お手合わせ

「それじゃ、お手合わせしてみて!!」


ペコペコと頭を下げあった後、イスが提案をしてくる。


人間味溢れる挨拶をしていたから忘れていたが、この二体は元々手合わせするために呼んだんだよな。


「イス様。よろしいのでしょうか?」


モーズグズが、不安そうにイスに話しかける。何か困ることがあるのかな?


「ん?どうしたの?」

「イス様のご両親を傷つけてもよろしいのでしょうか?」


あれ?もしかして今煽られた?暗に、手加減してあげた方がいいかと聞こえたんだが。


確かに、お互いがお互いの強さを知らないので、俺達が大怪我を負う可能性はあるが、俺達を傷つける事を確定事項のように言われるのは少しイラッとくる。


イスはキョトンと目を丸くした後、モーズグズの言った言葉を理解して大笑いする。


「あははははは!!面白い冗談だね!!モーズグズとガルム程度じゃ、パパやママには傷一つ付けられないよ!!」

「なっ.......」


キッパリと言い切るイスに、モーズグズは驚愕の顔を浮かべる。


イスの評価は嬉しいが、ちょっとハードルを上げすぎでは無いだろうか。流石に、傷一つ付かないのは厳しい気もする。


仮にも、イスの異能から生まれた奴なんだぞ。弱いわけが無い。


それでも、子供の期待に応えるのが親というものだ。イスの言う通り、無傷で完封するしかないな。


「モーズグズ、この前私と遊んだ時は手を抜いていたね?今回は本気でやるといいよ。自分がどれだけ弱いかよく分かるから」

「......分かりました。使える全てを使って戦いましょう」

「うんうん。私のパパとママの強さを知るといいよ。あ、パパは異能は使っちゃダメだからね?」


使わないよ。と言うか、使ったらこのモーズグズさん死んじゃうじゃん。お手合わせなのに、殺すのはやりすぎでしょ。


と言うか、どこまでならやっていいのだろうか。腕とか吹き飛ばすのは大丈夫なのか?


「イス。どこまでならやっていいんだ?」

「パパの異能を使う以外は何してもいいよ。この子達は、壊れても直ぐに再生するから」


そう言ってイスは、モーズグズの足を蹴り飛ばして砕く。唐突に足を失ったモーズグズはバランスを崩して膝を着くが、直ぐに氷の足が生えてくる。


「ね?」

「そ、そうだな」


いや、わざわざ実践してくれなくてもいいんだけど。イスも結構容赦ない時があるよな。そういうのを見ると、花音の子供だというのかよく分かる。


偶に考えなしで周りに心配をかけるところを見ると俺の子供だなと思うから、子は親に似るってのは本当だったんだな。


尚、蹴られたモーズグズは若干興奮したような表情をしていた。ウチの子に悪影響を及ぼすから辞めてくれ。


「二対二でやるのか?それともタイマン?」

「二対二でいいんじゃない?お互いにお互いをカバーしあって戦うタッグ戦の方が楽しそうだよ」


花音が二対二を提案する。モーズグズもガルムも頷いたので、お互いに距離をとる。


イスとアンスールは、戦闘の余波に巻き込まれないように俺達から離れる。ドラゴンに変身してアンスールを乗せて空を飛んだ。


さて、イスの期待に応えるために、圧勝で終わらせるとしましょうかね。親の威厳と言うやつを見せてやろう。


「先手は譲ってやるよ。好きなようにかかってこい」

「かかってこーい!!」


格好をつける俺と楽しそうにする花音が、魔力を身体に纏う。


今回はこの世界が本当に大暴れしても壊れないのかの検証もあるので、本気でやらせてもらうぞ。


「では、行かせてもらいます。死なないで下さいよ!!」

「バゥゥゥ!!」


100mほどあった間合いは一瞬で縮まり、俺に向かってその透き通った槍を放つ。


ドン!!


腹、胸、頭と順に狙われた神速の突きは、その衝撃音がひとつに聞こえる程の勢いで俺を襲ったが.....


