血に錆びた槍の元に

  資料を全て確認し終えた俺達は、半分死んだ顔をしながらイスの背中に乗っていた。


  徹夜で作業したのだ。疲れないわけが無い。


「あー疲れた。徹夜で残業できる社畜が、いかに凄いかよくわかったわ」

「オールは何回かやったことあるけど、なんの面白みもない資料をずっと見てるのは堪えるね.......しかも、そのほとんどは汚職.......」

「なんと言うか、その、すまなかった」


  罰が悪そうにスコリゴイが頭を下げる。全くだコノヤロー、どんだけ腐ってんだよあの国は。


「まぁ徹夜で資料見た甲斐もあって、欲しい情報は全部手に入ったしな。後は、どうだな」


  ベオーク達が集めた情報は、多義に渡る。汚職はもちろん、国家機密みたいなやつとか、街並み、権力者達の個人情報、取れる作物とその消費量、こんなの必要か?と思うような情報まであった。


  かなり細かくまで情報収集してくれたおかげで、他国との関係性も明らかになった。


  ストリゴイ達が居なくなったあとも国交はある程度あったようだが、共闘した国を滅ぼした後に禁術、天候操作タン・トリポテを使い、半径100km近くを荒野に変えた。


  その為、この圏内にいた国は環境に適応できず滅んだそうだ。


  つまり、吸血鬼の国、ヴァンア王国はどの国との国交も無い。


  100kmの荒野を態々歩く人間も居ない。俺達がある程度暴れても、問題無いという訳だ。


「感謝するぞ、団長殿。我もスンダルも諦めていた復讐が果たせそうだ」

「良いってことよ。やろうとしてることは俺達とそう変わらないんだ。気持ちはわかる」


  こうして、ヴァンア王国が滅ぶ事が決定した。


  ゆったりと空を飛び、拠点へと戻ってくる。


「ただいま」

「ただいまー」

「たっだいま!!」

「あら、おかえりジン、カノン、イス」


  空から降りてくると、アンスールが出迎えてくれる。イスの頭を優しく撫でるその姿は、うん、いつ見てもオカンだ。


「ヘイ!!団長帰ってきたのですか?!おかえりでーす!!」


  今回出迎えてくれたのは、アンスールだけではなかった。俺に目掛けてダイブハグをしてこようとするメデューサをするりと避ける。


「WaT?!なぜ避けるのです!!」

「もうちょっとスピード落としてくれ、そんな勢いでハグされた日には俺が吹っ飛ぶわ」


  車と同じくらいのスピードでハグされた日には、抱きつかれる前に俺がお星様になってしまう。


「むぅ、ならこれで文句ないでーす!!」


  メデューサは、先程とは違いノロノロと赤子がハイハイするかのようなスピードで近づいてくる。お前は両極端にしかできないのか。


  このまま放っておいてもいいが、メデューサが拗ねるとそれはそれで面倒なので、大人しくハグされるのを待つ。


  2分もかけてようやくハグされる。


「お帰りでーす!!」

「ハイハイタダイマ」


  2分も待たせるなよとは思うが。


  俺にハグをした後、直ぐに花音に向かって突っ込んでいく。案の定、花音の魂の鎖ソウルチェインに止められていた。


「WaT?!なぜカノンも止めるのです?!」

「仁と一緒だよ。そんな勢いでハグされた日には、吹き飛ぶよ」


  そう言って花音は、縛り上げたメデューサの近くまで行って両手を広げる。


「ハイ、ゆっくりね」


  そう言って鎖を解く。


  なるほど、自分からメデューサに近づいて直ぐハグできるようにしたのか。それは思いつかなかった。


  俺と同じようにハグされた花音の顔は、徹夜したのも相まって疲れていた。



「さて、今回参加するメンバーを決めないとな」


  メデューサのハグを受けた後、俺達はドッペルが作った一軒家に集まっていた。


  ヴェルサイユ宮殿の方は、ほぼ完成したらしいが、細かい装飾作るからもう少し待てと言われた。遠目に見たが、もう十分だと思う。あれ以上何処に手を加えるんですかねぇ。


  今家にいるのは、俺と花音、イスとベオークと吸血鬼夫婦、更にアンスールとメデューサの8人だ。

 

