今後の動き
今日も今日とて、俺は纏められた報告書を見ていた。
アゼル共和国とバジャル連合国対シズラス教会国の戦後処理や、獣人国家であるバサル王国での不穏な動き。毎日のように動く情勢に目を通すのは、中々に大変だ。
「シズラス教会国はアゼル共和国とバジャル連合国の属国になったんだな。上層部の処刑と、改宗。正教会国側のイージス教から、神聖皇国側のイージス教に変わったらしい。後はそれに伴う法律の改定と多額の賠償金だな」
「それ大丈夫なの?特に改宗なんてしたら現地の人達が抵抗するんじゃない?」
「抵抗するだろうな。特に亜人や獣人を売って利益を得ていた奴隷商人辺りとか。仕事そのものを潰されるんだから、抵抗しないわけが無い。もしくは、国を出ていくか。どちらにせよ、戦争が終わったあとの方が大変そうだな」
この2ヶ国はしばらく忙しくなりそうだ。あと9ヶ月もしない内に大魔王復活するけど、呑気なもんだとは思うが小国だしあまり関係ないのかもな。
「そろそろ11大国に子供達を放ってもいいかもしれないな。練度はかなり積んだし、本格的に大魔王の居場所を探さないと被害が大きくなる」
「そうだね。神聖皇国や正教会国の首都に大魔王が現れようものなら、今後の計画に響いてくるよ」
花音の言う通りだ。この2ヶ国が戦争を起こすには、お互いの力関係が拮抗していないといけない。負けると分かっていて喧嘩を吹っかける奴はいないし、負けると分かっていて喧嘩を買う奴もいない。
神聖皇国側だけに被害があった場合、正教会国は宣戦布告する可能性はあるだろうが、世界を救う戦いで傷ついた国を襲うのは心象が悪すぎる。
下手をすれば、正教会国と仲のいい正共和国と正連邦国以外のすべての大国を相手取る可能性がある。流石に8つもの大国を相手にすることが出来るほど、正教会国とその同盟国は強くない。
少し頭が回れば、戦争を仕掛けることは無いだろう。
被害にあった神聖皇国はもちろんそれどころではなく、金のかかる戦争をやる前に国の建て直しを測るはずだ。戦争にかかる金ほど無駄なものは無い。
逆に正教会国側だけ被害にあった場合は、計画を実行しても大人しく馬鹿5人をこちらへ渡してくるだろう。意地を張って戦争するかもしれないが、その可能性は低い。
まぁ、俺としては別にそれでもいい。そもそも、俺が死んだことになっているのは馬鹿5人を殺すことであって、正教会国を滅ぼしたい訳では無い。
あくまで、教皇との交渉札として正教会国への正当な宣戦布告理由を上げただけなのだから。
合法的に殺すだのなんだの言ってはいたが、馬鹿5人が神聖皇国から指名手配された時点で俺達の計画は成功だ。
少し生温いが、英雄から殺人犯へと転落してコソコソと逃げ隠れる惨めな人生を送った後、俺達の手で殺す。これでも十分目的は達している。
返還される時にでも、攫ってしまえばいい。
あれ?もしかして正教会国で大魔王が暴れるのが1番平和なんじゃね?
正教会国に住む人々は大変な目に合うかもしれないが、戦争が起こればそれよりももっと人が死ぬだろう。
問題があるとすれば俺達、
以前ベオークが俺の評価で“考えているようで考え無し”と言われたが、正しくその通りだと思う。なんでこんな問題児達ばかりを仲間にしたのやら.......
