人外魔境の鬼ごっこ

  ストリゴイとスンダル、そして三姉妹を呼び出した。


 「それで、団長。急に呼び出してなんの用?」


  三姉妹を代表して、シルフォードが話しかけてくる。


  ラナーとトリスはまだ俺達を信用しているわけではなさそうなので、こうして話す時はシルフォードが代表して話しかけてくるのだ。


  まだ1週間しか経ってないから、これはしょうがないだろう。生まれてからずっと“人間は悪”と教えられてきたのなら尚更。


  それでも、こちらから話しかければちゃんと返答してくれるので、会話が成り立たないことは無い。すごく素っ気なく返してくるので、ロボットと会話してる気分になるが。


 「お前達、鬼ごっこって知ってるか?」

 「鬼ごっこ?」


  やっぱり知らないよな。あの島にいた時も、鬼ごっこという言葉は無かったし。


 「簡単に言えば、鬼って言われる追いかける役から逃げる遊びだ。例えば、俺が鬼役だとしよう」


  俺はそう言って、隣にいた花音をタッチする。


 「逃げる奴は鬼にタッチされると、そのタッチされた奴は鬼役に代わる。もちろん、鬼役は逃げる側に変わる訳だ。ここまでは分かるか?」


  コクリと3人とも頷く。理解が早くて助かるね。


 「そしてその鬼はまた逃げる側を追う訳だが、ここは俺達のルールでやろうと思う」


  そう言って俺はスンダル、ストリゴイ、イスと三姉妹&俺と花音のチームに分ける。


 「吸血鬼夫婦とイスが鬼、俺達が逃げる役だ。逃げる側は捕まった時点で終了。範囲はウロボロスの結界内のみ。10分逃げきれなかったら今晩のおかず一品没収な」

 「「「え?!」」」


  突然聞かされた罰ゲームに、三姉妹は顔を引きつらせる。


  アンスールと花音の作る料理は美味しいもんな。きっと死ぬ気で逃げてくれるだろう。


  ただ罰ゲームを言うだけでは、俺が嫌な奴だと思われてしまうので一応今回やる鬼ごっこの目的も伝えておこう。それを意識してやるのとやらないのとでは、かなり動きが違ってくるだろうしな。


 「今回の鬼ごっこはお前達三姉妹が悪魔に奇襲されても、俺達が駆けつけるまで逃げ切れるようにする為だ。1人で居た時に襲われても、ほかの厄災達に助けを求めれるぐらいまでになってくれ」


  俺の言葉を聞いて、引き攣っていた顔が真面目なものになる。


  いい顔だ。故郷が滅ぼされて、思うところがあったのだろう。


  自分がもっと強ければ、自分がもっと早く走れていれば。また違った未来があったかもしれない。


  弱さは罪だが、強さは罪では無いのだ。


 「ま、とりあえずどんな感じなのか知るために、やってみようか。あ、直接攻撃するのはダメだけど、逃げるときに異能、魔法、魔術を使うのはアリだから工夫して逃げてね」


  俺の場合は異能が強すぎて使うの禁止されているが、この3人は特に問題ないだろう。シルフォードとトリスは魔導師だし、ラナーの異能もそこまで強力なものではない。


 「一分数えたら追ってきてくれ。それじゃ、スタート!!」


  俺の合図と同時に、三姉妹はイス達に背を向けて走りだす。


  身体強化を全力で使った本気の走りだ。


  俺と花音はこの三人にアドバイスをする為に、うしろをついていく。


 「ちょっと速い程度だな。もう少し出力あげれないのか?」

 「んー魔力の動きを見る限り、これが限界っぽいかな?まだまだ沢山無駄はあるけど、今持てる全力で走ってると思うよ」


  魔縮を教えるか?いや、でもあれ結構危険だしな。失敗すると、あちこちに被害が行ってしまう。


  まずは、魔力操作をもっと綺麗にできるように教えるか。魔力操作が滑らかなほど、魔力を効率よく使えるようになる。極めれば、同じ魔力量で撃った魔法でも、別次元の威力になるのだ。


