お土産はセンスがものをいう
腕相撲をし終えた後、日は既に沈んでおり、その日は街に泊まることにした。
傭兵達御用達の安全性があって、安く綺麗な宿だ。しかも朝食付きである。
翌日。俺達は昨日騒ぎまくった傭兵達に別れを告げて街に繰り出す。
「今日は土産を買って帰るとするか。じゃないと、ストラゴイやスンダルに怒られるしな」
「あの二人、おみやげ結構楽しみにしてるから、忘れた日にはマジで怒ると思うよ」
「それは怖ぇ。特にスンダルは本気で怒ると怖いから、ちゃんと買っていこう」
アル中の怒りは買いたくない。
という訳でやってきました『酒売店デン』。この店は様々なな酒を取り扱っており、エールのようなものから、ワイン、焼酎、ウォッカ等細かく分ければキリが無いほどの酒が置いてある。
ここの店主であるエルフが相当な酒好きで、世界各地から酒をかき集めている。一度でいいからスンダルと会って見てほしい。絶対話し合うから。
扉を開けると、少し年老いた老人のエルフが酒を飲んでいた。
「こんな朝っぱらから酒を飲むのかよ。体壊すぞジーさん」
「ホッホッホッ。心配には及ばんよ。ワシにとってこの酒は水に等しいのでのぉ」
「いや、そういう問題じゃないんだが.......」
酒は酒だ。水ではない。多少たしなむ程度ならまだしも、こんなにガバガバ飲んでたら、老い先短い寿命がさらに縮むだろう。
「ジーさんに死なれると困るんだよ。主にウチの酒好きが」
「ほう。お主がよく話す酒好きか。一度会ってみたいのぉ」
「今度連れてくるよ」
「それ、前来た時も言っておらんかったか?」
「気のせいだ」
スンダルは見た目はほぼ人間とほぼ変わらないとは言え、厄災級の吸血鬼だ。下手に存在がバレて騒ぎになるのは避けたい。
そうなると、ジーさんをスカウトするしかないのだが、さすがに酒専門で雇うのはちょっとな。事務仕事とかできなさそうだし。
「ねーねーパパ。お酒って美味しいの?」
そんな事を考えていると、イスが俺の服の裾を掴んで引っ張ってくる。可愛い。
「さぁ?どうなんだろうな。俺も花音も飲まないから何とも言えないな」
「美味いぞ嬢ちゃん。飲んでみるか?」
イスの疑問を聞いていたジーさんが、イスに酒の入ったコップを渡そうとする。
子供に何飲ませようとしてんだこのジジィ。
俺は、伸ばされたジーさんの手を掴み、そのコップを取り上げる。
「何するんじゃ?」
「何もクソもねぇよ。子供に酒を進める奴がいるか。大体、この酒の度数幾つだよ」
「15じゃな」
「は?え?じゃぁジーさん度数15の酒を水って言って飲んでたのか?」
「当たり前じゃろ」
何を言っているんだお前はという顔でこちらを見てくるが、それはこっちのセリフだ。何を言っているんだお前は。
アルコール度数15%って日本酒レベルだぞ?それを水呼ばわりして飲むとかイカれてんだろこのジーさん。
「ジーさんの中で酒は何度からだよ」
「40度。ちょっと弱めの酒じゃな」
ウォッカじゃねぇか。しかも、それが弱めの酒なのかよ。
「普通の酒は?」
「75度」
「割るのか?」
「んな勿体ないことするわけなかろう!!もちろんそのままじゃ!!」
化け物すぎるでしょこのジーさん。普通は割って飲むんだよ。そういうのは。
「強いのは?」
「96度」
スピリタスじゃねぇか!!もうアルコール飲んどけよ。
「割ったりは?」
「せんぞ」
もうアルコール飲んどけよ(二回目)。96度の酒とか最早酒じゃねぇよ。消毒用アルコールだよ。
実際、スピリタスを生産しているポーランドでは、消毒液として使われることもあるそうだ。
それをこのジーさんは一切割らずに飲むという。豪酒とかそういう次元を超えている。肝臓どうなっているんだよ。
「ま、まぁとにかく。イスに酒はまだ早い。大人になってから飲もうな。酒に含まれるアルコールは子供には毒なんだ」
「んーわかった!!」
素直に元気よく返事をするイスの頭を、優しく撫でる。サラサラとした髪が指先を抜けていく感覚は、中々に気持ちよかった。
ところで、ドラゴンが大人になるのは何歳からなのだろうか?今度ファフニール辺りに聞いてみるか。
「とりあえずいつものをくれ。後オススメを数本」
