操られた街③

  地下からスラム街へと戻り、そのまま聖堂騎士達の元へ走る。地下への扉には厳重に鍵がかかっていたが、その程度はなんの障害にもならなかった。


 「あらら。この先は通さないと言わんばかりに待ち構えてるな」


  スラム街から綺麗な街へと続く道の境に、街の人々が武器を持って待ち構えているのが目に入る。


  先程の野盗たちとは違い、道を塞いでいるのは罪のない一般市民だ。なるべく殺したくはない。


 「そこを退け!!でなければ実力行使をするぞ!!」


  アイリスは無駄だとわかっていながらも、声を張り上げる。可能性がゼロではないなら、やってみる価値はあった。声をあげるだけならタダなのだ。


  しかし、街の人々は何も応えることはなく、ただじっとその場で待ち構える。


 「どうする?」

 「一旦飛び越えてみよう。もしかしたら、道を塞げとだけ言われていて追ってこないかもしれない」

 「流石にそれは無いと思うけどな.......」


  龍二達は、身体強化を使いながら人壁を飛び越える。


  ハードルのように飛び越えられた街の人々は、すぐさま後ろを振り向くと、龍二達を追いかけ始めた。


 「ほら!!やっぱりダメじゃん!!どうするんだよ。このまま追いかけっこしながら悪魔を探すのか?」

 「私だって正直無理だとは思ってたよ。でも、彼らは野盗じゃないんだ。やり合わなければ、それに越したことはない」


  そう言ってアイリスは立ち止まり、後ろを振り向く。


 「おい!!アイリス!!」

 「私がコイツらを無力化しておく。お前たちはさっさと悪魔を探せ!!」

 「だァァァ!!クソ!!死ぬんじゃねぇぞ!!」


  龍二達は、アイリスをその場に残して街の中を駆けていく。


  アイリスは、少し嬉しそうに口元を緩めながらつぶやく。


 「ふふっ私の心配をするのは100年早いよ。バカ」

 「なーに女の顔を出してるんですか?アイリス団長」


  後ろから急にかけられた声に、アイリスは肩を跳ね上げる。


  慌てて後ろを振り返ると、そこには呆れ顔の朱那がいた。


 「.......なんでここにいる?私は先に行けって言ったはずだが?」

 「龍二君が“一人になったら悪魔に狙われるかもしれないからサポートに行け”って。いやぁ、サポートどころか燃やそうかと思いましたよ。こんな状況で何イチャついてるんですかねぇ」


  ほんの少し殺気が漏れる朱那に苦笑いを浮かべながら、アイリスはこちらへやってくる街の人々に意識を向ける。


 「シュナ。分かっていると思うが、なるべく殺すなよ?コイツらは操られている可能性が高いんだ。彼らに罪はない」

 「分かってますよ。こういう時シンナス副団長が居てくれれば楽なんですけど、今回は任務から外れてますからね」

 「アイツの異能は街をぶっ壊すから今回の任務から外したのが裏目に出たな。一対多においては副団長の独壇場なんだが.......なんで要らない時に居て、必要な時にいないのやら」


  任務から外れたのはシンナスの意思ではないにもかかわらず、酷い言い様である。


 「さて、来ましたよアイリス団長。さっさと片付けて2人の元に戻るとしましょう。異能は使うんですか?」

 「私の異能は使わん。アレは正確な座標情報がいる。後ろに隠れている連中までは無理だ」

 「分かりました。私の異能で足止めしますね」


  そう言って朱那は自身の異能を発動させる。服装は変わり、背中からは純白な天使の翼が生える。


 「四番大天使ウリエル


  変身を終えた朱那は、すぐさま行動に移る。幾つもの光の玉がその場に出現し、勢いよく街の人々に向かって行く。


 「神光の拘束」


  放たれた光弾は着弾すると同時に網のように広がり、街の人々を捉えていく。

 

