人の過去はそれぞれ

  スコリゴイの提案、“かつて自分が建国した国を滅ぼす”と言うとんでもない事を聞いた俺は、一瞬フリーズしてしまった。


  だが、直ぐに正気に戻ってストリゴイに質問する。


「どういう事だ?」


  俺の質問に、スコリゴイはポツポツと語り始めた。


「我が建国した国は、吸血鬼の集まった国。我ら真祖が生み出した眷属達が、さらに眷属を生み出して増えすぎた吸血鬼を纏めるための国だった。当時、4人いた真祖達は各地に散らばった眷属達を呼び集め、吸血鬼達が不自由なく暮らせる様に国を作った。それを率先してやっていたのが我だったから、我は王としてヴァンア王国の玉座に座ったのだ」


  そんな経緯があって、国ができたのか。文献だけでは知ることの出来ない世界の歴史だ。


  文献だけだと、ただ悪しき吸血鬼が治める吸血鬼の国としか書かれていないからな。そこにあった名前も、ストリゴイとスルダルの2人だけだ。残り2人の真祖は俺も知らない。


「建国当時は平和だった。人間の国と同じように、税などは敷いたが、それでも全ての国民が不自由なく暮らせる国だった。だが、次第にその平和の均衡は崩れていったのだ」

「欲か?」

「そうだ。吸血鬼であろうと人間であろうと、魔物であろうと、欲は誰しもが持つ物。贅沢な暮らしが欲しい。女が欲しい。力が欲しい。平和な国だからこそ、沸き起こったこの欲の深さをを我は見誤った」


  ストリゴイは、ここで一呼吸置いてため息を着く。その溜め息が、自分の愚かさに対してなのか、欲深き吸血鬼達に向けられたものなのか、俺には分からない。


「かつての同胞、真祖クドラクと真祖モルモによる国家転覆。それも、人間と手を組んで行われた反逆だ。綿密に立てられたその計画は、我とスンダルを瀕死にまで追い込んだ。そして、我らの眷属は皆殺しだ。その後、眷属達の死体がどうなったかは知らぬが、恐らく人間達に売られたのであろうな。吸血鬼の血はいい薬になる」


  なるほど、厄災級魔物であるストリゴイとスンダルをどうやって倒したのか気になっていたが、彼らと同等の力を持つ吸血鬼が居たなら納得だ。


  灰輝級ミスリル冒険者レベルの強者を単純計算で12人も用意するのは、現実的ではないもんな。


「その後、逃げ延びた我らは深い霧の中を彷徨い、あの島へと辿り着いた訳だが、こうして団長殿のお陰でこの大陸へと戻ってこれた。ならば、やられたお礼参りはしようと思ってな」

「要は復讐か。俺と変わらんな」

「ふはははは!!団長殿の様に綿密に計画を練った復讐では無いがな。運良く復讐の機会に恵まれたのだ。やらない手はないであろう?それに、我ら揺レ動ク者グングニルの前哨戦には良いかと思ってな。本格的に我らが動く前の予行練習としては、最適だと思うぞ?」


  確かに、この揺レ動ク者グングニルが本格的に動く前にある程度の予行練習は必要だと思う。だが、それが出来るかどうかは別問題だ。


  厄災級魔物達が集まって組織を作っているなんてバレた日には、間違いなく人間達と戦争になる。別にそれは構わないのだが、今そうなると少々不味い。


  出来れば、神聖皇国と正教会国の戦争が始まってから、俺達揺レ動ク者グングニルの存在はバレて欲しい。


「そのヴァンア王国は、どこにある?他国との関係は?」

「1日で調べられるわけがなかろう。お主の様に便利な眷属者おらぬしな。ただ、場所は分かっておる。今日行って帰ってきた」


  という事は、さほど離れてはいないのか。日帰りでストリゴイとスンダルが飛べる距離だと最大で2000kmあるかないかぐらいだな.........結構遠いわ。


「場所は?」

「ここから南南西に1500と言ったところだな。山に囲まれており、立地の関係で年中日陰な国だ」

「あぁ、日光対策か」


  真祖のストリゴイやスンダルが、当たり前の様に日の外に出ているから忘れがちだが、低位の吸血鬼は日光を浴びると灰になって消滅してしまうのだ。


  上位種になればなるほど日光から受けるダメージは減るが、完全に無効化出来るのは真祖だけだと言われている。


  後、銀もダメだ。真祖以外には銀も効く。その為、吸血鬼対策として銀の武器が何本か作られている。


「周りのに人間の国があるかどうかは、分からぬ。国の存在と、そこに居る吸血鬼達の気配を察知しただけで今日は帰ってきたのでな」


  調べる手段が乏しい上に、俺に頼んだ方が早いと判断したのだろう。ストリゴイやスンダルは隠密には優れてはいるが、それでもベオークとその子供達には敵わない。


  俺がどうしようかと悩んでいると、今までストリゴイの後ろでずっと黙っていたスンダルが口を開く。


「私からもお願いするわ。団長さん。この人が頑張って作り上げた吸血鬼の理想郷を壊した、あの真祖ゴミ達に復讐したい血祭りに上げたいのよ」


  .........なんか、言葉が重なって聞こえたんだけど。真祖と一緒にゴミって聞こえたし、復讐したいに重なって血祭りに上げたいって聞こえたんだけど。あれ?俺の耳がおかしい?


