操られた街①
3日後、街の構造を確認し終えた龍二達は、悪魔討伐の為に動き始めていた。
「場所はスラム街南西だ。そこに行けば密偵が案内してくれる」
「スラム街って言うと、あそこか。とてもでは無いが、神を信仰する国家とは思えないような人間達が集まってた場所だな」
「龍二君。そういう事を言うのはいけないよ。格好はともかく、信仰心は持っているかもしれないよ?」
「んな事俺の知ったことじゃねぇよ。ただ、どの国にもこう言う汚いところがあると思うと、前の世界と大して変わらないな」
スラム街は規則正しく並ぶこの街にはそぐわない、崩れた家の立ち並ぶ街の一角だ。昔は白く街を照らしていた家は、その白の塗装が剥がれ落ちており、土と同じ茶色い街並みをしている。
そのスラム街には、脛に傷を持つものや貧困が故にここに住みざるを得なかったもの達が多く存在している。
街の中でも最も犯罪率が高く、一般人がこのスラム街に立ち寄ることは先ずない。
しばらく歩けば、スラム街の入口に辿り着く。何か門がある訳では無いが、舗装されていいない道が多くなればそこはスラム街だ。
「勇者様方と聖堂異能遊撃団団長アイリス様ですね?」
どこからともなくゆらりと現れた、全身を黒いローブで覆った男が話しかけてくる。
「あぁ。お前は影だな?案内を頼む」
「スラム街でのいざこざを避けるために、少し人目につかない道で行きます。逸れないように気をつけてください」
するすると動き出す密偵の後ろに、アイリス達はついて行く。足音はなるべく殺し、気配も最小限に抑える。
「気を引き締めろよ。ここからは敵戦地だと思え」
アイリスの言葉に、全員が小さく頷く。いつ、何があってもいいように、即座に異能や魔法を展開できるよう準備をしておくのだ。
スラム街を歩くこと20分。とある廃墟の前で密偵は立ち止まった。
「ここの地下に悪魔と思わしき者がおります」
「ご苦労だった。お前達にはまだ仕事が残っているからな。待機していてくれよ?」
「分かっております。地下への階段はこちらです」
密偵はある手順を踏んで、地下へと続く隠し階段を出現させる。
「凄いな。相当金がかかってそうな機能だ」
「大金貨ぐらい余裕で飛んでそうだね」
「1000万単位で飛んでると思うと、ゾッとするね」
地下へと続く道を見て、龍二達はその仕掛けに感心する。とても少年心を動かすカッコイイ仕掛けだった。
「ここから先は一本道です。中は暗いのでお気をつけて」
「リュウジ」
「はいよ」
アイリスの合図に龍二は頷く。龍二は手のひらから光の玉を生み出し、灯りを確保する。
「もう2つ3つ出しておくか」
そう言って、更に3つほど光の玉を生み出すと一人一人の頭上に光を灯す。
「自動追尾型の光弾だ。動きに合わせて動いてくれるから、暗くなる心配は無いぞ」
「流石、龍二君。光に関しては完璧だね。僕も明るくすることはできるんだけど、加減は出来ないからなぁ」
「光司のは明るくしてるんじゃなくて、目潰しだから。LEDじゃなくてフラッシュバンだから」
軽口を叩きながら、龍二達は地下へと降りていく。
そこに油断など一切ない。張り詰めた緊張感がその場を支配していた。
それでも平然を装う。それができるのが、今の彼らだ。
「お気をつけて」
「あぁ」
密偵の声に軽く手を振るアイリスだが、その後に続けられた小さな呟きを聴き逃した。
「オロバス様」
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聖堂騎士団。それは神聖皇国を代表する国を守る守護者である。
今回の悪魔討伐に参加している聖堂騎士である、シュル、エント、ラズラスは勇者達の帰りを宿で待っていた。
「しかし、本当に大魔王は復活するんですかね?」
自分達の部屋に運ばれた料理を食べながら、他愛もない話を始めるシュル。彼は20歳と若いが、その実力が買われて今回の悪魔討伐作戦に参加している。
「女神様からの信託を疑うのか?」
シュルを睨みつけ仲間ら、パンをかじるのはエント。聖堂騎士になって40年という長い年月を過ごしたベテランの兵だ。
彼は熱心なイージス教信者であり、一日三回、女神イージスに祈りを捧げ、週に1度は大聖堂で司教の説教を聞く程である。
「いや、イージス様を疑っている訳では無いですよ。でも、復活しない方が有難いじゃないですか。俺は平和に生きたいんですよ」
「確かに、復活しない事に越したことは無いねぇ。僕も子供がいるから、あまり無理は出来ないしねぇ」
少し特徴的な話し方をするのはラズラスだ。彼は既婚者で、3歳の子供もいる。ある意味、この3人の中で一番死んではならない人物である。
「お子さん、えーと、リズちゃんでしたっけ?もし、リズちゃんが襲われようものなら、ラズラスさんが内なる力を解放して魔王をやっつけるんじゃないんですか?ほら、子を守る時の親って強いですからね」
シュルは何かを思い出すかのように、天井を見ながら水を煽る。酒では無いのが残念だが、今は任務中だ。何があってもいいように、素面でいる必要がある。
そんな談笑をしている中、扉をコンコンと叩く音が部屋の中に響き渡る。
「はーい」
「食器の回収に参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞー」
確認を取って入ってきたのは、この宿で働く街娘の一人だ。特に何事もなく、食器を纏めて部屋を出ていく直前で、その動きが変わる。
「む?!シュル!!避けろ!!」
エントの声に即座に反応したシュルは、咄嗟に横に転がる。
そのすぐ横を、街娘がいつの間にか持っていた包丁が通り過ぎる。
「あっぶねぇ!!」
「悪く思わないでくださいよねぇ」
攻撃を避けたシュルと入れ替わるように、ラズラスが街娘の手を掴み足をかける。
倒れ込んた街娘の腕を背中に回し、身動きが来れないように抑え込む。
「大丈夫ですかねぇ?シュル君」
「大丈夫ですよ。エントさんの一言が無ければ、今頃頭から包丁が生えてましたがね」
立ち上がったシュルは、自分を襲ってきた街娘を見つめる。彼女と会ったのは3日前であり、業務上のやり取り以外はロクに会話もしていない。襲われる理由が分からなかった。
「どうします?これ。衛兵に突き出しますか?」
「それはそうだが、その前に話を聞くとしよう。一応聞くが、手を出したりはしてないよな?」
「してませんよ!!大体、俺には彼女がいるんですよ?!そんなことした日には冗談抜きで死にますよ!!」
「ならいい。お嬢さん。なぜコイツを襲ったんだい?」
優しく、それでいて威厳を感じるような口調で街娘に話しかける。
「───────」
「何?なんと言ったのだ?」
街娘から発された声は、3人の耳には入らなかった。しかし、その声はある人物へと届いていた。
「“助けてください。オロバス様”って言ったのよ」
ガシャンと窓が割れる音と共に現れた、馬のような姿をした悪魔は聖堂騎士達に自己紹介をする。
「初めまして。55番目の悪魔、オロバスよ。貴方たちも私の配下になりなさい」
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