マジ?

  翌日。俺達はバルサルに出向いていた。


  ベオークの暗殺に関しては、まだ時間がかかるだろう。戦争が始まる前までに殺ってくれれば問題ない。


  俺と花音は、イスと手を繋ぎながら大通りを歩く。初めて来た時は、人混みに酔ってダウンしていたイスだが、今では慣れて普通に歩いている。


 「まずは傭兵ギルドに行くか。面白そうな話がないか聞きに行ってみよう。聞きたいこともあるし」

 「もうすぐ戦争が始まるもんね。色々と準備してるかも」


  もうすぐ戦争が始まるとあって、街の雰囲気も少しピリついているのが分かる。特に、戦争に参加するであろう人達はその目付きが険しくなっている。


  俺達はギルドに付くと、扉を開いて中に入る。


 「あら、久しぶりね。元気にしてたかい?」


  ギルドに入るとすぐに、受付のおばちゃんが話しかけてくる。


  まだ両手で数えれる程しか訪れていないが、顔をしっかりと覚えられているようだ。


  真っ黒なコートに、背中に描かれた逆ケルト十字。更には、護衛として右頬から胸にかけて刻まれた蛇のタトゥーをした子連れなんてそうそういないだろう。


  それに、3日に1回ペースでは来るからな。覚えられていても不思議ではないか。


 「元気も元気。超元気さ。そこで飲んだくれているダメなおっさん達も、俺の元気さを見習って欲しいぐらいだ」

 「お?言うじゃねぇかジン。昼間から酒を飲むのは元気な証拠だぜ?」

 「どこがだよ。とりあえずその酒臭い息を吐くんじゃねェ。ウチの子の教育に悪い」

 「ぶははははは!!こんなギルドに来てる時点で教育に悪りぃよ!!なぁみんな!!」


  全くだ!!その通りだ!!と騒ぎながら再び酒を煽る駄目人間達は放っておいて、俺達は受付のおばちゃんの元へ行く。


 「それで?今日は何の用だい?ようやく仕事をやる気になったのかい?」

 「ならねぇよ。金はあるからな。ちょっと聞きたいことがあるんだよ」

 「なんだい?」

 「“彗星”エドワード・ハーレって知ってるか?」

 「知ってるよ。有名な灰輝級ミスリル冒険者だね」


  やはり知っているのか。灰輝級ミスリル冒険者は、他の冒険者達とは違って別格らしいからな。嫌でも情報は出回るのだろう。


  これなら、少しは欲しい情報が手に入るかもな。


 「どんな奴なんだ?」

 「私も詳しくは知らないよ。それでもいいなら話すよ」

 「構わん。田舎から出てきたから、灰輝級ミスリル冒険者の事を全く知らないんだよ」


  おばちゃんが話してくれたエドワードの情報は、結構しっかりしていた。


  産まれはゼトミス教会国と呼ばれる国で、亜人や獣人差別が酷い人らしい。いわゆる人間至上主義者ってやつだな。


  15歳で冒険者になると、その二つ名にもなった異能を使って順調に冒険者のランクを上げ、18歳で灰輝級ミスリル冒険者に。


  それから15年。彼はずっと灰輝級ミスリル冒険者として活躍しているそうだ。


  彼の使う異能は“彗星落しフォール・コメット”。


  その名の通り、彗星を落とすのだ。


  その威力は絶大で、最小限に威力を絞ったとしても、村の1つは軽く消し飛ぶ程。


  これは、ベオークの暗殺が成功する確率がグンと上がったな。暗殺をするなら街中だ。街中でそんなバカげた威力の異能は撃てない。


  周りの被害を考えない人間の屑とかなら別だが。


 「ありがとおばちゃん」

 「何、こんぐらいなんてことは無い一般常識さ。むしろ、そんなことも知らないアンタが心配だよ」


  今度、灰輝級ミスリル冒険者の情報も集めさせるか。調べてたのが小国ばかりだったから、あまりそういう情報が入ってこないんだよな。


  ベオークの子供達は、子供達で更に子供を作ってその子供達が更に子供を作って.......と言うループをしながら数が増えている。


  もう少し時間が経てば、世界中に子供達をばら蒔いて情報を集める事も可能だ。


 「そうだな。俺は知らないことが多い。他にも有名な灰輝級ミスリル冒険者とか教えてくれよ」

 「それなら私じゃなくて、あっちの飲んだくれどもに聞きな。仕事柄、そういう情報は仕入れているはずだよ」


  確かに、おばちゃんは知らなくても困ることは無いが、あそこで飲んでる駄目人間達は、知らないことが命に関わる事がある。


  俺だって、知らなければ死んでいた事などごまんとある。特に、あの島では知らないと植物に食われるからな......ありがとうロムス。俺はお前のおかげで生きてるよ。


  俺達は飲んだくれ達の隣に空いている席に座り、串焼きとジュースを注文する。お腹は別に空いていないが、話を聞くとなると結構時間かかりそうだし、軽くつまめるものは必要だろう。


