腐った蝙蝠

  串焼きを食べた後、ベオーク達と合流するためにイスに乗って空を飛ぶ。指定位置は南側の山頂付近だ。ベオーク達の移動速度を考えると、2時間もあればその場所に着くだろう。


「ストリゴイの時は、近くに人間の国があったんだよな?」

「あったぞ。でなければ、攻めては来れまい。我が居た時は、この様な荒野になってはおらんかった」


  目的地に着くまでは暇なので、ストリゴイ達と会話をする。あぁ、如何にスマートフォンが暇つぶしの最強アイテムだということが分かるな。アレひとつで何時間でも時間が潰れると思うと、地球の文明って凄いんだなとしみじみ思う。


  身一つでこの世界に来たから、スマホは教室のカバンの中に置きっぱなしなんだよな。ポッケに入れておくんだった。


「でも、空から見た限りヴァンア王国には雨が降ってるよね?木がいっぱい生えてたし」

「おそらく、何らかの禁術の類を使ったのであろうな」

「禁術?確か、危険すぎる魔術だっけ?」

 

  花音が首を傾げる。確かに禁術は危険な魔術だが、正確には違う。


「正確には、この世界に多大な影響を与える魔術の事だな。そのどれもが世界に影響を与える都合上、その影響下にいるもの達が危険にさらされるからそういう認識になってるってロムスが言ってたぞ」


  禁術の響きだけで、ちょっと使えたらかっこいいんじゃね?と思ってロムスにどんなものがあるのか聞いた事があるが、ロクでもないものばかりだった。


  意図的に天気を変えるもの、死者の魂を再び死体に戻すもの、魂を別の肉体に移動させて実質的延命をするものなどなど。


  大抵の術には代償が大きくつくらしく、最初の天気を意図的に変えるもの魔術は、魂を半分削るらしい。


  俺としては、魂という概念がピンと来ないのでよく分からないが、魂を削る行為は寿命を削る行為と等しいそうだ。


「そのロムスとやらは、禁術の事を分かっておるな。おそらく使われた禁術は、天候操作タン・トリポテと言う禁術だ。代償は魂の9割だったか?」


  魂の9割って殆ど全部じゃん。そんなもの使ったら、その禁術を発動した者は間違いなく即死ぬだろう。


「ねぇねぇ。その魂はなんでもいいの?」

「どういう事だ?」

「例えば、ゴブリンの魂でもその禁術は発動できるの?」

 

  なるほど、確かに人間の魂とは一言も言っていない。ゴブリンの魂だけで発動できるとしたら、最早それは反則だと思うが。


  ストリゴイは何かを思い出すような仕草をした後、花音の質問に答える。


「できないことも無い。と言うのが回答だな。かつて、我の眷属が同じ事を思ってな。実験をした事があった。動物、魔物の魂で禁術は発動できるのかというものだな。結果だけで言えば、発動はできる。ただし、その魂の質によって威力が強まったり弱まったりした」

「魂の質?」

「そうだ。魂とは簡単に言えば魔力を内包する器だ。その器が大きければ大きいほど、魂の質は良いと言われている。団長の様に、化け物じみ魔力量を持っている魂は最上級の質を誇る魂というわけだ」


  へぇ、魂はそういう解釈なのか。ロムスの説明はよく分からなかったからな.......この世界に結びつく為の理であり、世界の干渉に必要不可欠な贄。また、神の理によって管理された世界の真理。とか言われても分かんねぇよ。もっと簡潔に言え。


「じゃぁ、質が低いゴブリンの魂で行った場合は、禁術の威力が低くなって、質が高いドラゴンの魂で行った場合は禁術の威力は高くなるってこと?」

「如何にも。団長の魂で天候操作タン・トリポテを発動した日には、世界の半分近くの天候を思うがままに変えれると思うぞ」

「やば」


  世界の半分は思うがままに天気を変えれるとか、神の領域に達してそう。もちろん、やる訳がないが。


  こうして、空の上で話しながらゆっくり飛ぶこと3時間。指定位置にした南側の山が見えてきた。


「ベオーク達はいるかな?」

「多分居るんじゃない?影の中を移動できるわけだから、障害物はあって無いようなものだし」


  いいよな。影の中を渡れるの。俺も影の中に入って、神出鬼没の暗殺者みたいなことやってみたいわ。


  ヴァンア王国から見えない位置に降りて、山を登る。あの島で鍛えた脚力は、いとも容易く山を踏破する。


「シャー!!」


  山を登り終えると、山頂でベオークが待っていた。この反応を見るに、情報収集は上手く行ったのだろう。


「お疲れ様。ベオーク。どうだった?」

『ちょろかった。誰一人として、ワタシたちに気づいていなかった』

「そりゃすげぇ。まぁ、本気で隠れたお前達を見つけるのは結構大変だからな。普段からめちゃくちゃアンテナ張ってるようなやつじゃないと、見つけるのはそうそう無理か」


  もしくは、異常に探知に優れた化け物か。ヴァンア王国には、いなかったようだけどな。


  俺はベオークを頭の上に載せると、登ってきた山を少し降りる。洞窟ではないが、崖が少し抉れて屋根のようになっている場所を見つけたのだ。雨風程度ならここで凌げるので、今日はここで野宿だな。


  日は既に落ちかけており、空を赤く染めている。後一時間もすれば、常闇に光る星々が見える頃だろう。


  俺達は、さっさと木の枝を集めると、火を起こす。これで明かりは確保出来たので、早速ベオーク達の成果を見せてもらうとしよう。


『はい、これ』


  ベオークから渡されたのは、厚さ10cm近くある紙の束だ。一体どれだけの情報を集めてきたんだよ.......


