仲良くなるには、遊ぶ事が1番

  戦争が終わってから2週間後。俺が知る由もないが、龍二達が悪魔と戦う少し前の頃。


  俺達はいつも通り、鬼ごっこをやっていた。


 「はい。捕まえた」

 「うみゃァァァァ!!速すぎ!!」


  森の中で悲鳴が響き渡る。どうやらトリスが捕まったようだ。


  少しすれば、宮殿の庭にとぼとぼとトリスが残念そうに戻ってくる。


 「おつかれ。どうだ?本気を出した花音の足は」

 「速すぎ。本当に人間か疑わしい程に速いよ。見つかってから、五秒も経たずに捕まったよ」

 「あっはははは!!そりゃそうだ。元々花音の足は速いし、俺達は逃げ足が遅かったら即あの世行きだったからな。嫌でも速くなるさ」

 「団長はこれよりも速いっていうから驚きだよ」

  「直線だけなら、俺の方が断然速いな。その分、小回りは花音に劣るけど」


  そんな会話をしながら、残りの2人が捕まるのを待つ。


  鬼ごっこを始めてからは、俺と花音を警戒していたラナーとトリスと話す機会が多くなった。


  逃げる時のアドバイスや魔力操作の訓練に付き合うことも多く、自然と距離は縮まっていったのだ。


  鬼ごっこで仲良くなるとか小学生かよとは思うが、実際にこれで仲良くなっている。単純な距離の詰め方の方が、回りくどいやり方よりも効果があるんだな。


  もちろん、シルフォードと話す機会も多くなり、3人の性格が分かってきた。


  三姉妹の中で1番お姉ちゃんのシルフォード。彼女は表情が変わりずらく、心の中が読みずらい。慣れてくると、何となく怒ってるとか悲しんでるとか分かるのだが、慣れるまでが大変だった。


  淡々としているため、仕事が出来そうなパーフェクトウーマンに見えるが、結構ポンコツだ。


  ラナーから聞いた話によると、纏め終わった書類の最終チェックをする時に1番ミスが多いのがシルフォードだと言う。


  最終チェックをするのはラナーなのだが、毎回何処かにミスがあるそうだ。


  お次は次女のラナー。お嬢様のような口調をする彼女は、表向きはかなりいい子のように見える。が、俺は知っている。こういうタイプの女の子は裏があると。


  花音と同じ匂いがするのだ。どことなくヤバそうな雰囲気が漂う時がある。後、負けず嫌い。


  ちなみに、本人は隠しているつもりだが、超絶シスコンだ。しかも、姉と妹両方ともである。もし、俺がシルフォードかトリスに手を出そうものなら、後ろから刺されるだろう。“悲しみの向こうへ”が流れそうだ。


  完璧主義者で、なにごともキッチリカッチリこなす。適当でいいよーと言う俺とは真反対な性格だ。


  最後にトリス。この子は結構普通である。少し精神年齢が低くなる時があるが、イスの遊び相手になってくれたり、アンスールと花音の料理の手伝いをしてくれる。


  花音のような匂いも感じないし、シルフォードのようなポンコツ具合も感じない。三姉妹の中では1番まともである。


  ただ、とてつもなくもふもふが好きで、時間があればマーナガルムかフェンリルの毛並みを堪能しているのをよく見かける。まぁ、モフられてる本人も気持ちよさそうにしているので、特に問題は無いだろう。


