えてはいるが、まだ3〜400km程の距離がある。
「と言うか、仁。精霊樹って何?」
「え?今更?昨日、シルフォードが言った時になんで聞かなかったの?」
「半分寝てた」
可愛らしくてへっと舌を出すが、君はもう少しは反省の色を出して欲しい。
だが、可愛いから許す!!可愛ければ全て許されるのだ。
「いいか、精霊樹ってのはな────────」
精霊樹。それはエルフ達にとって命よりも大切なものであり、女神よりも高位な存在として崇められている木だ。
その理由は精霊と呼ばれる種族にある。
精霊とは、普段目に見ることが出来ない幽霊のような存在だ。
適性がある人にはその姿を見ることができるそうだが、ほとんどの人は見る事は出来ない。
中でもエルフは、適性がある人がもっとも多い種族だ。
かなり昔から存在は確認されているものの、未だに多くのことが分かっていないそうだ。
いつ、どこで、どうやって生まれたのかは分かっておらず、何をしているのかも分からない。
分かっているのは、精霊と契約をすると“精霊魔法”と呼ばれる特別な魔法が使えると言うことだけ。
文献に書いてあるには、精霊の力を借りて大きな魔法を連発できるらしい。
2年前に、ウェルムスに基礎を教わったが、あくまで教わったのは魔法の基礎であって、特殊すぎる精霊魔法の話ではないのだ。
話は戻るが、そんな精霊の名を持っている精霊樹。この木には多くの精霊が住み着いており、精霊たちの楽園と呼ばれている。
エルフ達は、信仰している精霊の楽園を守るためにその木を中心に国を作った。と、言うのが文献の解釈である。
エルフが精霊を信仰している理由は不明。
仮説ではあるが“精霊がエルフを作ったから精霊を信仰しているのではないか”と言われている。
エルフであるロムスにも話を聞いたが“生まれてからそう教わってきた”としか言っていなかった。
ちなみに、ダークエルフにとって精霊樹はただの木らしい。昔は違ったのか、それでも昔からそうなのかは分からないが。
「──────と、言うことだ。わかったか?」
「なんか、分かってないことだらけで、よく分からなかった」
「説明していてそれは俺も思ったが、調べられる限界はここまでだったんだよ。精霊の専門家がいれば、また違う話があるかもしれないが、別に興味無いしな」
「精霊樹が燃えたら楽しそうだね。きっと阿鼻叫喚になるよ」
花音がサラッと恐ろしい事を言う。
「燃やすなよ?フリじゃないからな?」
「分かってるよ。私だってやっていい事とダメなことぐらいの区別はつくよ」
口に出した時点で、不安いっぱいなんだよ。過去に何度も“やるな”って言ってやった前科があるからな?
俺は不安に思いつつ、イスの背中で揺られながら首都に着くのを待つのだった。
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