「冗談キツイですね。イス様に言われた通り本気で突いたのですが、覆った魔力すらも貫けないとは.....」

「いやいや、中々いい一撃だったぞ。昔の俺だったら反応すら出来ずに串刺しだ」


俺は突き終わったままの槍を握ると、そのまま砕く。イスが簡単そうにモーズグズの足をへし折っていたが、結構硬いぞこれ。かなりいい勢いで蹴り飛ばしたんだな。


槍を折られたモーズグズは慌てて距離をとり、槍を再生して構える。


花音の方を見ると、ガルムが花音の腕に噛み付いていたが、全く牙が通っていない。どうやらあちらも覆った魔力を貫けないようだ。


「バゥゥゥ.....」

「んー、モフモフじゃない......」


花音のやつ、毛並みを確かめたいが為にわざと腕を噛ませたな。


毛並みを確かめられているガルムは、少し困惑しながらも何とか噛み砕こうとするが、花音の魔力は貫けない。


花音だって、あの化け物じみた厄災級達と渡り合える強さを持っているのだ。今更わん公のひと噛みなど、どうということは無い。


ガルムの方は大丈夫そうだな。花音の防御を貫けない以上、花音が負けることはない。


俺は右拳に魔力を集めて圧縮すると、モーズグズに向かって忠告する。


「次は俺の番だ。死ぬ気で耐えろよ?」


攻撃が来ると察したモーズグズは、俺からさらに距離を取ろうとするが、無意味だ。本気で強化した俺の拳は、少なくとも500mは離れてないと吹き飛ばされる。


大きく振りかぶり、圧縮させた魔力を弾けさせると共に拳を振るう。


次の瞬間、氷の草木は拳圧によって吹き飛ばされ、粉々に砕け散る。地面の氷を抉りながらその衝撃波は、モーズグズを襲った。


「?!」


ここまで攻撃が飛んでくると予想していなかったモーズグズは、避けることは出来ないと悟ると防御をしようとする。が、その防御も虚しく飴ガラスのようにモーズグズの腕は砕け散り、その身体を打ち壊す。


「すごーい。さすが仁」

「凄いのはイスの異能だな。今の一撃、ウロボロスの結界内で放ってたら結界はぶっ壊れてるぞ。本当に、俺の異能じゃないと壊せないかもな」

「バ...........ゥ」


俺の一撃を見て褒める花音と、思わず花音の腕を噛んでいた口を大きく開けて呆けるガルム。二人の反応を見ながら、俺はイスの創った世界が本当に壊れない事に感心していた。


踏み込んだ足の部分が陥没しているが、別にこの世界が壊れた訳では無い。それに、既に陥没した地面は戻っている。


粉々に砕け散った草木は新しく生え変わり、先程と同じような光景を映し出していた。


「キャウゥ!!」


俺がイスの創り出した世界に感動してあると、その横を物凄い勢いでガルムが飛んでいく。


花音が投げ飛ばしたようだ。


「たーまやー」

「“たまや”は花火だろ。自分で投げ飛ばした相手に言う言葉ではないと思うぞ」

「気分だよ気分。細かい事は気にしないでね」

「そういうもんか?ところで.......」


俺は後ろから放たれた突きを躱すと、その槍を持って背負い投げのように地面に叩きつける。


俺の後ろで復活したモーズグズが、隙を見て攻撃を仕掛けてきたようだ。


「本当に再生できるんだな。あれか?覇気を纏わないとダメージがないのか?」

「自然系能力者だっけ?ク〇ン大将じゃん」

「俺はあれが欲しいな。オペの奴。なんかかっこよくない?」

「仁の異能、見た目で言うと闇だけどね」


確かに、黒い球体だもんな。


地面に叩きつけられたモーズグズは、何も言っているのか分からずに頭に?を浮かべていた。まぁ、向こうの世界の作り話だから、分からなくて当たり前だよな。


「で、まだやる?飽きるまで遊んであげるよ?」

「.......上等!!」


俺の煽りに、乗っかって何度も攻撃を繰り返す。


こうして2時間ほど遊んだが、結局モーズグズとガルムは俺達に傷一つつけることは出来なかった。


でも、よくよく考えると霧の中でコイツらも襲ってくるってことだよな?今回は俺達にボコボコにされたけど、魔物で言うなら普通に厄災級に入るレベルだ。


視界が取れず、魔力探知もろくにできない中、コイツらが襲ってきたら物凄く厄介だろう。


やっぱウチの子強いわ。

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