見分け方とか分かりませんが?

  2週間という時は、あっという間に過ぎ去る。


  停戦協定の有効期限は既に切れており、開戦の狼煙が上がるのを待つ状態になっていた。


 「凄い人の数だな。今なら某天空の城の名台詞が言えるかもしれん」

 「見ろ!!人がゴミのようだ!!って?」

 「そうそう。こんだけ人が集まっていればゴミ同然にも見えるでしょ」


  ドレス平野に集まっている人の数は、両軍合わさて約18万程度。そのうち約12万がアザン共和国とジャバル連合国の軍だ。


  シズラス教会国が6万なので、単純計算すれば2倍の兵力差になる。


  そして、その兵力差をひっくり返せる人間兵器の灰輝級ミスリル冒険者は、ベオークが殺した。


  どう転んでも、シズラス教会国側には勝ち目の無い戦争だ。


  それでも兵を出してくるあたり、既に引くに引けないんだろうな。


  ベオークのは暗殺により、シズラス教会国内では今、裏切り者がいるのではないかと全員が全員を疑っている状態だ。


  そんな状態で、他人の兵を頼る戦術が組めるわけが無い。やらずとも、結果は目に見えていた。


  現に、平野に構えるシズラス教会国の兵達は、その属する派閥によって分けられており、かなり離れている。


  連携はどうやっても取れないだろう。


 「宣戦布告の理由とかは滅茶苦茶なのに、戦争は集結してやり合うんだな」

 「仁だったらどうするの?」

 「なんでもありなら街や村を狙うな。こんな決戦みたいに正面から殴り合うんじゃなくて、停戦時にスパイを潜り込ませて戦争が開始したと同時に大火事でも起こして暴れさせる。その間、敵の攻撃は防衛一択だな」


  揺レ動ク者グングニルを動かせるなら、そんな小細工一切無しで全員を大暴れさせればいいが、花音はそんな事を聞きたい訳では無い。


  同じように、人間の軍を持っていたらどうするかの話だ。


 「村や街が被害を受ければ、長期戦になるほど有利になるもんね。食料や武器の補充は街から出てるわけだし」

 「そういうことだ。まぁ、素人の考えだから、実際は色々問題があってできないんだろうけどな」


  そんなに優秀なスパイが居ないとか。


  俺たちの場合は、ベオークやその子供達という優秀すぎる密偵がいるが、中小国に情報を集めたり、暗殺ができるような優秀なんで人材がそう何人もいるとは思えない。


 「しっかし、本当にだだっ広い平野だな。ウロボロスを連れてこないと、隠れる場所が無いのは困るぜ」

 「ふははは!!ワシに感謝するのだな団長殿!!」


  今回戦争の見学に来ているのは、俺、花音、イス、ベオークのイツメンに加えて、ウロボロス、アンスール、リンドブルムが来ている。


  一回下見でドレス平野に行ったのだが、あまりに何も無さすぎて、上空の雲の上に隠れる以外の隠れ場所が無かった。


  流石に雲を挟んで戦場を見ることの出来る透視能力は持っていなかったので、空の上でも俺達を隠すことができるウロボロスにお願いして付いて来てもらった。


  アンスールとリンドブルムはなんで来たのか知らん。リンドブルムは暇だったからとか言いそうだが、アンスールはなんで来たのだろうか。


 「こんだけの人が集まってる場所に流星落としたら、気持ちよさそうだよな」

 「やるなよ?絶対にやるなよ?フリじゃないからな?」

 「アッハッハッハッハッ!!流石にアタシだってそこら辺はわきまえてるさ団長。つまりやれって事だろ?」

 「ぶっ飛ばされたいのかお前は」


  こんな所でダチョ○倶楽部はいらねぇんだよ。リンドブルムの場合はマジでやりそうだから、ちょっと怖いんだよな。こんな事なら、ファフニールも呼ぶべきだったか?


 「やめんか小娘。貴様は本当にやりかねかないから、団長殿が困っているではないか。少しは場を弁えろ」


  珍しくウロボロスがまともな事を言う。そうだそうだ!!もっと言ってやれ!!どうせなにか言い返してくるだろうけど。


 「......ごめん」


  リントヴルムが物凄くしおらしく謝る。あのリントヴルムが、ウロボロスの注意に反論をせずに謝っただと.....