 「一分過ぎたな。三人が動き出したぞ」


  俺は魔力探知で、三人が動き始めたのを察知した。とてつもない速さで走る三人は、迷うこと無くこちらに真っ直ぐ向かってくる。


 「おーい。このままだと追いつかれるぞー」


  俺の忠告に、全員動き方を変える。三人とも一斉にばらけ、足跡をなるべく残さないように木の上を移動し始めた。


  今回はラナーについて行くとしよう。三人の中で1番足が早そうだしな。


  元々森の中に集落はあったらしく、森の中を駆け回るのは日常茶飯事だった三人はかなり速いスピードで森の中を駆けていく。


  なるべく音を立てず、気配を消して走っているがそれでも厄災級の目を誤魔化せるほどでは無い。


 「追ってきたのはスンダルか」


  ラナーを追いかけるスンダルは、無駄なく真っ直ぐこちらへ追いかけてくる。ただ、気配の消し方が上手すぎてラナーは気づけていないようだ。


 「はい、捕まえた」

 「へ?」


  完全な死角からいきなり抱きつかれたラナーは、何が起きたのか分からずにその場に立ち尽くす。


  分かるよ。俺も花音も、コイツらの気配が全く掴めなかった時はそんな反応してたもん。


 「森の走り方は様になっているけど、それ以前の問題ね。団長。どこまで育てればいいのかしら?私達と張り合えるぐらい?」

 「張り合えると言うか、逃げ切れるぐらいまでは成長して欲しいな。後、さっさとラナーを離せ。八重歯が出てるぞ」


  ラナーを捕まえて後ろから抱きつくスンダルを見ながら、俺はスンダルを諌める。


  スンダルはごく稀に吸血衝動が起こるらしく、血を吸おうとする時がある。まぁ、ほんの一瞬吸血衝動が起こるだけで、別になにか吸えば落ち着くとかそういう訳では無いらしいのでほっといているが。


  アレだな、ちょっとムラっとくるとかそういうのと似ているんだろうな。


  知らんけど。


 「こ、これから逃げ切れるのですか?全く気配が分からなかったのですが.......」

 「最初はそんなもんだ。俺も初めはこんな感じに即捕まったが、2週間もあればある程度は逃げられるようになるぞ。10分程度なら3日もあれば行ける」

 「それは、団長達の罰が重すぎたからでしょう?捕まったら死って感じだったからねぇ」

 「どんな罰だったのですか?」

 「赤竜レッドドラゴンの巣に放り込まれたな」

  「........は?」


  “何を言っているんだお前は”と言った顔でこちらを見てくるが、それ以外に言いようがないのでしょうがない。


  今思い出しても、当時の俺達は狂っていたと思う。何十体といる赤竜レッドドラゴンの巣に放り込まれては、死ぬ気で逃げ回って、時には戦ってアンスールの待つ洞窟へと帰ったものだ。


  出迎えてくれたイスの温かさに、俺も花音も泣いてたなぁ。


 「スンダル様。本当に団長様は赤竜レッドドラゴンの巣に放り込まれたのですか?」

 「本当よ?なんてったって、私とストリゴイが放り込んだもの」

 「.........」


  ラナーが、化け物を見る目でこちらを見てくる。そんな熱い視線を送ってくるなよ。照れるじゃないか。


 「おかず一品で済むだけマシと考えるべきなのか、それともこんな人外魔境に足を踏み入れてしまったわたくしを恨むべきなのか。あぁ、お姉様。ラナーは、今からお姉様を刺してしまいそうです」


  サラッと怖いこと言うねこの子。


 「さぁ、スタート地点に戻るとするか。今のはお試しだから罰ゲームはないからな。次、捕まったらおかず一品抜きだ」

 「分かりました団長様。ぶっちゃけ10分も逃げ切れる気はしませんが、できる限り足掻いてみせましょう」

 「その意気だ。次は、少しでも嫌な感じがしたら異能をぶっぱなすといい。ラナー程度の威力なら、ウロボロスの結界も壊れないだろうしな」


  その後、ラナーに魔力操作の重要性とその練習方法。更に魔力探知の効率的なやり方を教えれるだけ教えながら、スタート地点に戻る。


  ほかの2人は既に捕まっていたようで、スタート地点に戻ってきていた。


 「どうだった?」

 「まっっっったく!!勝てる気がしない」

 「同じく」


  元気よく腕を振り上げながら悔しがるトリスとその隣でしょんぼりとするシルフォード。


  見た目が子供のイスにあっさり捕まったのが余程ショックだったのか、目に見えてシルフォードのテンションが下がっている。


 「ま、やり方はわかったと思うから、後は頑張って逃げ回ってみろ。ストリゴイ、スンダル。アドバイスはしてやれよ」

 「分かっているわ」

 「安心するといい。もとよりそのつもりだ」


  俺達を鍛えてくれた二人のことだ、三人にあったやり方を教えてくれるだろう。


 「パパ!!次は私が逃げたい!!」

 「いいだろう。本気で捕まえに行くからな」

 「うん!!」


  3人が訓練している間、俺はイスと遊んでやるとしよう。


  この後、3時間ほど鬼ごっこをするのだが、三姉妹は仲良くその日のおかずが一品減っていた。


  明日も頑張ってくれ。

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