  リビングは結構広いので、8人入っても問題ない。


「まずは、ここにいるメンバーは決定だ。異論は?」


  誰も何も言わない。OKという事だろう。


「役割としては、今回の主役である吸血鬼夫婦は相手の親玉を殺りに行け。道は開いてやる」

「分かった。感謝する」

「ありがとね団長さん」


  今回の主役は復讐に燃える吸血鬼夫婦なのだ、団長であろうが出しゃばりは嫌われる。


「俺と花音とイスは吸血鬼夫婦のサポートだ。2人の舞台を整えてやる必要がある。できるか?」

「私は問題ないよー」

「私もできる!!」


  花音はともかく、イスはちょっと心配だ。この子加減というものを知らないからな.......保険はかけとくか


「ベオーク。お前はイスと一緒に行動しろ。もし何かやらかしそうだった止めてやれ。いいな?」

『問題ない』


  ほんの少し、イスがほっぺを膨らますが、花音が頭を撫でて宥めてやる。ナイスだ花音。


「子供達はアンスールの下に着いてくれ。そして、そのアンスールとメデューサだが、この国は山岳に囲まれている。その山の中に待機だ。逃げてきた吸血鬼共を狩れ」

「1匹も逃すなという事ね」

「OKでーす!!」


  アンスールとメデューサは、手下達を生み出して山の中でハンティングだ。蝙蝠を日1匹たりとも逃がしてはならない。


「後は、あの目立つ連中をどうするかだよな.......」


 まず最初に却下されるのは浮島アスピドケロンだ。彼女が動いた瞬間大問題になる。


  彼女には悪いが今回はお留守番だな。というか、よっぽどの事がなければお留守番だな。仲間はずれとかはしたくないのだが、コレばかりは仕方がない。小さくなれるなら別かもしれ.......ない訳では無いな。今までそこにあった山がなくなったら騒ぎになる。


  移動的問題から、強大な粉砕者ジャバウォックと死毒ヨルムンガンドも却下。あの二人は移動するのが少し面倒である。アスピドケロンと仲良くお留守番してもらおう。


  後は、目立ちすぎるという点で流星リンドブルムもお留守番決定。彼女の攻撃は周りを巻き込んでしまう上に、物凄く目立つ。


  後、輪廻の輪ウロボロスもお留守番にしておくか、結界の維持の為とアスピドケロンは新入りすぎるから、仲のいいウロボロスがいてくれた方が安心できるだろう。


  ドッペルもお留守番。家作ってもらってるし、なんか職人気質な感じがするから、一旦中断とかさせると面倒臭そうだ。


  獣三体組は今回連れていこう。人の言葉が話せないもの達のも連携とか確かめたいし。


  という訳で先週メンバーが決まった。


  先ほどの8名に加えて、終焉を知る者ニーズヘッグ、原初の竜ファフニール、神狼フェンリル、月狼マーナガルム、地獄の番犬ケルベロスの5名を加えた、計13名でヴァンア王国を滅ぼしに行くことになる。


「よし、みんなを集めよう。集合場所はアスピドケロンの前で。集まったら待機ね」


  そう言って一旦お開きになる。出かけているメンバーも多いので、集まるのは下手したら数日後とかになるかもな。遠くに行ってないことを祈ろう。


「ねぇ仁」

「ん?」


  リビングでくつろいでいると、花音が話しかけてくる。


「ついでに金庫からお金を盗るんだよね?」

「やってる事は盗賊だけど、そうなるな」

「私思ったんだけどさ、ベオーク達に盗ませれば良かったんじゃない?そしたら、戦乱の中態々盗む必要なくなるよ?」

「............あ」

「戦争始める前に、ベオーク達に盗ませよう?」

「そうするわ」


  相変わらずどこか抜けている俺だった。


  揺レ動ク者グングニルのメンバーが揃ったのは、翌日の朝だった。だいぶ遠くまで飛んでいた奴もいたんだな。


  俺は仮面を被ると、並んでいる揺レ動ク者グングニルメンバーの前に立つ。


  島を出て行く時もそうだったが、やっぱりちょっと恥ずかしい。しかし、ノリと勢いで何とかするのだ。頑張れ俺。


「さて、諸君。我々揺レ動ク者グングニルとしての初仕事だ。仕事内容は、糞尿に塗れた腐った蝙蝠の掃除。我らが同胞、真祖ストリゴイと真祖スンダル・ボロンはかつて、その国の王と姫であったが、欲に目をくらました真祖クズ共に裏切られた」


  本当は痴情のもつれみたいな感じだと思うど、それを言うと盛り下がるので、欲深き吸血鬼に裏切られたということにしておこう。


「そんなクズ共を放っておけるか?否!!我々は我々のやり方で復讐を果たそうではないか!!その圧倒的な力で、奴らの牙をへし折ってやれ!!二度とこの世に生まれ落ちたいと、思えないようにしてやれ!!慈悲などあたえるな!!持てる限りの力を持って奴らを殲滅しろ!!世界の主を喰らえ!!さすれば我が断片となる!!」


「「「「「「「血に錆びた槍の元に!!」」」」」」」


  言葉を話せる者は、“血に錆びた槍の元に”と、話せぬ者は咆哮をあげる。


  これが俺達揺レ動ク者グングニル、開戦の狼煙だ。


  さぁ、戦争と行こうじゃないか。






今日はもう1つ更新します。

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