  あまりに普段の言動とかけ離れた事をしたリントヴルムを見て、その場にいた全員が固まる。


  花音やイスですら、リントヴルムは何か言い返すと思っていたようだ。


 「リ、リントヴルム。貴様何か悪いものでも食ったのか?もしかして体調が悪いのか?そんなに素直に謝るのは少々気色が悪いぞ」

 「は?なんでそうなるんだよ。アタシが団長を困らせたんだから謝るのは当然だろ?頭腐ってんのか糞ジジィ」

 「お、おう。そうだな。ワシにはいつも通りで安心したぞ」


  ウロボロスにはいつも通り辛辣な言葉を返す。良かった。本当に悪いものでも食ったのかと思った。


  リンドブルムの意外すぎる一面を見れたと、思っているとドレス平野で動きがあった。


 「お?お互いに一人づつ出てきたぞ」


  馬に乗リ、豪華な防具に身を包んだおっさんがお互いの陣地から出てくる。


  こんなに無防備に出てこようものなら、矢の1本でも降ってきそうなものだが、それは無い。


 「なぁ、あれ何がしたいんだ?」

 「さぁ?お互いに最後の降伏勧告をするとか?」

 「何それ。もう宣戦布告は済ましているんだろ?」


  地球での戦争は、宣戦布告をした時点で戦争開始だ。ある意味宣戦布告が最後通牒になっている......はずだ。興味なかったので詳しくは調べていないが、少なくともこんなふうに1人づつ代表を出してなんか言い合うことは無い。


  遠すぎて声は聞こえなかったが、何かを言いあった後、お互いに剣を一回合わせて背を向ける。


 「こういう変なところで、異世界なんだなって感じるよ。俺だったら後ろを向いた瞬間に刺してる」

 「それは私も同じだね。後ろ向いた瞬間にその首叩き切ってるよ」


  お互いが陣に戻ってから1時間後、ようやく軍が動き始めた。


 「動き始めたな。これだけの人が動くと流石に迫力があるわ」

 「すっごいね。映画でも味わえない迫力だよ」

 「すごいすごい!!」


  俺も花音もイスも、初めて見る大軍の戦争に興奮する。


  人が死んでいるが、それを今更どうこう思うことは無い。人を殺す訓練も俺達は積んでいる。あの島の魔物のレパートリーの多さには涙が出るね。人に化ける魔物とか趣味が悪い。


 「流石にこの乱戦の中だと、アッガス達を見つけるのは無理だな。正規兵はともかく、傭兵や冒険者は誰がどっちの陣営なのかすら分からん」

 「正規兵はお互いに揃った鎧を来てるから分かるけど、傭兵や冒険者は格好が自由だもんね。同士討ちとかないのかな?」


  花音の言う通りである。この乱戦の中で、素早く敵味方の判別をできるのは至難の業だ。一体どうやって判別しているのだろうか。


 「それができるから、プロの傭兵なのかもな」

 「やばいね。私たちそんなの出来ないよ」

 「俺も花音もできないし、なんなら厄災達はもっと分からないと思うぞ。な?ウロボロス」

 「ふははは!!ワシを甘く見るなよ団長殿!!」


  お?もしかして分かるのか?流石は厄災級だな。人間の個々の判別まで出来るのか。


 「まっっっったく分からん!!正直、その正規兵と傭兵とやらの違いすらワシには分かるかどうか怪しいぞ!!」

 「おーけー。お前に少しでも期待した俺が馬鹿だった。アンスールとリンドブルムは分かるか?」

 「残念ながら分からないわねぇ。仁や花音ぐらい異常な人間なら分かるけど.......」

 「アンスールの姉さんと同じだな。アタシも団長や副団長ぐらい化け物じみてないと判別がつかない」

 「一応聞くが、イスは?」

 「わかんない!!」


  ですよねぇー。これは少し考えないといけないかもしれない。


  神聖皇国と正教会国との戦争の時に間違って神聖皇国側に攻撃した日には、全世界を敵に回してしまう。


  しまったなぁ。そこまでは考えてなかった。俺達メンバーを見分けるのは簡単だ。だって半分以上は人外だもん。なにかの比喩とかでは無く、本当に人外の集まりだ。


  傭兵や冒険者はともかく、正規兵達の見分け方を教えることは出来るか?


 「色の違いぐらいは分かるだろ?それで判断はできるか?」

 「「「それぐらいなら.....まぁ......」」」


  不安だ。


  俺はまだまだ先に起こるであろう戦争までに、何とかしなければと心の中で溜息をつくのだった。


  最悪アレだな。神聖皇国の人達は自分の国に居てもらうか。

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