「神聖皇国はともかく、正教会国側に被害が出ても俺達の計画に支障はないか」
「んーそれはちょっと困るかも?」
俺の言葉に、花音が可愛らしく首をかしげる。
「なんでだ?戦争が起きなくとも、馬鹿5人を始末するのは簡単だろ?」
「それはそうなんだけど、神聖皇国と正教会国が戦争にならないと私達も困る可能性が出てくるよ?」
「と言うと?」
「私達の計画に乗ったのに利益が無いと困るって事。あの馬鹿5人を神聖皇国に置いておくために、色々と手を打っているはずでしょ?それにはもちろんお金がかかる。教皇は正教会国を潰せると思っているから、態々火種を生かしているのであって、私達のためにやっているわけじゃないよね」
元々、正教会国との戦争を理由に手を貸してもらったのだ。俺達のために馬鹿5人に払いたくもない金を払っている訳では無い。
「もし、戦争が起きなかったら腹いせに私達を狙うかもしれないよ?」
「あの爺さんが、そんな短絡的な考えをするとは思えないけどな」
何度か話した感じ、かなり頭の回る爺さんだった。腹いせの為だけに俺達を狙うとは考えずらい。
「そういう可能性があるよって事だよ。人間、思い通りにいかないと何するか分からないからね」
花音が格好つけて言うが、正しくその通りだとだと思う。
目の前に居るもんな。思い通りにいかなかったりすると、キレる奴。
「まぁ、不要な恨みは買わない事に越したことはないからな。できる限り正教会国側にも被害が及ばないように、俺達も色々と動くとするか。まずは、11大国の状況と、大魔王の封印場所の捜索だな」
俺が、今後の方針を決めたその時だ。
「シャー、シャシャ、シャー」
「OK。今日の見張り当番はヨルムンガンドだったな。“そのまま張り付いておけ”と、伝えておいて」
「シャ!!」
元気よく返事をした
やっぱり、厄災級魔物の見張りを掻い潜るのは無理なようだ。余程隠密に優れてなきゃ、アンテナを張っている時の厄災級には見つかってしまう。
俺ですら、普通に見つかるからな。
「お客さん?」
俺の反応を見ていた花音が、話しかけてくる。今の会話を聞けば、そう思うのも当然だ。
「あぁ。見た目からして、今話題の悪魔さん御一行(2名)だそうだ。おそらく、三姉妹を追ってきたんだろうな」
「パパ!!」
聖堂の扉を開けて、イスがワクワクした表情で此方へ走ってくる。
俺へ抱きつくと、子供らくおねだりしてきた。
「私、悪魔達と戦いたい!!」
これは、どこかで今の話を聞いていたな?もしくは、ベオーク辺りに張り込ませて
とてもでは無いが、子供がおねだりするような内容ではない。
これが、“お菓子買って!!”とかだったら喜んで買ってあげたのだが、流石に“悪魔と戦わせて!!”は応えに困る。
イスは普通に強い。
特に、異能を使った時はえげつないほど強いのだ。イスの本気を見ていないからなんとも言えないが、恐らく俺を殺すことすらできる。
親としては危険な目に合わせたくないのだが、過保護すぎるとそれはそれでイスの成長を妨げる。
どうしたものか.......
『ワタシが護衛に付こうか?』
俺が悩んでいると、ベオークが影から現れる。このタイミングで現れるということは、ベオークが盗み聞きの手伝いをしていたようだ。
「大丈夫なのか?イスの異能はめちゃくちゃ寒いぞ?」
『問題ない。ワタシの深淵は深いから』
うん。よく分からないが、本人が問題ないと言っているなら大丈夫なのだろう........多分。
ベオークが自分の力量を弁えている筈なので、無理な事は言わないはずだ。
ここは親として、イスを信じて送り出すとしよう。俺は花音をチラリと見ると、花音は小さく頷く。
花音もベオークが護衛に付くならOKらしい。
「分かった。今回はイスに任せよう。ただし、ベオークの言うことは聞くんだよ?」
「わかったの!!」
「後、悪魔がこちらの要望を全て答えた場合は争いにならないから、出番はなしだぞ」
ほぼ100%ありえないけど。
こうして、俺達は仮面を被って悪魔達と対峙することになるのだった。
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