  尚、三姉妹の中で、一番身体能力が高いのはトリスだ。足の速さだけで言えばラナーなのだが、それ以外はさほどなので、全体的に能力の高いトリスが1番になるのだ。


 「あ、ラナーお姉ちゃんも捕まった」

 「一直線に捕まったな。何かしようと罠を張ったっぽいけど、発動よりも速く花音が動いたようだな」


  地雷を踏んでも、爆発する前にその場から離れればいいじゃないと言わんばかりのゴリ押し戦法だ。基本搦手を好む花音だが、たまに脳筋になるんだよな。


  花音の事を知っていれば知っているほど、この脳筋戦法は引っかかるのである意味搦手なのかもしれない。


 「それにしても、だいぶ探知ができるようになったな。以前ならこの距離は探知できなかっただろ?」

 「うん。探知できなきゃ、そもそも逃げれないからね。ご飯一品没収はヤダ」


  流石はアンスールと花音の作ったご飯だ。“部下の信頼は胃袋から掴め”とはよく言ったものである。


  三人とも、一品減ってた時のテンションは目に見えて下がってたからな。


 「それでも、ベオークさん達が本気で隠れたのを探すのは無理だけどね。影蜘蛛シャドウスパイダーは知っているけど、ここまで厄介な魔物だとは思わなかったよ」

 「まぁ、ベオーク達は隠密の訓練を積んでいるからな。そこら辺にいる野良の影蜘蛛シャドウスパイダーよりも隠密に優れているのは確かだ。俺ですら本腰入れて探さないと見つけれないからね」


  最近更に隠密の精度が上がっているため、本当に見つけずらい。俺ですら見つけるとこのできない日が来るかもしれないな。


  トリスと同じようにとぼとぼとラナーが帰ってくる。負けず嫌いなラナーの顔は、悔しそうだった。


 「おかえりラナー」

 「ただいま戻りました、団長。スンダルさんからある程度逃げれるようになったから、副団長も余裕でしょと思っていた自分を殴りたいです」

 「あははは!!スンダルの足はあまり速くないからな。ビックリしただろ?花音の足の速さに」

 「えぇ。スンダルさんが引っかかった罠を強引に突破されるとは思っていませんでした。まだまだ改良が必要ですね」


  ラナーの異能は設置型の罠だ。系統で言えば、領域系になるかな?パッと見具現化系に見えるけど......


  俺もチラッと見ただけなので、詳しいことは分からないが、少なくともスンダルの足を止めることはできるらしい。


  そんな話をしていると、花音に捕まったシルフォードが帰ってくる。探知してた感じだと、こちらもアッサリ捕まってたな。


 「無理。あそこまで速くて小回りが効くと最早技術云々の話じゃない」


  俺たちを見るなり、愚痴を言いながら歩いてくるシルフォードに話しかける。


 「おかえりシルフォード」

 「ただいま団長。副団長の足速すぎて逃げれる気がしない」

 「基礎能力値が違いすぎるんだよ。そこは日々の訓練で地道に上げていくしかない」

 「.......団長は2年で強くなったと言っていたけど、どんな方法で強くなった?」

 「いつも言ってる赤竜レッドドラゴンの巣に突撃とか、ゴブリン皇帝エンペラーに喧嘩を売るとか、酷い時は2週間程ほぼ休み無しでファフニール達との戦闘とかやってたな」


  ちなみに、ゴブリン皇帝エンペラーとはゴブリンの最上位種ので、全てのゴブリンの頂点に立つゴブリンだ。


  あの川の向こうにいたゴブリン達とは別の群れの所だったが、あの時はやばかったなぁ.......倒しても倒しても湧いてくるゴブリンの群れを5日もかけて殲滅したんだから。


  しかも、ゴブリン皇帝エンペラーは超強かった。厄災級に近い最上級魔物だったな。


  俺達がやっていた訓練内容を聞いて、シルフォードは静かにため息をつく。到底真似出来ないと思ったのだろう。


 「団長は頭おかしい。病院に通う事をオススメする」

  「安心しろ。医師に見てもらったところで、治せはしねぇよ」


  そんなことを話しながら、探知に集中するとイスと花音が追いかけっこをしている。


  逃げるイスは、巧みに地面を凍らせたりしながら逃げているが、こういう相手の行動を読むのは花音の得意分野だ。


  5分もすれば距離は縮まり、捕まえられる。


 「お、終わったな」

 「すごいねイスちゃんは。私なんて見つかってから五秒も持たなかったのに.......」

 「イスは見た目こそ子供だけど、中身は厄災級魔物だからな。お前達とは文字通り格が違うんだよ」

 「むしろ、厄災級魔物相手に勝っている副団長が凄すぎますね。いつも思うのですが、団長と副団長は本当に人間ですか?疑わしいです」

 「失礼な。俺達はちゃんと人間だよ」


  花音にはあっさり捕まったが、スンダル相手には10分以上逃げれるようになっている。これなら悪魔が来ても、俺達が駆けつけるまでは生きているだろう。


  まぁ、そうも思った翌日に来るとは思わなかったけどね。

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