  しかも、この紙1枚1枚にびっしり文字が書かれている。ちょっと見るのを躊躇うレベルだ。


  あぁ、今からこれ全部確認してたら徹夜コースだな。でも、せっかくベオーク達が集めてきてくれた情報だ。見ない訳にはいかない。


  俺は覚悟を決めて、ベオーク達が集めた情報に目を通す。最悪、花音やストリゴイ達にも手伝ってもらお。と言うか、今から手伝ってもらおう。俺一人じゃ絶対無理。イスは、蜘蛛たちと遊んでてくれ。


  そして、資料を見始めて一時間後.........


「もう無理お腹いっぱい.........これ以上は入らねぇよ」

「すっごいねコレ。汚職のオンパレードだよ」

「1番上が腐りに腐ってるから、救いようがないなこれ」


  ベオークから渡された資料の10分の1が終わったのだが、その全てが汚職に関する資料だった。マジで終わってんなこの国。賄賂に横領、不作為や天下りなどが当たり前のように行われている。


  何がヤバいって、それを全く隠すことなくやっている事だ。こんな書面に残しちゃダメでしょ、ってものまである。権力闘争による暗殺計画や、人身売買。吸血鬼の場合は吸血鬼売買なのか?更には、でっち上げた犯罪履歴なんかもあった。


「素晴らしい国だなストリゴイ、スンダル。俺は、ここまで素晴らしい国を見たことがないよ。涙が出そうだ」

「あぁ、我も涙が出そうだ。ここまで腐っているとは思わなかった。臭いがキツすぎて耐えられん」

「ここまで臭ってくるわ。腐った蝙蝠の腐敗臭がね」


  ある程度は腐っていることを覚悟していたストリゴイとスンダルだったが、ここまで腐っているとは思っていなかったようだ。顔が死んでいる。


「わぁ、見て見て仁。人間牧場だって。どこからか仕入れたのかな?」


  花音が、とんでもない資料を見つけやがった。人間を飼い、生き血を安定して供給する為の牧場がある様だ。


  ちょっと見せてもらったが、人権?何それ?食えるの?美味しいの?状態だ。まぁ、家畜を育ててその肉を安定して供給している国が殆どらしいし、前の世界でも同じような事をやって俺達は生きていたので、それについてとやかく言うつもりは無い。


  吸血鬼はその種族の特性上、血を食料とする。ストリゴイ曰く、魔物や動物の血でも十分生きていけるらしいが、人間の血は格別に美味しいそうだ。嗜好品の1つとして、飼っているのだろう。


  問題は、この人間達はどこから流れてきたのかという事だ。どこかの国から買っているのか、それとも狩ったのか。


  もし買っていると、俺達には少々不都合だ。滅ぼすと問題が起こる。


  花音が今見ているのは、その人間牧場の管理人の汚職に関しての資料であって、人間の仕入先の話ではない。人間牧場に関する資料をここから探すのか.....


「ベオーク。この人間牧場の資料どこら辺にある?」

『3分の1は汚職に関しての纏めた資料だから、そこら辺には無い。仕入れや金の動きを纏めた資料は最後の方』

「ありがと」


  汚職だけで、1000枚近くある資料のうち3分の1もあるのかよ。あ、ストリゴイの顔が更に死んでる。


  これ、情報を纏める資料担当みたいなの欲しいな。ウチの傭兵団の面子だと、それが出来そうなのはアンスールやメデューサなんだが、2人だけだと足りないよなぁ。それに、2人とも戦闘要因として入ってもらってるんだし。


  ベオーク達に厳選させるのもいいが、負担が増えるのはあまりに気が進まない。やっぱり、情報処理担当みたいな人が欲しいな。


  そんなことを思いながら、黙々と資料に目を通しては他国との関係がないのかを探していく。


「人間牧場の人間は、仕入れた訳じゃなくてストリゴイ達を殺すときに手を組んだ人間達の末裔なのか。ストリゴイ達を倒した後に、そのままその人間国家を滅ぼして何百人もの人間を牧場送りにしたようだな」


  ようやく、人間牧場についての資料を見つけた。そこに書かれていたのは、共闘してストリゴイとスンダルを倒した人間達の末路だった。


  共闘を終えたその国は、1年後にモルモの眷属たちによって捉えられ、その大半は殺された。王族貴族の1部の権力者は皆殺しに。味が良かった血を持っていた人間を牧場送りにして、子を無理やり作らせたそうだ。


  そして、その子孫が未だにこの吸血鬼の国で家畜として飼われている。


  欲に目が暗み、欲に溺れたもの達の末路としては相応しいものだろう。ストリゴイ達と戦った人間の冒険者達は高い金で雇っただけで、その後直ぐに国を去っていたらしく。牧場に送られることは無かったそうだ。


  その後も夜が開けるまで、俺達は資料と睨めっこするのだった。めっちゃ疲れた........

 




明日からは1日1更新になります。昼の12時辺りに上げるので、よろしくお願いします。(1万pvありがとうございます!!)

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