  運ばれてきた串焼きを早速食べながら、俺は飲んだくれのモヒカン頭に話しかける。


 「話聞いてただろ?さっさと教えろ」

 「それが人に物を頼む態度かよ。ママに言われなかったか?人にお願い事をする時は、敬語で頭を下げなさいってな」

 「生憎、俺の母親からは昼間から酒を飲むような奴は人間じゃないって教えられててな。人じゃない奴に頼む態度なんでこんなもんだろ?」

 「相変わらず減らず口のガキだぜ。良くもまぁ、こんな奴からイスちゃんの様な純粋な気持ち子が育ったもんだ。カノンちゃんの育て方が良かったのか?」

 「こっち見んな人間以下のゴミ虫が。イスに悪影響を与えちゃうでしょ」

 「カノンちゃんもダメだわこりゃ。イスちゃんは純粋なままでいてくれよ」

 「んー?よくわかんないけど分かった!!」


  イスの元気な声に、皆癒される。やはりイスは可愛い。


 「それで、灰輝級ミスリル冒険者のことが知りたいのか?」

 「灰輝級ミスリル冒険者だけじゃない。この世界の強い奴らを知りたいな」

 「この世界の強い奴ねぇ.....結構いるぞ?灰輝級ミスリル冒険者だけでも100人以上いるからな」


  そんなにいるのか。今日中に聞き終われるかな?


 「冒険者で1番有名なのは、剣聖ゴルドだろうな」

 「流石にそれは俺も知ってるな。正教会国に拠点を置く最強の剣士だろ?」


  流石に、世界最強とまで呼ばれている冒険者は知っている。


  神速の一刀を放つ剣士。振るわれた剣は万物をも切り裂き、神にすら届きうると言われている。


 いずれ、殺り合うことになるであろう冒険者だ。


 「お?もの知らずでも流石に知ってたか。本になるほど有名な人だしな」


  それは知らない。剣聖って本になってるのか。


 「次に有名っていえば、聖魔サレナか?」

 「聖魔?」


  剣聖に対抗したような二つ名だ。


 「これは知らないのか。結構有名なんだけどな。聖魔サレナは聖王国出身の魔導師だよ。ありとあらゆる魔法を再現できるらしい。保有魔力も膨大で、たった1人で5万人の軍勢と同等の力を持つって言われてるぞ」


  へぇ、それは知らなかった。調べる時間がなかったのもそうだが、味方になるであろう国の冒険者達は後回しにしてたし。


 「その聖シリーズは他にもあるのか?」

 「あるぞ。剣聖、聖魔、聖弓、聖盾、聖刻、天聖の6人だな」


  最初の4人は何となくわかる。が、聖刻と天聖は分からんな。


 「聖弓と聖盾は弓と盾を使うんだよな?」

 「あぁ、その通りだ。聖弓はとてつもなく遠くから敵を撃ち抜くと言われてるな。聖盾は全ての攻撃を受け止めれるらしい。真実はどうか知らんがな」

 「聖刻と天聖は?」

 「この2人については、よくわからん。俺達も人伝いに聞いた話だからな。刻印による聖なる呪いだとか、天から降り注ぐ神の怒りとか言われてる」

 「それだけじゃ、どんなのか分からねぇな」


  聖なる呪いって矛盾してる気がするが、実際に見ないとなんとも言えないな。


  モヒカン曰く、聖刻は合衆国、天聖は亜人連合国を拠点に置いているそうだ。


  正教会国とやり合う時は、正連邦国と正共和国が敵に回るから、この2人やり合うことは無いだろう。


  ただ、聖弓と聖盾はそれぞれ正連邦国と正共和国を拠点にしている。いづれやり合う時が来るだろう。


  この感じだと、各大国事に1人有名な灰輝級ミスリル冒険者がいるって感じだろうな。


  その後も話を聞けば、俺の予想通りだった。大国は何人もの灰輝級ミスリル冒険者を抱えているが、その国の顔になる冒険者は1人だけだ。


  獣王国は“獣神”ザリウス。


  大帝国は“軍勢”バラハ。


  大エルフ国は“精霊王”ミューレ。


  ドワーフ連合国は“破壊神”ダン。


  全員他の灰輝級ミスリル冒険者よりも頭1つ抜けて強い冒険者達だ。


 「神聖皇国は誰なんだ?」


  神聖皇国はアイリス団長や師匠が強かったが、冒険者に関しては全く知らない。というか、神聖皇国なのに聖シリーズじゃないんだな。


 「神聖皇国は“禁忌”だな」

 「禁忌?とてもじゃないが、神聖皇国には似合わない名前だな」

 「それは俺もそう思うぜ。なんでも禁術をぶっぱなすらしい。そこから付いた名前なんだと」


  へぇ、禁術を使うのか。あれって確か魂を消費する魔術だったよな?どうやって使っているのか気になる。


 「名前は?」

 「だ。禁忌ロムス。男のエルフだったかな?」


  男のエルフ。ロムスという名前。確かアイツ禁術を使う条件を知っていたよな。魂云々の話してたし。


 ...............マジ?


 

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