  スンダルを見るとにっこりと微笑んでいるが、その背中からは何か得体の知れないものが溢れだしている。これは、もしNOと言ったらこの場で俺を殺しに来るのではないだろうか。


「どうだ団長殿?」


  俺は考える。


  とりあえず色々と調べてみる必要があるな。もし、周辺国家と国交を結んでいるとすれば、滅ぼした後に影響が出る。誰がこの国を滅ぼしたのか調査に入られるはずだ。証拠を一切残さなかったとしても、1国を滅ぼせる存在、それも厄災級魔物と同等の力を持つ者が2体いても問題ない強者が暴れていることになる。間違いなく、他国も警戒が強まる。


  それによって、俺達が動きづらくなるかどうかは分からないが、なるべく懸念材料はなくしておきたい。


  だが、何もしないと、このままスンダルに殺される。復讐の機会は絶対に作らなければならない。


「まずは情報を集めよう。お前達の復讐の舞台は作ってやるが、今すぐかどうかはその情報次第だ。もし、他国との関係があった場合は、神聖皇国と正教会国との戦争が始まってから、他国との関わりが一切なく、ヴァンア王国が滅んでも誰も関心を示さないのであれば────」


  ここで一旦言葉を切り、ニヤリと口角を吊り上げる。


「有難く我々揺レ動ク者グングニルの前哨戦に使わせてもらおう。ついでに金品盗んでもいいよね?」

「構わぬぞ。全部団長殿の懐にでもしまっておけ」


  もしかしたら、これで金銭問題は解決できるかもな。個人的には、全く金を稼ぐ手段が思いつかないので、これで解決して欲しい。


  一国家分の金が手に入れば、相当な金額になるだろうからな。やってる事盗賊に近いけど。


  そうと決まれば早速行動と思ったが、既に日は沈んでいる。流石に今から何時間もかけて空の旅をする気にはならないので、今日は大人しく寝るとしよう。


「私達以外にも、あぁ言う過去を持ってる魔物もいるんだね」


  ストリゴイとスンダルが離れていった後、後ろで話を聞いていた花音が話しかけてくる。


  ちなみにイスは、話に飽きてアンスールと遊んでいた。まぁイスはまだまだ子供だから、こう言う小難しい話を聞いていても面白くないのだろう。


「そうだな。基本厄災級の連中は自分の過去を話したがらない。俺も無理には聞かない。それに、俺達よりも生きている年数は長いんだ。色々な経験をして、色々な過去を持っているんだろうさ」

「そうだね。私達も話したくない過去とかあるもんねー」

「パッと思いつくだけで、3つはあるな......」


  ちょっと馬鹿やって警察沙汰になった事とか、花音がブチ切れた事とかな.......


「俺達は基本、お互いの今を大切にするのさ。詮索屋は嫌われる」

「curiosity killed the cat.(好奇心は猫を殺す)ってね。昔の人はよくわかっているものだよ」

「全くだ。古き偉人の言葉から学ぶものは多いな」


  こうして、家を建てる音を子守唄として聴きながらイスと川の字になって眠るのだった。


  翌日。目を覚ますとそこには、ほぼほぼ完成している屋敷の様な豪邸が立っていた。


  外見は木造のヴェルサイユ宮殿だ。どうやって作ったんだこれ。色付けなどはしていない為、茶色一色の宮殿だが、それはそれで味がある。


  というかおかしいだろ。たった一晩でここまでできるものなのか?


  そんな事を思っていると、ドッペルがやってくる。


「オヤ?おはようございまス団長。どうデス?中々いい出来でショウ?」

「いい出来とかそういう次元じゃないんだが?どうやたら、一晩でここまで建てれるんだよ」

「実ハ、ベオークさんの子供達を借りましてネ。イヤァ楽でしたヨ。最初は、加工を自分1人でやっていたのですガ、ベオークさんの子供達の糸を使えばその粘着性で加工が楽になるのデハ?と思ったのですヨ。結果は大成功。単純な加工をした後ニ、糸をくっ付けレバあら不思議、複雑な工程を踏んで繋げた木よりも頑丈な造りが出来上がリ。建築チョロいですネ」


  確かに、ベオークの子供達があちこちで建築の手伝いをしている。手先は意外と器用だし、彼らが出す糸の粘着性はかなり強い。力も結構あるので、切り倒した木々を運ぶのもお手物。


  前々から気づいていたが、影蜘蛛シャドウスパイダーって結構有能だな。隠密優秀、暗殺優秀、建築優秀、頭も良くて文字は直ぐに覚えれる。うーん。普通に優等生。


「それでですネ。思ってたよりも簡単に家を建てれそうだったノデ、以前団長が言っていたヴェルサイユ宮殿とやらを作ってみようと思いまシテ」

「え?家はできてるの?」

「ハイ。あっちの方にありますヨ」


  ドッペルが指さす方向を見ると、確かに少し大きめの普通の一軒家が建っている。簡単な作りだが、しっかりとしたログハウスだ。


「ちなみに何時間で作ったの?」

「2時間ですネ」


  建築職人涙目不可避。もう、家建てる商売始めたらいいんじゃないかな?よし、ヴァンア王国を滅亡させることが無理そうなら、これを商売道具として金を稼ぐか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る