天然物のKY

  異次元建築を見せつけられたあとは、情報収集の為にかつてストリゴイが建国した国、ヴァンア王国に向う。


  ドッペル曰く、今日中には建築が終わるらしい。もしかしなくても、俺たちが住むのはこの宮殿だろうな。こんなにデカい家は正直落ち着かないが、頑張って作ってくれた蜘蛛たちがいるのでそこは我慢しよう。


  そして今は、イスの背中に乗って空を飛んでいるところだ。


「初めてイスの背に乗ったが、中々良いものだな。鱗の心地よい冷たさが、なんとも言えん」

「本当にそうね。あの老耄達と違って、鱗に艶があるわぁ。若いっていいわねぇ」


  初めてイスの背中に乗る吸血鬼夫婦は、他のドラゴン達との乗り心地の違いを確かめていた。


  褒められたイスは、上機嫌に鳴きながら空を飛ぶ。


  現在はかなり上空を飛んでおり、下から見ても俺達は空を飛ぶ鳥の影程度にしか見えないだろう。


「南南西の国って言うと、11大国では何があったっけ?」

「うーん。確か合衆国だったかな?でも、かなり離れているはずだよ」


  吸血鬼夫婦が乗り比べをしている横で、俺と花音はヴァンア王国に近い国があったかどうかなど、記憶を呼び起こしている。


 後で調べれば分かる事だが、やることが無いのだ。一種の暇つぶしである。


『初仕事......初仕事......』


  ベオークは初めての本格的な仕事に緊張しているようで、俺の背中にずっと『初仕事』と書き続けいている。正直ちょっと怖い。なんか初仕事に呪われてしまいそうだ。


  だが、いまのベオークに何を言っても無駄なのは分かるから、とりあえず落ち着くまでほおっておく。まだまだ着くまで時間はあるのだ、心を落ち着けるだけの時間はあるだろう。


「あ、そうだ。ストリゴイ、お前達以外の真祖について教えてくれよ」

「ふむ。どうせ暇だしな。いいだろう」


  ストリゴイの話を纏めるとこんな感じ。


  先ずは真祖クドラク。この吸血鬼は人間の姿ではなく、黒い狼の姿をした吸血鬼だ。ストリゴイ曰く、戦闘能力はあまり強くない代わりに、眷属が強いらしい。下手をすると、作った眷属の方が強かったりするんだそうだ。


  真祖モルモの事が好きで、ずっとアタックしていたらしい。


  性格は割と素直なのだが、モルモの前では素直になれず暴言を吐いたりする様な態度を取っていたそうな。真祖と言うか中学二年生の思春期真っ盛りの男子じゃん。


  次は真祖モルモ。紫色の長い髪に青い目をした美人な吸血鬼。こちらも単騎性能はあまり高くなく、眷属が強いタイプの吸血鬼だそうだ。


  こちらは女王のような傲慢な性格をしており、自分に従わない者は即座に殺そうとするような奴らしい。


  ストリゴイの事が好きだったらしく、夫に来いと言われたのだが、ストリゴイはこれを拒否。そして、スンダルを選んだという訳だ。


  コレを聞いて俺は思った。これもしかして、痴情のもつれってやつ?


  クドラクはモルモの事が好きで、モルモはストリゴイのことが好き。モルモがストリゴイに告白するも、ストリゴイはこれを拒否してスンダルと結ばれる。


  話を聞く限りモルモは、「私と結ばれないならお前は死ね!!」と言いそうなタイプなので、ストリゴイに恨みを持つ。モルモの事が好きなクドラクはストリゴイが邪魔だったので、恨みを持つモルモと一緒にストリゴイを殺そうとする。


  よって反乱発生。


  うわぁ、物凄くありそうな展開だ。


「ねぇ、仁。もしかしてコレ昼ドラのような感じ?」

 