「ワインか?ウォッカか?」
「なんでもいいよ。俺は飲まねぇから」
基本的に飲むのはスンダルとストリゴイだ。俺が飲むわけじゃないから、別に種類はなんでもいい。あの二人にも指定されてないしな。
ジーさんは適当な瓶を何本か用意すると、それらを丁寧に並べて紙袋に入れてくれる。
重さ的に紙が破れそうだが、結構頑丈な紙を使っているらしく、破れない。
俺はそれをマジックポーチに仕舞うと、ジーさんに料金を払って店を出ていく。
「酒が無くなるちょっと前また来る」
「ホッホッホッ。楽しみに待っておるぞ」
そう言いながら、ジーさんは度数15度もある酒を飲んでいた。なんで死なないんだろうな、あのジーさん。
酒を買ったあとは、パンだ。大通りの外れに佇むこじんまりとしたパン屋に俺達は足を運ぶ。
「あら、いらっしゃい。久しぶりね」
扉を開くと、優しい声で出迎えてくれたのは、リスの獣人のおばちゃんだ。
その顔から溢れ出るいい人オーラは、最早女神の領域であり、シスター服を着ていないのが不思議なぐらいだ。
「久しぶり。パンはある?」
「えぇ。あまり人が来ないからねぇ。沢山残っているわよ」
こんなに美味しいのに、なぜ売れないのだろうか。やっぱり立地か?
これだけ美味しければ、口コミで広がるはずなのに.....
俺としては売れて欲しい半面、売れすぎて俺たちの買う分が無くなるのは困るので悩むところだ。
「出来たてパンとあとは.....オススメでいいか?」
酒は飲まないが、パンは食べる。俺はイスと花音におばちゃんのオススメを適当に買っていいかと聞くと、2人とも頷く。
「後、オススメを適当に」
「はいよ」
おばちゃんは店の裏に行くと、少し作業をした後戻ってきた。
「これがオススメよ。オーク肉のパンサンド。数はどのくらい居るのかしら?」
「んー何個ある?」
「20個ぐらいかしら」
「じゃ、それ全部で」
「あらあら。有難いわ。ちょっと待っててね」
ふはははは!!この世界は、コンビニの一番くじのように全部買い占めても何も言われないのだ!!更にちっょと(だいぶ)失礼だが、このパン屋は繁盛していない。
つまり、俺がこのオススメを買い占めても誰も文句は言わないのだ!!
金も腐るほどあるしな。
「はい。どうぞ」
20個のオーク肉のパンサンドが入った袋を渡され、俺はそれをマジックポーチに仕舞う。
おばちゃんは更に、イスに1つのパンを渡す。
「はいコレ。イスちゃんには甘いパンをプレゼントよ」
「ありがとう!!おばちゃん!!」
砂糖がかかったパンをイスに手渡す。このおばちゃん、俺達にも優しいが、子供相手には更に優しくなる。
ここでパンを買っていくと、2回に1回はイスに菓子パンをプレゼントしてくれるのだ。
とてもいい人である。
イスは笑顔で砂糖パンにかぶりつき、その頬を大きく膨らませる。
俺達は暫く、パンを夢中で食べるイスを見守るのだった。
「あら、できたわね」
イスが砂糖パンを食べ終わり、おばちゃんと他愛もない話をしてあると、パンが焼き上がる。
香ばしい小麦の匂いが部屋全体を包み込み、匂いだけでそのパンの美味しさが伝わってくる。
この出来たてパンはその名の通り、出来たてだ。
注文を受けてから焼くので、出来たてホヤホヤのパンを食べることが出来る。
更に、時間停止が出来るマジックポーチに入れておけば、何時でもどこでも焼きたての美味しいパンが食べれるのだ。
このパンの上に、この店特性のブルート(ブルーベリーのような果物)のジャムを合わせて食べると、それはもう格別だ。
初めてこのパンを食べた時は、全員何も話すことなくただひたすらにパン貪る獣と化した。
それほどまでに、凶悪的な美味しさを誇るパンである。
「出来たてパン12斤。出来上がりよ」
「ありがと、おばちゃん。パンが無くなったらまた来るよ」
「えぇ待ってるわ。その時はもっと美味しいパンを焼いてあげる」
「それは辞めてくれ。ほかのパンが食えなくなる」
おばちゃんに別れを告げて、俺達は街を出る。
さぁ、パンが俺達を待ってるぞ!!急いで帰らなくては!!
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