  手足を封じられた街の人々は、その場に倒れていき最終的に何百人という数の人が山のように積み上がる。


 「なぁ、これ人の重さで下の人死なないよな?」

 「大丈夫ですよ。今から吹き飛ばすので」


  そう言って、翼を羽ばたかせて風を起こす。網に囚われた人々は、その風に乗って道の端に綺麗に並べられた。


  人々は何とか抜け出そうと藻掻くが、朱那の創り出した光は“神の光”。自身の意志によって以外では、消されることの無い理から逸脱した能力。


  洗脳されているとは言え、ただの人である彼らにこれを壊す事はできない。


 「相変わらず便利な能力だな。私の異能も、これぐらい使い勝手がよかったらいいのに」

 「その代わり、アイリス団長の異能は一度発動出来ればかなり強力じゃないですか」

 「発動出来ればな。さて、おしゃべりはこの辺にして、悪魔を探すぞ。龍二達は自分の身ぐらい時分で守れるはずだから、私達は二人とは別の場所を探そう」

 「既に逃げられたりしていませんかね?」

 「可能性はあるな。だが、ここまで大掛かりな仕掛けをしたにも関わらず、この程度だけで済まして逃げるとは思えん。まだ何処かに潜伏してるはずだ」


  アイリスの考えは間違っていない。悪魔はまだこの街に潜んでいる。


 「潜伏してるって言っても、この街の広さだと探すのはかなり大変ですよ?しかも、洗脳された住民がワラワラと湧いて出てきますし。ほら、言ったそばから囲まれてますよ」


  朱那の言葉通り辺りを見渡すと、既に住民達がアイリス達を囲んでいる。その手にはもちろん武器が握られており、明らかな殺意がそこにはあった。


 「おいおい嬉しい限りだねぇ。喜べシュナ。男が選び放題だぞ?」

 「純粋に死ね」


  アイリスの茶化しに素直な暴言を返しつつ、襲ってくる住民達を拘束していく。


  その数は千を超え、なお増え続ける。


 「本当にキリがないですね。これだと悪魔を探すのは厳しそうですよ」

 「そうだな。ただ、これだけ人が来るってことは、リュウジ達の方は追われてないだろ。見ろよこの人の山。加減を間違えて殺しそうだぞ」


  流石に何千、何万人を無力化するのは朱那1人では厳しいものがある。光の拘束を逃れて抜けてきたもの達を、アイリスが上手く捌いていた。


  ある者は顎を的確に撃ち抜かれ、ある者は鳩尾に拳をめり込まされる。


  死なない程度に加減されているとは言え、気絶する程度の威力はあるのだ。中には肋骨が折れているものや、顎の骨にヒビが入っている者もいる。


 「何が面倒って、その倒れた人を巻き込まないように退かさないと行けないのが面倒ですね。ぶっちゃけ全員殺してここを血風呂ブラッド・バスにした方が早いですよ」

 「それは私も思うが、あくまで私たちは人々の守護者だ。無闇矢鱈に殺しまくるのは、この街以外に住む人々に恐怖を与えることになる」

 「洗脳されてるのに?」

 「そんなことは関係ない。罪のない一般人を殺戮したという事実だけで、十分なんだよ」


  アイリスと朱那は会話しながらも、住民を次々と取り押さえていく。


  終わりの見えない拘束作業をする事20分が過ぎた頃、街の中心部にある教会を破壊する音が響く。


  砂埃を上げながら、空を舞う1人の少年を見てアイリスは声をあげた。


 「リュウジ!!」

 「どうやら見つけたようですね。こちらも大分数は減りましたし、加勢に行きましょう。捕まってください」


  アイリスは朱那の腕を掴み、それを確認した朱那は空を飛ぶ。


  龍二の元まで辿り着くと、2人に気づきた龍二が話しかける。


 「お?街の方はどうなった?」

 「住民はあらかた無力化した。それより悪魔はどうなっている?」

 「見ての通りだ。光司とやり合ってるよ」


  龍二の視線の先を見れば、そこでは聖剣持ち、白と金の鎧を身にまとっている。


  その構えられた剣の先には、悪魔と思わしき何かがいた。


 「アイリス達は光司の加勢に行ってくれ」

 「お前はどうするんだ?」

 「なぁに。ちょっと保険をかけておこうと思ってな」


  そう言って龍二は、ニカッと笑った。




遅れました。ごめんさないー

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