能力って結構分かりずらいものが多い

「流石パパ!!ママ!!この程度じゃ相手にならないね!!」


  手合わせを終えると、イスが空から降りてくる。ドラゴンから人の姿に戻り、元気よく抱きついてきた。


  俺はイスを受け止めながら、その頭を撫でてやる。少し冷たい髪は、戦いで熱くなった心を冷やしてくれた。


「お互いに万全でやり合ってる訳じゃないから、なんとも言えないけどな。霧があったら、また違った戦い方になってただろうし」

「そうだねー。霧があると魔力探知ができないから奇襲に対応しずらくなるね。その時は異能を使うかな」


  お互い、全力ではあったが本気ではなかった。モーズグズ達は霧というフィールドが無かったし、俺達は異能を使っていない。


  純粋な体術勝負は、俺達の方が上だったという訳だ。


「そう言えば、イス達は霧の中を問題なく動けるのか?」

「動けるよ!!霧は私の魔力だから、探知の役割もあるの!!もちろんモーズグズ達もね!!」


  こちらは全く見えないのに対して、イス達は一方的にこちらの動きを把握できるのか。この世界はイスの独壇場だな。


  異能禁止で、この世界にいるイス達と戦えば普通に負けるかもな。それ程にまで反則じみた能力だ。


  そんな事を思っていると、イスはさらに驚くべき事を言う。


「今は暖かくしてるけど、本来はもっともっと寒いの!!吹雪も吹き荒れるし、モーズグズはもっと大きいよ!!」

「ちょ、イス様!!大きいとか言わないでください!!」


  恥ずかしそうに声を荒らげるモーズグズ。女性に重い、大きいは禁句だ。


  ただ、幼いイスにそれを分かれというのは無理な話である。子供とは、時として純粋な悪魔なのだ。


「え?だって私と会った時は20mぐらいあったじゃん。すっごい大きいなーと思ったよ?」

「いえ、それは間違っていませんが、その......面と向かって大きいって言われるのは恥ずかしいというか、なんと言うか.......」


  なんかごめんな。人と接する機会がイスは少ないから、言っていいことと悪いことの区別がつかないんだ。


  今度ちゃんと教育しておくから、許してくれ。お世辞の言い方とかも教えた方がいいかな?


「ところで、イス。もっと寒くできるって、どのぐらい寒くできるんだ?」


  俺は2人の言い合いに無理矢理割り込み、会話を断ち切らせる。強引な話題転換だが、イスなら元気よく俺の話に乗ってくれるだろう。


  案の定、イスはモーズグズとの会話を打ち切り、俺の方を向いて可愛らしく首を傾げる。


「んー、世界が全て凍るぐらい?」


  抽象的すぎて分からん。世界が凍るってことは、どういうことだってばよ。


  こういう時は、実際にやってもらった方が早いか。


「実際にやれるか?」

「やってもいいけど、アンスールは下手したら死んじゃうよ?」


  何それ怖い。どれだけ温度を低くできるんだよ。アンスールは寒さに弱いとは言え、厄災級魔物だ。そうそう簡単に死ぬとは思えない。


「死ぬのは困るわね」

「俺も死なれるのは困る。誰がメデューサを止めるんだよ」


  元気ハツラツすぎるメデューサを止めれるのは、アンスールだけだ。死なれると、メデューサの暴走が止まらなくなる。


「ねぇイス。具体的には、何を凍らせることができるの?」


  花音がイスに聞く。なるほど、抽象的な物から具体的な物に変えてもらえれば、大体の温度は分かるもんな。


  そして、この質問にイスはとんでもない答えを言う。


「空気!!」

「........え?空気って今吸ってる空気?」

「そうだよ。だから、空気がないと生きられないアンスールは死んじゃうかもって言ったの!!」


  いや、人を空気がなくても生きられる人外生物にするんじゃねぇ。俺も花音も人間なんだから、普通にしてたらそのまま死ぬわ。


  まぁ、花音はどうか知らないが、俺は異能を使えばどうとでもなるけど。


「おい花音、空気が凍る温度って幾つだっけ?」

「窒素や酸素が凍るって言われてるのは、大体の−219度だね」

「もしかして、世界が凍るってことは絶対零度まで下げられるって事か?」

「多分そうじゃない?全てが凍りついて静止した世界。−273.15度の熱振動が一切ない世界なんでしょ」


  空気すらも動きを止める静止した世界。某人気漫画に、そんな感じのセリフ言ってたヤツいたな。第5部辺りで。


「アレだよな。氷系の能力とか見ると思うけど、その奪った熱量とかどこに行くんだろうな」

「さぁ?漫画の世界だからそこら辺は考えたら負けじゃない?」


  花音の言う通り考えたら負けだな。漫画にリアリティは必要だが、リアルすぎるのは面白くない。


「とりあえず、これで悪魔対策は大丈夫.....だよな?」

「多分大丈夫なんじゃない?後は、イスの能力を外から見たらどうなるかが知れればいいと思うよ」


  それは必要だな。というか気になる。これだけ広大な世界を創り出しているのだ。ウロボロスのような結界を作っているのとは訳が違う。


「イス、一旦能力を解除できるか?」

「わかったの!!」

 

  イスは元気よく頷くと、能力を解除して元いた場所に戻る。


「元いた場所は特に変化無しだな。これなら暴れても周りに迷惑をかけることもなさそうだな」


  後は、外から見た時にどうなるかだ。さっそくお願いしよう。


「イス。今度は俺達を巻き込まずに能力を発動させることはできるか?」

「できるよ!!死と霧の世界ヘルヘイム


  再びイスが能力を発動させると、その姿は霧に覆われ何処かへと消えていく。


  これ、領域系異能だと思ってたけど、もしかして特殊系異能か?俺の知っている領域系異能は、こんな感じではなかったはずだ。


「イスの創った世界に転移している感じなのか?」

「どうなんだろうね。私や仁の異能は分かりやすいけど、イスの異能はニーくんやファフくんみたいに分かりにくいね」


  ニーズヘッグとファフニールか。確かにあの二人の能力も分かりずらい。何となくできることは分かるのだが、詳しく説明しろと言われると困るもんな。


  5分もすれば、再び霧がその場に現れイスが姿を表す。


「どうだった?!」

「完璧だ。これで悪魔問題は解決できるな」


  実際に追ってくるかどうかは分からないが、備えあれば憂いなしだ。


  それに今回はイスの成長した姿を見れたし、結構満足である。


「後は、あの三姉妹だな。俺達が街にいる時に、奇襲されて死なれても困る」

「そんなことになったら、私達の仕事が増えるもんね.....」

「それは勘弁だし、何より既にアイツらは俺達の仲間なんだ。俺の許可無く無断で死ぬのは許さん」


  悪魔の能力が分からない以上、転移やベオーク達のような影を移動してきて襲う事もある。


  そんな時に、俺達が駆けつけるまで逃げ切れるだけの実力は欲しい。


  逃げるだけなら、あれをやればいいだろう。俺達もあの島でやった地獄の訓練。


「あの三人にもやってもらうか。花音、スンダルとストリゴイを呼んできてくれ」

「分かった。罰ゲームは何にするの?」

「おかず一品抜きだな。流石に赤竜レッドドラゴンの巣には放り込めないからな」


  彼女たちは、結構食事を楽しみにしているのを知っている。本気で逃げ回ってくれるだろう。


「イスもやる?」

「やる!!私は鬼側がいい!!」


  元気が有り余るイスを連れて、俺達は三姉妹の元へ向かう。


  是非とも頑張って逃げてくれ。人外達の鬼ごっこの始まりだ。

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