  花音も同じ結論に至ったらしく、吸血鬼夫婦には聞こえない声の大きさで耳打ちしてくる。


「多分な。昼ドラよりはドロドロしていないが、代わりに過激過ぎる。自分の男にならなかっただけで、一族皆殺しにしているようなものだぞ?しかも、人間と手を組んで」

「ある意味欲深いね........」

「しかも、男女関係って.......つくづく俺達と似ているな」

「他人事ではないね」


  全くだ。そしてその元凶たる人物は、金や権力に目が眩んだのでは?と思っている。鈍感なのか、それとも本当にその理由だったのか。


「俺は、痴情のもつれに大銀貨1枚だな」

「賭けにならないよ仁。私も同じなんだから」

「あ、やっぱり?」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


  空を飛び始めて4時間、ようやく目的地に着いた。


  下には街が広がっており、何も知らなければ普通の街だと思うだろう。それ程人間の街と作りが似ていた。


「ここが吸血鬼の国、ヴァンア王国か。日の当たらない国ってことは、ベオーク達が好きなように動けるな」

『頑張る』

「あぁ頑張ってくれ。ただし、無理はするなよ。見つかったら直ぐに逃げろ。幸いココは影だらけだ。逃げ道には困らない」

『分かった。無理なく焦らずやる』

「それでいい。1番の損失は情報を手に入れられない事ではなく、お前達が1人でも欠ける事だと言う事を覚えておけ。いいな?」


  ベオークは了解と言わんばかりに敬礼すると、イスの上から飛び降りる。ベオークの影には何万もの子供達がおり、それが吸血鬼の国から解き放たれる予定だ。


  ベオーク頑張って飛び降りたのを確認すると、俺達も動き出す。


「イス、ここら周辺、そうだな.......100km圏内を飛び回ってくれ。人間の街が近くにないか調べよう」

「キュア!!」


  イスは元気よく吠えると、ヴァンア王国を中心として円を描く様に飛び始める。この飛び方なら、見落としはそうそうないだろう。


「ベオーク達は大丈夫かな?」


  花音が心配そうに、ベオーク達が降りていったヴァンア王国を見ている。


  花音とベオークとの付き合いは2年近くになる。俺が死にかけたり、色々あった中でかなり仲良くなっている。簡単な意志の疎通なら、言葉だけで出来る程だ。


  その子供達とも交流を深めており、よく話しているところを見かける。


「心配ないだろ。ベオーク達には三匹一組で行動するように言い聞かせてある。上級魔物が三匹一緒にいてそうそう死ぬことはないさ」


  なんかフラグっぽい言い方になってしまったが、事実だ。完全に隠密した影蜘蛛シャドウスパイダー達を見つけるのは至難の技であり、俺ですら本気で探す必要がある。


  隠密に関しては、本当にスペシャリストなのだ。隠れんぼをやりたくない魔物第1位に上がるぐらい。


「心配していても仕方なかろう。我らがベオーク殿にしてやれる事は、今は無いのだ。ベオーク殿を信じ、我らは我らでやれる事をやるのだよ」


  ストリゴイが最もなことを言う。俺らがやらなければならないのは、ベオークの心配ではなく、周囲に人間の街などがあるかどうかを調べることだ。


  もし、近くに街があったのなら、そのに降りて話を聴く必要がある。この国はどこなのか、吸血鬼の国を知っているのか、知っているならばどの様な取引をしているのか、など。やらなければならない事は多い。


  それと、どう考えても一日では終わらないだろうから、寝れる場所の確保も行わなければならない。


「そうだね。私もこうやってベオーク達と離れることは無かったから、神経質になり過ぎているのかも」

「そればかりは慣れだ。副団長であるなら、仲間を信じて待つことを覚えろ」

「うん」

「まぁ信じた結果が、あの反乱だったのよねー」

「「「...........」」」


  いい感じに纏まった話を、スンダルが最後の最後でぶち壊す。空気を読むという言葉を知らないのだろうか。


  カッコよく決めたはずだったストリゴイは、顔をひきつりながらスンダルの肩を揺さぶる。


「スンダルや?我がカッコよく纏めたのに、何故それを壊す?」

「へ?私はただ事実を言っただけよ?」


  なぜ責められているのか分からない、といった顔だ。天然かよ。


「昔から、空気を読めと何度も言っているではないか。そのせいで、何度我が苦労したことか.......」

「え?私何かダメなこと言ったかしら?ねぇ、団長。どこがダメだったの?」

「強いていえば全部かな」


  タイミングも、言葉の選択も何もかもがダメだった。狙ってやってないならある意味才能だよそれ。


  ストリゴイは頭を抱えてなにかブツブツ言っているし、スンダルは何が悪かったのか分かっていないようで、クエスチョンマークを浮かべている。


  なんと言うか、いかにストリゴイが苦労しているのがよく分かるな。天然の嫁さんを持つと、とんでもないところからボディーブローが飛んでくることがよく分かった。


  ちょっと恥ずかしいもんな。俺が格好つけていいこと言った後に、その空気をぶち壊されるの。そら頭も抱えたくなるわ。


  俺はストリゴイにちょっと同情しながら、花音はそこら辺まともで良かったと思いながら、人間の街を探すのだった。


 

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